【石川】金沢の街を歩いて巡る美術館『KAMU kanazawa』で現代アートに出合う旅

© Leandro_Erlich

【石川】金沢の街を歩いて巡る美術館『KAMU kanazawa』で現代アートに出合う旅

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加賀前田藩の時代から伝統工芸が育まれ、北陸を代表する歴史と文化の都市として賑わう石川県金沢市。金沢21世紀美術館を中心に、日本屈指の現代アートを楽しめる街としても人気です。そんな金沢の街を歩きながら、現代アート作品に出合える美術館『KAMU Kanazawa(カム カナザワ)』をご紹介します。

Summary

金沢市中心部に点在する美術館『KAMU kanazawa』

金沢駅からバスで約10分。金沢市の中心部である香林坊周辺に、現代アートの私設美術館『KAMU kanazawa』があります。この美術館の特徴は作品を鑑賞する展示室が街のあちこちに点在すること。巡る順番に決まりはなく、来館者はアート作品にいざなわれるように金沢の路地を自由に進み、アート作品の鑑賞と、路地散策を交互に楽しめるのです。

アート巡りのスタート地点『KAMU Center』

『KAMU kanazawa』のすべてのスタートは金沢21世紀美術館にほど近い広坂にある『KAMU Center』から。ここでチケットを購入し、B4サイズのミュージアムブックレット「B4」を受け取り、記載された地図を見ながら街なかに点在する5つの展示室と3作品の屋外展示作品を訪れる仕組みです(所要時間は1時間半程度)。ブックレットはカラー版とモノクロ版の2種類があり、カラー版は毎日先着で15~20人程度がもらえるという希少なもの(写真はモノクロ版)。サイズが大きいので、街を歩いていると同じように『KAMU kanazawa』を巡る人たちが一目でわかり、街全体が大きな美術館のような気分になります。

 © Leandro_Erlich Courtesy of KAMU kanazawa
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『KAMU Center』はスタート地点かつ、メインスペースであり、3フロアに渡って作品が展示されています。1Fは金沢21世紀美術館のアイコン的作品《スイミング・プール》で知られるレアンドロ・エメリッヒ氏の作品《INFINITE STAIRCASE》。一見、螺旋階段を見下ろすようなビジュアルですが、実際に作品に向き合うと、階段のサイズ感、上下左右の方向間隔が揺さぶられます。とまどいつつも、私たちが普段いかに固定観念のなかで生活しているかを実感できる体験です。

 © Stephanie Quayle Courtesy of KAMU kanazawa
© Stephanie Quayle

2Fはイギリスのマン島の豊かな自然のなかで創作活動を続ける作家、ステファニー・クエール氏による動物彫刻作品の展示。

 © Stephanie Quayle
© Stephanie Quayle

作品に近寄ると粘土の造形に作家の手の動きを感じ取れる荒々しく躍動感のある輪郭ですが、少し離れると生きた動物が目の前にたたずんでいるような錯覚をするほどに生命力を感じられるのが、とても不思議で魅力的です。展示室内には思わぬところにも動物が隠れているので探してみてはいかがでしょう。ベンチもあるので、立ったり座ったり、さまざまな距離感でゆっくりと作品に向き合ってもいいかもしれません。

© Takuro Kuwata
© Takuro Kuwata
© Takuro Kuwata
© Takuro Kuwata

3Fの展示は伝統的な陶芸技術を用いつつ、今まで見たことがないような新しい陶芸の領域の作品を生み出し続ける日本人陶芸家、桑田卓郎氏の作品です。焼成する際に陶土に含まれた石が器の表面に現れる”石爆(いしはぜ)”、器に塗られた釉薬が焼くときに縮れて独特の表情になる梅華皮(かいらぎ)などの伝統的な技法を使いつつ、釉薬の鮮やかな色彩と金属的な輝きをまとった器からは、とても華やかでパンクな印象を受けます。器は見る角度で表情が変わるので、作品の周囲をゆっくり回りながらその変化を楽しめます。

白山の水やさまざまな循環に思いを馳せる『KAMU k≐k』

© Ayako Suwa
© Ayako Suwa

『KAMU Center』から徒歩5分ほどにある『KAMU k≐k』は、石川県出身のアーティスト諏訪綾子氏の作品《TALISMAN in the woods》を展示。「循環」をテーマにした作品で、金沢をはじめとする石川県内の水の供給源である白山の山中から採取した杉の枝葉を束ねた”タリスマン”と呼ばれるオブジェが暗闇の中に吊り下げられています。会場には同じく白山の杉から抽出した香りが放たれ、樹を逆さにしたような”タリスマン”の先には、湛えられた水が。さらに作家の心臓の鼓動をサンプリングした音が暗闇のなかに響き渡り、作品を介して白山と金沢という都市を繋ぐさまざまな循環に思いを巡らせます。作品は2年間の期間限定で展示され(2023年12月23日まで)、時間をかけて枝葉から水分が抜けた”タリスマン”は、最終的に再び白山に還されるそうです。

闇の中で音と光を全身に浴びる『KAMU BlackBlack』

© Ryoichi Kurokawa
© Ryoichi Kurokawa

にぎやかな竪町商店街にある『KAMU BlackBlack』で体験できるのは、オーディオヴィジュアルアーティストの黒川良一氏による光と音による作品《Líthi(レーテー)》。幅3m、高さ7m、奥行き20mの細長く真っ暗闇の空間に、音、ストロボライト、レーザー光線が飛び交います。日常生活ではほとんど経験することないレベルの暗闇と、そこに飛び交う光と音を全身に浴びるのは束の間の異世界体験。作品名の「Líthi(レーテー)」は”忘却”を意味するそうで、その名の通り、それまでの日常が頭から消え去り真っ白になる感覚になります。展示室を出て商店街の喧騒の中を歩きつつ、ゆっくりと日常に戻る頭の中で「今の体験はなんだったのか」と自分なりに考えるのもアート作品に触れる魅力ですね。

映像作品を通じて自らの存在を見つめる『KAMU SsRgi』

© Simon Fujiwara
© Simon Fujiwara

香林坊の交差点から少し入った用水路が流れる気持ちのいい小道「せせらぎ通り」にある『KAMU SsRgi』では、イギリス人作家サイモン・フジワラ氏によるストップモーションのアニメーション映像作品《Once Upon a Who》が上映されています。白いクマの「who」が自分とは何者なのかを探すために旅に出るストーリーで、約5分間の映像には、ジェンダーや人種、国籍、周囲の環境などをはじめ、大量生産品を身につける意味、コロナ禍で世界とつながる窓口になったスマホの中の人格など、私たちのアイデンティティを形作るさまざまな要素が示唆的に登場します。展示空間はサイモン・フジワラ氏自身の設計によるもので、青のカーペット、黄色のスツール、ピンクのソファは映像に登場する色調と合わせているそうです。一人ひとりがそれぞれ違った要素でできた“自分”である私たちは、作品を見終わって金沢の街に戻るとき、どんなことを感じるでしょうか。

香林坊交差点地下道にたたずむ約30年前のメッセージ

©Angela Billoch
©Angela Billoch

街中に展示される作品は、公共空間にも。香林坊の交差点地下道には、アンジェラ・ブロック氏によるインスタレーション作品《環境と開発に関するリオ宣言 -持続可能な開発の27の原則》が展示されています。今から約30年前の1992年にリオ宣言をそのままポスターにしたもので、テキストを読んでみると、現在SDGsとして唱えられていることとほぼ同じ内容であることに気づきます。世界はこの30年間で何が変化したのだろうか、という思いに駆られる作品です。

写真作品に包まれるバー空間『KAMU L』

© Daido Moriyama
© Daido Moriyama

『KAMU L』で出合えるのは、都市の路上を歩き続け、ストリートスナップの名手として知られる写真家、森山大道氏による真っ赤な唇の写真がバーの内側を埋め尽くす作品《Lip Bar》です。入った時の強烈なインパクトの後には、艶めかしい無数の唇を通じて世の中の欲望を体感しつつ、周囲を写真に包まれることで1枚の写真が複製され、拡散していく写真というメディアの特性も感じることができます。美術館開館時間帯の11~18時は鑑賞のみですが、2023年4月下旬~5月上旬からコロナ禍で休止していた夜間のバー営業(21~26時予定)を再開予定。
※詳細は『KAMU kanazawa』公式サイトを参照

『街中電柱』で街と写真の境目を行き来する

© Daido Moriyama
© Daido Moriyama

各美術館を結ぶ金沢の街中には、18カ所の電柱看板に写真家、森山大道氏の作品《唇:エロスあるいはエロスではないなにか》が設置されています。『KAMU L』の《Lip Bar》と同じく、唇に関係する作品で、繁華街の路上の一部となった作品に気づいた途端、写真を中心に金沢の街並みが変化して見えてくるのが不思議です。一貫して路上を撮り続ける森山大道氏の写真が金沢の路上に拡散し、溶け込むことで、街自体が作品になるような感覚を覚えます。昼と夜、時間帯によって見え方が変化する楽しみも。

ネオン街とアートが融合する夜『金沢新天地』

© Daido Moriyama
© Daido Moriyama

最後は昭和の香りを色濃く残す金沢随一の繁華街「金沢新天地」の街並みに森山大道氏の写真作品が入り混じる屋外展示《Brightness/Contrast》です。個性的な飲食店が連なるネオンサインたちの中に、ライトボックスに森山大道のモノクロ写真が浮かび上がっています。

© Daido Moriyama
© Daido Moriyama

新天地に足を踏み入れた瞬間、目の前に広がるネオンサインと写真からなる光景は、思わず歓声を上げてしまうほどのインパクト。

© Daido Moriyama
© Daido Moriyama

展示されているのは森山大道氏の代表的な作品《三沢の犬》など、強い印象を残す写真が多数選ばれており、初めて森山作品を見る人にとっても忘れ難い体験になりそうです。

金沢の街を巡りながら現代アート作品に出合える美術館『KAMU kanazawa』。作品を鑑賞している時だけではなく、美術館を出た後、そして金沢の旅から戻った後など、日常のふとした瞬間に出合った作品のことを思い出すかもしれません。あとからゆっくりと自分の中に作用してくるのも美術館巡りの醍醐味です。そんな現代アートとの出合いを探しに、金沢に出かけてみませんか。

■KAMU kanazawa
住所:石川県金沢市広坂1-1-52 KAMU kanazawa
開館時間:11~18時
閉館日:月曜(月曜が祝日の場合は営業)
入館料:1,100 円(全スペース共通チケット)小学生以下無料
URL:https://ka-mu.com/

Text:江本典隆(JTBパブリッシング)
Photo:広瀬久哉

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