【金沢で体験】ひがし茶屋街「雀」で一見さんOKのお座敷を体験!
茶屋建築が今も残り、まるで江戸時代に迷い込んだような雅な光景が楽しめる、金沢有数の観光地・ひがし茶屋街。かつてお茶屋だった建物群は、そのほとんとがカフェや雑貨店に様変わり。それはそれで楽しいのですが、お茶屋文化に一歩に踏み込んだ体験で、金沢をちょっと深く知りませんか。お茶屋さんは「一見さんお断り」が原則ですが、「雀(すずめ)」は一見さんOKでひとときの「お座敷体験」ができると聞き、編集部が行ってきました!通り一遍(いっぺん)では味わえない、奥深い素敵な時間が過ごせますよ。
Summary
金沢きっての観光地・ひがし茶屋街にあるお茶屋体験処
ひがし茶屋街は文政3年(1820)に、12代藩主・前田斉広(なりなが)が開設した茶屋街。江戸時代後期~明治初期の茶屋建築が90軒以上残ることから、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。写真はメインストリートの二番丁通りで、趣きのある2階建ての建物が立ち並んでいます。景観保護のため、看板は小さいですが、そのほとんどが飲食店かみやげもの店で、本来のお茶屋さんは数軒のみだそう。
「雀」は二番丁通りから1本南の路地に立っています。華やかな弁柄色で細かい格子戸の、典型的な茶屋建築。外からは中の様子が見えないので、入る前は少しドキドキします。
60年以上の踊りの経歴をもつふみさんは、お話も上手です
素敵な着物姿のふみさんが出迎えてくださいました。ご挨拶の後、まずはカウンター座敷で、ふみさんお手製の春菊の和え物と地酒をいただきながら、お話を伺います(飲めない方はふみさんにお酌します)。
ふみさんは4歳からひがし茶屋街で育ち、芸妓さんの踊りを間近で見るうち、5歳の時に日本舞踊を習い始めました。手ほどきを受けたのは、上品な踊りで「ひがしの名手」といわれた若柳吉童(わかやぎきちどう)氏。その後、若柳吉千賀(きちちが)氏に師事し、昭和55年(1980)若柳流名取に。
「踊れるうちに、ひがしのお座敷の匂いをお伝えしたい。とっちりと(じっくり)お話できる場に」と52歳の時に「雀」を立ち上げました。60年以上踊り続け、今日に至っています。
「子どもころのひがし茶屋街は、今と違ってお茶屋ばかりでした。朝は魚屋や八百屋、きせるの掃除屋さんなどの『どやけー』という御用聞きや、お掃除する女中さんの方言が飛び交い、大にぎわいだったんですよ」。ふみさんの言葉から昔の茶屋街の生き生きとしたさまが思い浮かびます。
実は最初にお酒を少し飲んでお話するのは、リラックスした状態で踊りを見てほしい、との思いから。ふみさんのにこやかな笑顔で、緊張はすっかりほぐれました。
ほっこり和んできたら、長い歳月をかけ育んだ踊りを間近で鑑賞
気持ちがほぐれてきたら、踊りの始まりです。「雀」のお座敷踊りでは、季節の風物詩や庶民の心意気、男女の機微(きび)などを、女おどり・男おどりの2種類で情感豊かに表現します。
訪れた日が晩秋だったので、まずは女踊りの「初雪」を披露してくださいました。客と若い芸妓が離れ座敷で落ち合ったところ、雪がしんしんと降り積もり…というストーリー。
息づかいを感じる程の近さで踊りを鑑賞します。ゆったりとしたたおやかな動きで、足さばき、指先もじつに細やか。見る者をうっとりとさせ、舞踊の世界へ導きます。
扇子使いも見事で、お相手がいないのにお酌しているよう。
もう一曲は男踊りで、ひがし茶屋街のお座敷で生まれ、今に伝わる「加賀鳶(かがとび)」。加賀藩お抱えの火消しを指し、そのいで立ちや心意気などを踊りで力強く表現します。先ほどの女踊りとは打って変わり、早さのある豪快な振り付けで、羽織の袖をまくりあげたり、クルっと早く回ったり、時には足を大きく上げたりして、「この火事は俺にかませておけ!」という場面などを表します。
写真は旗印である纏(まとい)の先をにらみ、「今から梯子(はしご)を登って、火消しに行くぞ」という心意気を表したシーン。
「手順を追うのではなく、加賀鳶の内容を理解することが大切です。なぜこの振り付けなのか、自分でかみ砕き、踊りで表します」ふみさんの言葉と踊りに、こちらも圧倒されっぱなしでした。
お座敷踊りはある時は女、ある時は男を2~3分の踊りで演じ分けます。弁慶や船頭、鰹(かつお)売りなどを演じることも。唄と三味線はテープですが、毎回躍る度に先人の演奏の重みと芸の深さが心に響き、だからこそ踊れるのだそう。
一歩踏み込んだ体験で、観光がより深いものに
「私には、“芸のひがし”といわれたひがし茶屋街で長年育まれた踊りを伝える思いがあります」「言葉で表現できないものを、動きと所作で表すのが躍り」「踊る姿は鏡で見ずに、心で見る」「お座敷やお稽古場以外、日常生活でもいつも芸妓」――踊りが好きで、踊りに生きるふみさんの言葉はどれも心に残る名言ばかり。
ほかにも姉さん方の恋話や芸妓さんのストライキ、冠婚葬祭でも芸妓さんが入って舞う金沢の慣習など、興味深い話は尽きそうもありません。
ふみさんが活けた山花には、気品と色香(いろか)が漂っています。「芸妓は話さなくても苦痛じゃない、『花のようにそばにいる』がモットーよ」。
ひがし茶屋街が「茶屋街」としてにぎわっていた昭和中期のリアルな話を聞いたり、伝統的な踊りを間近で見たり。うわべだけではわからない、ひがし茶屋街のストーリーにふれ、濃密な時間を過ごすことができました。「感動した!」と喜ばれるお客様も多いそう。難しいマナーは特になく、初心者でも楽しめる「雀」のお座敷体験。江戸時代からの文化が色濃く残る金沢を、より深く楽しむことができおすすめです。
■雀(すずめ)
住所:石川県金沢市東山1-15-7
TEL:076-251-4863
営業時間:13時~22時ごろ(2日前までの予約制)
定休日:不定休
料金:1人6500円(踊り2曲披露+お話で約1時間、貸切制、2名~)
Text:こばやしみもざ
Photo:小川康貴
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