狐たちがお出迎えする結界の先の隠れ家、京都にある「狐菴(こあん)kissaCo」で、和菓子とお酒をペアリング
和菓子と日本酒をペアリングしてくれる不思議な喫茶店があるとの噂を聞きつけ訪れた「狐菴(こあん)kissaCo」。完全予約制の老舗「嘯月(しょうげつ)」と新進気鋭の「聚洸(じゅこう)」の和菓子がいただけて、珍しい地酒が揃い、マシューさんと呼ばれる店主がもてなしてくれるカウンターだけの喫茶店。敷居が高そうなイメージなのに、お菓子の持ち込み無料とは?期待を胸に潜入取材です。
こだわりのお店が集まる京都・紫竹エリアの隠れ家
「狐菴(こあん)」があるのは、臨済宗の大徳寺派の大本山「大徳寺」のお膝元。閑静な住宅街に紛れるようにある1軒の日本家屋が、その場所です。
ガラス張りの扉は広く開かれていて、覗き込めばここがお店だということはすぐにわかるのですが、知らないと通り過ぎてしまうかも。目印は神の使いといわれる、白狐。
中に入れば、野趣あふれる1本の無垢板でできたカウンター。大枝の和花と、着物姿で立つ店主、マシューさんにお出迎えされ、場違いなお茶席に迷い込んだような緊張感…。
土壁の割れ目に並ぶキツネたち。音もなく、静かにそれぞれの時間を過ごす先客のみなさん。メニューが一切なくて戸惑いますが、それも含めて時間と空間を楽しむのが粋。しばらく待っていると、マシューさんが注文を聞きにきてくれます。
お隣には和装の女性も。今日はひとりで来られているそうで、店のお客さんの半分程度がおひとりさま。旅行客の人がふらりと訪れることも多いそう。知らない土地で、こんなお店に入ったら、それこそ狐につままれた気分になりそうです。
京都の至宝、「嘯月」の上生菓子を日本酒で
「狐菴」のある界隈は、通好みの名店が点在。例えば、全国からファンが通うほど人気の和菓子店が2軒もあります。大正5年創業で、創業以来一貫して「店舗に商品を置かない」というこだわりを持つ「嘯月(しょうげつ)」と、伝統と格式を誇る京都・西陣の御菓子司「塩芳軒」の御子息が独立して開業された「聚光(じゅこう)」。どちらも予約をしておかないと買えないほどの人気店です。
「狐菴(こあん)」では、「嘯月」または「聚光」、運のいい日はその両方が用意されています。「今日の上生菓子はこちら」と箱の蓋を開けてみせられる瞬間のウキウキと浮き立つ気分。お菓子を選ぶと、それに合うお酒を数種、なぜオススメなのかの理由も一緒に提供してくれます。その話のひとつひとつが、造詣が深く、面白く、マシューさんのお話を聞くだけでも、行く価値があることに納得。
お薦めいただいた4本の中から“赤い日本酒”、京都府与謝郡「向井酒造」の「伊根満開」をチョイス。ロゼワインのような赤色は、染色ではなくて古代米(赤米)を醸して出てきた自然の色。愛らしい見た目のとおり、甘くて酸っぱい、フルーティーなお酒です。
取材の日は桜の季節。老舗漬物店が漬ける、塩漬けの桜を浮かべて春の風情を満喫。メニューがないので、内心冷や冷やしていたのですが、適正価格&明朗会計なので心配ご無用!
あんこのお菓子と日本酒はだいたいが合うけれども、たまにこれは合わない!というNGな組み合わせもあるそう。おすすめしてもらった他のお酒も今度来たら試してみたい…とまだ帰らぬうちから次に来る時のことを考えてしまう、不思議な魅力のあるお店です。
猫の最中とカフェオレと
もう一つ、お店に用意されているのが、これまたご近所で活躍されている「おやつaoi」のねこ最中。若い女性店主が1つずつ丁寧につくる評判の「3時のおやつ」です。
好きをとことん突き詰めるマシューさん、珈琲もそのひとつ。京都のコーヒー好きが、絶大な信頼を寄せる珈琲豆専門店「サーカスコーヒー」から、気候に合わせて豆を選びます。少し変わっているのは、カフェオレ一択ということ。ねこ最中や和菓子の乗る器は鴨川沿いの作陶家「今宵堂」の作品を使うなど、この界隈の魅力がぎゅっと凝縮されていて、引っ越してきたくなるぐらい。「お酒と和菓子」のイメージが強いですが、カフェオレも本当においしいです。
何を持っていこうか迷うのも楽しい、持ち込みのお菓子
こんな大人な雰囲気のお店に持ち込みするなんて、試されているようでドキドキですが、今回は、「亀屋清永」が400歳を迎えて記念に作られた「翔 SHOU」のいちじく味をチョイス。いちじくのプチプチがしっかりと感じられる洋菓子のような羊羹で、大のお気に入り。
「これ持ち込みです」と言えば、お皿に丁寧に盛り付けてくださいます。みなさん、思い思いのお菓子を持ち込まれているそう。持ち込み料は無料。
「これなら食べなくてもわかる」と、ささっとオススメの酒瓶が並びました。選ばれたお酒の特長などを伺って「ホォ~」と唸りながらも、(今度はもっと悩ませたい…)と変なチャレンジ精神が湧いてきたり…。旅行客の方は、地元の名産をお持ちになるそうで、それはそれで楽しそう。
お店オリジナルで使える「葉っぱのお金」もあるそうです。虫喰いの穴まで本当にリアル!次回の来店で金券のように使えますし、使用期限はないので、京都好きの友達がいたら、手土産と一緒に「この店、オススメよ」と葉っぱのお金をプレゼントするのも面白そう。ショップカードとしても使えますし、会計後にはロゴマークの部分を虫喰いに抜いて返してもらえるので、いい旅の思い出になりそう!
京都の楽しみ方もいろいろありますが、たとえば一人旅でこんな一風変わったお店にふらりと訪れれば、いつもの旅とは違う思い出が作れるはず。こんなキツネになら化かされてもきっと幸せです。
※最新情報についてはInstagramにてご確認ください。
Photo:Photo:photo scape CORNER.大﨑 俊典
text:小西尋子
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