【長野県】小谷村(おたりむら)の古民家レストラン「NAGANO」で、信州の美味に出合う
世界的旅行ガイドで4年連続1つ星を獲得した、東京・代々木上原のレストラン「sio(しお)」。その姉妹店が、2023年7月、白馬村のお隣、長野県小谷村にオープンしました。築140年の趣ある古民家で、小谷村や長野で育くまれてきた食文化を、sio流に昇華させた料理が堪能できます。夜のコースはもちろん、昼限定の究極ともいえる鮭定食にも注目です!
Summary
自然豊かな小さな村にポツンとたたずむ、趣あふれる古民家レストラン
長野県小谷村は、新潟県との県境にある、自然豊かな小さな村です。グリーンシーズンはハイキング、ウィンターシーズンはスキー客で賑わい、栂池(つがいけ)高原ゴンドラリフト駅から車で5分ほど。静かな山の集落に、レストラン「NAGANO」はあります。
茅葺き屋根の古民家をリノベーションした建物の玄関には、風に揺れる真っ白い暖簾が。暖簾に描かれた向かい合う2羽の鳥の家紋は、運営する「sio」と長野の人々が力を合わせる様子を表現しています。
目の前を通る千国街道は、その昔、敵であった武田信玄の領土に上杉謙信が塩を送ったとされる古道「塩の道」だそう。「塩の道」と「sio」に縁を感じたことから、上杉家の家紋「竹に二羽飛び雀」から着想を得て家紋をデザイン。生活に欠かせない塩のように、長野にとって「sio」がかけがえのない存在になりたい、という思いが込められています。
こちらの古民家は、2017年に小谷村が買い取ってリノベーションしたもの。「sio」を率いる鳥羽周作シェフが2022年、中部山岳国立公園・栂池自然園で提供するお弁当をプロデュースしたことがきっかけで、ここを“小谷村の人たちと一緒に作り上げるレストラン”として蘇らせました。厨房で腕をふるうのは、鳥羽シェフのもと奈良のすき焼きレストラン「㐂つね」で料理の技を磨いた、長野県上田市出身の白木聡シェフ。スタッフとともに小谷村に移住し、村の人たちから畑づくりや伝統的な食材へのアプローチを日々教わりながら、「地元の食文化の魅力を伝えていきたい。」と言います。
洗練された空間と沢のせせらぎに癒される、贅沢なひととき
暖簾をくぐって建物に入ると、右手にはかつて牛を飼っていたという土間が広がります。正面にある現代的な半オープンキッチンから漂う香りとライブ感に、思わず胸が高鳴ります。
高い吹き抜けに、飴色に燻された大きな梁。近くの骨董道具店から譲り受けた古い箪笥などの家具と、モダンな照明、近くに咲く可憐な野の花が、古民家に美しく溶け込んでいます。テーブルや椅子は、広島「マルニ木工」のもの。洗練されたデザインと座り心地のよさを兼ね揃えていて、長時間過ごしていても快適です。
余白のある空間の使い方もまた贅沢。ゆったりとした2名掛けのテーブル席と、個室が2つあります。個室の内、1室は足が下ろせる掘りごたつスタイルです。客席は、現在のところ1階の20席のみ。2階は干した野菜やワインなど食品の貯蔵スペースになっていて、今後は2階の個室も計画中だそう。
レストランにBGMはなく、聞こえてくるのは目の前を流れる沢のせせらぎだけ。なんと粋で贅沢なことでしょう!大自然に抱かれた心地いい静けさの中、料理への期待が一層高まります。
皮はパリッパリ、身はふっくらジューシーな感動のランチ「鮭定食」
ランチタイムは平仮名で「ながの」として営業するこちらのレストラン。メニューは、「sio」をはじめその系列店で人気を博した、鮭定食ただ1品のみ。“おいしい”の基準を引き上げたい、と考える「sio」では、鮭定食といういちばん身近なメニューでいかにインパクトを与えられるかと、本気で考え抜き、ブラッシュアップを重ねて辿り着いたのが、この新しい鮭定食です。
定食の主役であるノルウェー産の銀鮭は、フレンチの技法を用いて、前日から時間をかけて皮を乾燥させます。フライパンで皮目をじっくり焼き切ったあと、繊細な温度コントロールのもとオーブンで火入れ。すると、皮は驚くほどパリッパリ、身はふっくらジューシーに!これまで何百回と食べてきた焼き鮭の頂点に躍り出るような、惚れ惚れする味わいです。添えられた大根おろしは、鮎の魚醤とホワイトバルサミコ酢で味付けされています。鮭と合わせて味わえば、さっぱりとしたうま味が口中にジュワリとあふれていきます。
もうひとつの主役は、炊きたてのご飯です。使うお米は、風味がよく甘味の強い小谷村産「ゆめしなの」。極限まで水分量を減らしたこだわりの炊き方で、うま味を最大限に引き出しています。具だくさんの白味噌豚汁は、だしの利いた奥深い味わいがたまりません。
小鉢には、こっくりとした味わいでごはんが止まらない鳥羽シェフ直伝の肉じゃが、長野の郷土食「塩丸イカ」と野菜を合わせた柚子酢味噌和え、ご近所の塩漬け名人・相澤つたゑさんに教えてもらった塩漬け山菜の煮物などがお目見え。
最後に、マスの卵を自家製の特製醤油だれで漬け込んだ「黄金イクラ」をごはんにのせ、だしをかけてさらさらっといただきます!ぷちぷち弾力あるイクラとやや硬めのごはん、ほんのり甘いだしがよく合い、大満足のシメとなりました。
夜は10品のコースで、長野の奥深い美味を堪能
ディナーは、10品2万円のおまかせコースのみ。小谷村の草木や塩漬け野菜、そば粉、生ハムなどを使用し、小谷村と長野県各地の食文化を見事なプレゼンテーションで楽しませてくれます。今回は取材した日のディナーを一品ずつご紹介します!
始めに、塩味を抑えた小さなスープが登場。小谷産の蕎麦の実とカツオだしの風味が、胃をほっこりと温めてくれます。
スタートの八寸は、季節感と香りを楽しむひと口サイズの三品。左から、ビーツとフランボワーズのサラダをのせたサクラマスと桃のタルト、フォアグラのテリーヌと季節のジャムをサンドした玄米味噌のサブレ、薄皮のおやき(茶の子)。おやきの中には鹿肉と野沢菜のボロネーゼ入り。プレートのまわりには季節の野草をあしらって。
小谷産のそば粉で作るガレットには、バナナのサラダ、鯖の干物、レバーペースト、キャビア、玉ねぎジャムを包んでいます。香りのいいサマートリュフと、白ワインとパセリのヴァンブランソースで。
ひんやり冷凍状態で供される、キュウリの糠漬けとシャインマスカット。さっぱりみずみずしいお口直しの一皿。
ジャガイモの煮っ転がしをペーストにし、ラビオリに。小谷村の山間で放牧された希少な小谷野豚(おたりのぶた)の生ハムと、鉄板で香ばしく焦げ目をつけたオクラとともに。
小谷村に自生するアザミを甘く煮て、バター香る濃厚な紫米のリゾットに。上はさっぱりとしたトレビスのサラダ。
8時間かけてじっくり火入れした稚鮎のコンフィは、大葉とレンコンのピクルスを巻いて。頭も肝も丸ごと味わえます。
メインは、信州黒毛和牛のヒレ肉。桑の葉などで作る草塩と黒ニンニクのソースで。エディブルフラワーのピクルスが味にも彩りを添えます。
小谷産「ゆめしなの」の玄米と白米を炊き上げ、マイクロ三つ葉や木の芽、ビーツの葉など、ハーブをふんだんに。
長野県大町市の酒蔵の酒粕を使ったチーズケーキ。下はチーズクラッカー、上にはキウイに似たサルナシのジャム、ハート型がかわいいカタバミの葉を。
小谷村に自生するクロモジのフローラルな香りを移した自家製ミルクジェラートは、あと味すっきり。塩気のあるクランブルと一緒に。
沢のせせらぎの音に癒される山あいの古民家で味わえるのは、長野の恵みが詰まった、目でも舌でも楽しめる美しい料理と、ホスピタリティあふれる心尽くしのサービスでした。
わざわざ出かける価値がある、この店を目当てに旅したくなる。そんな古民家レストラン「NAGANO」で、心踊るような食体験をぜひ堪能してみてください。
■NAGANO(ながの)
住所:長野県小谷村千国乙832-4
TEL:0261-88-0590
営業時間:11時〜14時30分(13時30分LO)、17時〜22時30分(19時30分LO) ※昼・夜ともに要予約
定休日:火〜木曜
Text:塚田真理子
Photo:松本千尋、塚田真理子
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