秘境の山間集落にたたずむ茅葺き屋根の宿で過ごし、伝統農法で育った野菜と清流のアメゴをいただく【桃源郷 祖谷の山里(徳島県 三好市)】
徳島県美馬市、三好市、つるぎ町、東みよし町からなる「にし阿波地域」は、大部分を讃岐山脈と四国山地が占める緑深き山里。2018年には、急峻な斜面を利用して作物を育てるこの地域の伝統農法が世界農業遺産に選定され、独自の農業とともにある暮らしや食文化に注目が集まっています。今回の旅の目的地は、秘境とよばれる「祖谷(いや)のかずら橋」よりもさらに山深い場所にある落合地区。古民家が点在する急斜面の集落一帯は、2005年に国の重要伝統的建造物保存地区に選ばれました。古民家宿泊施設「桃源郷 祖谷の山里」に滞在し、昔ながらの祖谷の食と暮らしを体験します。
Summary
落合集落の散策を楽しんだあとは、
地元のお母さんが作る祖谷の郷土料理を味わって
桃源郷 祖谷の山里(宿泊)
「桃源郷 祖谷の山里」には、伝統工法に基づいて再生された古民家の宿泊施設が8棟点在しています。どの棟も以前は空き家でしたが、「桃源郷 祖谷の山里」プロジェクトにより、宿泊施設として生まれ変わりました。「天一方」「蒼天」「雲外」など、趣深い名前が付けられた宿は、元々民家のため、それぞれ眺望や間取りが異なるのもおもしろいところ。写真は、集落の上部に位置し、抜群の景観を誇る「天一方」。1棟を貸切で使うスタイルです。
目の前に祖谷の山々のパノラマが広がる「天一方」の中の間。祖谷の夏は、冷涼で爽やか。窓を開けて椅子に座れば気持ちよい自然の風を感じられます。秋は美しい祖谷の紅葉をこの特等席で。部屋の内部はリノベーションされ、エアコン・暖房も完備されているため、一年を通して快適に過ごせます。
「天一方」のキッチン&ダイニングは土間をリノベーションした空間。窓の外に広がる絶景と、風に揺れる木の葉の音を聞きながら食事やティータイムを楽しめます。ティータイムには、各棟に常備された「祖谷の番茶」を。手作業で作られた番茶の香ばしさと爽やかさを味わいましょう。キッチンにはIHヒーターや調味料や食器もあるので、地元の食材を調達して、旅仲間と一緒に地産地消をおいしく楽しむのも◎。
夕食には落合集落で生まれ育ったお母さん、新部ミサコさんの手作り料理が食べられるプランを予約しました。吉野川や祖谷川に棲むアメゴ(アマゴ)の焼き魚や、伝統農法で育てた「ゴウシイモ」と祖谷独特の固い豆腐「石(いわ)豆腐」の田楽、集落でとれた山菜の天ぷらなど。季節の郷土料理の数々が食卓を彩ります。どれも滋味深い味わいで体の内側から元気になれそう。天真爛漫なミサコさんのキャラクターも素敵で、時が経つのを忘れて話し込んでしまいました。
地元の飲食店のケータリングを頼むプランも選べます。今回のメニューは「そば道場」のもの。祖谷の気候はそばの栽培に適していて、地元では昔からそばが食べられてきました。内容は、香り高い祖谷そばと、そばの実を使った「そば米雑炊」を中心に、ゴウシイモなどの地野菜の天ぷらや煮物など、地元の味覚がたっぷり詰まっています。豪華なお重にもテンションが上がります(ケータリングの店は選べません)。
こちらは、集落の中腹に位置する「蒼天(そうてん)」のテラス。目の前に迫る山々の景色を眺めながら、お茶を飲んだり、朝ごはんを食べたり、おいしい空気の中、リラックスして過ごせます。朝食は付かないので、事前に購入しておきましょう。
宿のオリジナルプログラムのひとつ、「落合集落重伝建ガイドツアー」へ参加しました。案内してくれたのは、落合重要伝統的建造物群保存協議会の会長・南敏治さん。地元の人しか知らない道を歩いて出合う山里の風景は、息を飲むような美しさです。集落を一緒に歩きながら、江戸時代に建てられた伝統的な住宅、傾斜農法、手積みで詰んだ石垣など、険しい山間の地で暮らす人々が編み出した生活の知恵も教えてもらいました。
■桃源郷 祖谷の山里
住所:徳島県三好市東祖谷落合403
TEL:0883-88-2540
交通:JR大歩危駅から車で約1時間
チェックイン:15~18時
チェックアウト:10時
料金:宿泊料 天一方(1~6名で利用可)1泊素泊まり1万7400円~(4~6名利用時)
・地元のお母さんが作る郷土料理プラン グループ1万5000円(2~5名で要予約)
・ケータリング 3400円(要予約)
・落合集落重伝建ガイドツアー 10名まで7500円(所要1時間、要予約)
山間の秘境・祖谷川に架かる、
スリル満点の吊橋を渡る
祖谷のかずら橋(体験)
秘境・祖谷を代表する名所といえば祖谷川に架かる「祖谷のかずら橋」。かずら橋は、自生するシラクチカズラを編んで作られたこの地方独特の吊橋です。かつてはこの地に暮らす人々の日常の通行路でしたが、現在は観光名所となり、国の重要有形民俗文化財に指定されています。平家の落人がこの地に落ち延びた際、追手が来た時にすぐに落とせるように簡素な作りにしたという伝説も。
長さ約45m・幅約2m・水面上約14mの橋を渡ります。蔓は丈夫ですが、歩くたびにゆらゆら、足元の板の隙間からは祖谷川が丸見えで、スリル満点! 一方通行なので、引き返すことはできません。渡る際は必ずスニーカーなど歩きやすい靴で、ゆっくりと対岸を目指して渡りましょう。毎日19時~21時30分はライトアップされ、闇夜に幻想的な姿が浮かび上がります(ライトアップ中および夜間の渡橋は不可)。
「祖谷のかずら橋」に隣接する「かずら橋夢舞台」では、名物の祖谷そばをいただけるほか、祖谷そばの生麺やそばの実、祖谷の番茶、こんにゃく、すだち製品など、ここでしか手に入らない特産品を販売しています。外には「でこまわし」という地元の串料理やアメゴの串焼きを販売する露店も出ています。吊橋のスリルを味わったあとは、串を片手に休憩を。
■祖谷のかずら橋
住所:徳島県三好市西祖谷山村善徳162-2
TEL:0883-76-0877(三好市観光案内所)
交通:徳島自動車道井川池田ICから車で約1時間
営業時間:4~6月は8~18時、7・8月は7時30分~18時30分、9~3月は8~17時。ライトアップは19時~21時30分
定休日:不定休
料金:中学生以上550円、小学生350円、小学生以下無料
ケーブルカーで登るワクワク感!
標高約400mの「天空露天風呂」
新祖谷温泉 ホテルかずら橋(体験)
続いて、「祖谷のかずら橋」から車で数分の場所にある「新祖谷温泉 ホテルかずら橋」で、日帰り入浴を楽しみます。ケーブルカーで登る天空露天風呂のエリアには、男女の露天風呂をはじめ、展望所と足湯、茅葺き屋根の休憩所や散策路など、楽しめるエリアがいっぱい。祖谷の大自然に抱かれながらゆったりリラックスタイムを満喫しましょう。
標高約400mにある男性風呂「雲海の湯」から望む祖谷渓谷はまさに絶景。みずみずしい緑のシーズンも爽快な気分になれますが、11月頃には湯船から紅葉の渓谷美を堪能することもできます。泉質は単純硫黄泉。疲労回復や冷え性、関節痛や筋肉痛に効能が望めるとか。ゆっくり浸かれば移動の疲れも癒やせます。
祖谷川を望む展望台と、足湯からの眺めも抜群。ウォーターサーバーには、祖谷の湧水が用意されているのもポイントです。湯上がりに、清冽な湧水で喉を潤すのは最高の贅沢。足湯を楽しんだら、裏にある茅葺き屋根の休憩所で一服を。
■新祖谷温泉 ホテルかずら橋
住所:徳島三好市西祖谷山村善徳33-1
TEL:0883-87-2171
交通:JR大歩危駅から車で約15分。または、阿波池田駅からバスで約1時間10分のホテルかずら橋前下車すぐ
営業時間:10時30分~16時
定休日:無休
料金:日帰り入浴 大人1200円、6~12歳600円、3~5歳300円、3歳以下無料
※日帰りの場合、五右衛門風呂、貸切露天風呂は利用不可
武家屋敷の囲炉裏で、郷土料理や
串焼きを炙っていただく最高のひととき
武家屋敷旧喜多家・鉾杉(食)
険しい山道を登って辿り着くのは、平家一族が落ちのびてきたと伝わる東祖谷山大枝地区。この地区にある約250年前に建てられた祖谷地方最大の武家屋敷「武家屋敷旧喜多家・鉾杉」で、地元で生まれ育った都築麗子さんが作る郷土料理のランチをいただきます。
囲炉裏で炙られているのは、清流に棲むアメゴ(アマゴ)と、串に刺したゴウシイモと石豆腐に味噌を塗った「でこまわし」という料理。障子越しの絶景を見ながらの食事は格別です。
膳には、祖谷の郷土料理が並びます。歯ごたえのあるイモと豆腐に、山椒とニンニクで風味づけされた味噌をつけていただく「でこまわし」や、香ばしいアメゴの串焼きを中心に、祖谷そば、季節の山菜の天ぷら、鹿肉の竜田揚げ、こんにゃくの唐揚げ、傾斜地農法でとれた野菜のおかずなどが脇をかためます。素朴な調理法が、素材の濃厚な味わいを引き立てて美味。
ランチをいただいたあと、都築さんと一緒に隣接する森を散策していると、特別な存在感を放つ巨樹に遭遇。樹高約35m、樹周約11m。その生命力に思わず圧倒されました。平国盛(たいらのくにもり)が、鉾を奉納して鉾神社を祀るために植えたと伝えられています。
■武家屋敷旧喜多家・鉾杉
住所:徳島県三好市東祖谷山大枝43
TEL:0883-88-2040
交通:JR大歩危駅から車で約50分。または徳島自動車道井川池田ICから車で約1時間40分
営業時間:9~17時
定休日:冬期休業
料金:入場料 大人310円、中学生以下100円。ランチ5000円~(2名から受付、6日前までに要予約)
おしゃれな英国製自転車で、
吉野川沿いサイクリング
うだつの町並みポタリングツアー(体験)
美馬市脇町では、「うだつの町並みポタリングツアー」にチャレンジ。ナビゲーターに案内されながらイギリスの自転車ブロンプトンに乗って散策する、新しいスタイルの町歩きを楽しみます。コースは、約2時間から、丸1日かけるものまでさまざま。所要時間や行きたい場所、体験したい内容に合わせてアレンジしてくれるので、リクエストを伝えましょう。相棒となる自転車を選んだら、いざ出発!
まずは、藍商人の町として栄えた「うだつの町並み」をぶらぶら。商家の屋根にはこの町並みの特徴でもある「うだつ」が見られます。「うだつは装飾を兼ねた防火壁。作るのにはお金がかかったため、『うだつが上がる=景気がいい』という言葉の語源になったんです」。ナビゲーターの話に興味津々。国指定重要伝統的建造物群保存地区に指定された商家の町並を歩いていると、タイムスリップしたかのような錯覚に陥るから不思議です。
「うだつの町並み」に軒を連ねる商家の商人は、吉野川の舟運を利用して藍の染料を運び、商いをしていたそう。その河川敷は、車の通りがなく、見晴らしもよく、自転車で疾走するには最高のロケーション。奥には、この地方独特の欄干のない潜水橋があります。潜水橋を渡ると対岸のJR穴吹駅に到着です。
■うだつの町並みポタリングツアー
住所:徳島県美馬市脇町脇町123
連絡先:info@awa-re.com
交通:徳島自動車道脇町ICから車で約10分。またはJR穴吹駅から車で約10分
営業時間:9~17時
定休日:不定休
料金:6000円~(2名から。要予約)
地元民もめったにお目にかかれない
幻の郷土料理にチャレンジ!
ひらら焼きワークショップ(体験・食)
三好市池田町の地域交流拠点施設「真鍋屋」では、祖谷地方の幻の郷土料理「ひらら焼き」を味わえるワークショップを開催しています。
「ひらら焼き」とは、河原で探した平たい石(ひらら)を鉄板変わりにし、その上に大量の味噌で土手を作り、その中でアメゴやゴウシイモやこんにゃくなどを煮込むもの。野趣あふれるおもてなし料理にチャレンジしてみました。
ワークショップでは、「ひらら」の代わりにスキレットを使います。オリジナルの味噌を、スキレットのヘリに塗って、土手の代わりに。アメゴや鶏肉、ジビエ、ゴウシイモやこんにゃく、伝統農法で育った野菜などの具材を並べたら、だしを入れて煮込みます。ぐつぐつと沸き立って香ばしい匂いがしてきたら食べ頃。やさしい味噌味が染みた食材は、ご飯にもお酒にも相性抜群です! 最後にご飯を投入してチーズをトッピングすれば濃厚な味わいのリゾットのできあがり。
三好市にある、中和商店、三芳菊酒造、芳水酒造という3つの日本酒の蔵元と、2021年に誕生したばかりのNatan葡萄酒醸造所というワイナリーのお酒の飲み比べをオプションで追加することもできます。写真は右からNatan葡萄酒醸造所のロゼワイン「quvi」、芳水酒造の純米吟醸「淡遠」、三芳菊酒造の純米吟醸「織絵」。説明を聞いて、自分好みの3種類を選んでみて。
■ひらら焼きワークショップ
住所:徳島県三好市池田町マチ2226-3-1
TEL:090-7629-3000
交通:JR阿波池田駅から徒歩約10分
営業時間:11~18時
定休日:火曜
料金:2500円、お酒飲み比べ付き3500円(2名から。7日前までに要予約)
●店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。
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