【熊野古道 紀伊路】インフルエンサーYURIEさんが有田市や湯浅町の歴史や文化に触れながら歴史街道を歩く
「紀伊山地の霊場と参詣道」として世界文化遺産に登録されている熊野古道。名前を聞いたことはあっても、実際に歩いたことはない…という方も多いのではないでしょうか。熊野古道とは京都・大阪・和歌山や伊勢など各地から紀伊半島南部の熊野三山へと至る古い街道の総称ですが、今回はその一つ「紀伊路」のなかから、歩きやすく気軽に行けて、歴史や当時の文化に触れられるコースをご紹介。アウトドア系インフルエンサーのYURIEさんがJR紀伊宮原駅から湯浅駅まで約7kmの道のりをご案内します。
Summary
みかん畑が広がるエリアも!熊野古道 紀伊路ってどんなルート?
今回歩くルートを解説する前に、まず熊野古道って何?というところから簡単におさらいしましょう。古代から中世にかけ、「熊野本宮大社」「熊野速玉大社」「熊野那智大社・那智山青岸渡寺」の熊野三山の信仰が高まり、上皇・貴族から庶民まで、多くの人々が熊野をお参りしていました。熊野古道とは、人々が暮らしている場所から熊野三山へと続く参詣道のことで、当時は徒歩で長い道のりを旅していたのです。
熊野古道には、和歌山県の田辺市から熊野本宮へ向かう中辺路(なかへち)、田辺市から海岸線沿いに熊野へ向かう大辺路(おおへち)、高野山から熊野本宮へ向かう小辺路(こへち)などがありますが、今回ご紹介する紀伊路(きいじ)も熊野古道の一部で、京都の鳥羽離宮(現在の城南宮)から淀川を下って大阪に入り、和歌山市、海南市、有田市などを通るルート。その後は中辺路、大辺路との分岐点であり、紀伊路の終着点である田辺市を経て熊野三山へと向かう、かつてのメインルートの一部です。道中では主に12世紀から13世紀にかけて、参詣途上に儀礼を行う場所として整備された「王子」とよばれる神社も巡ることができます。
紀伊路の特徴は、現在の和歌山市から田辺市に至る道程に伊太祁曽(いたきそ)神社、藤白神社、道成寺など、由緒ある社寺や、藤白坂、糸我峠など、万葉集をはじめとした有名な和歌が詠まれた景勝地が点在していることです。もちろん険しい山道もありますが、風光明媚で比較的温暖な和歌山の土地柄ゆえの、のどかな景色が広がる農林地帯を抜ける道や、和歌山の特産品でもあるみかん畑のなかを抜ける小道など、穏やかで心洗われる景色に出合えることも楽しみの一つです。
歩きやすい道で初心者にもおすすめ!紀伊宮原駅~湯浅駅のコース概要をチェック
今回ご紹介するのは、JR紀伊宮原駅〜湯浅駅までの約7㎞で、所要時間は見学等を含め3時間45分程度のコース。急坂の峠を一つ越える以外は比較的平坦で歩きやすい道が続き、初心者向けであるにもかかわらず、みどころが豊富なのも特徴です。日本最古のお稲荷さんといわれる「糸我稲荷神社」や、見晴らしのいい有田川沿いの景色が広がる「糸我峠」、重要伝統的建造物群保存地区にも選定されている湯浅の町並みなど、短い距離のなかにみどころがまんべんなくあることで、飽きることなく最後まで楽しめますよ。
熊野古道 紀伊路歩きのお供に、「熊野古道紀伊路押印帳」を持って行くのもおすすめです。押印帳は熊野古道ウォークを楽しむためのアイテムで、主に道中の歴史的な史跡や社寺などにスタンプが設置されており、押印帳に記載された全スポットのスタンプを集めると、「踏破証明書」がもらえます。「熊野古道紀伊路押印帳」は、沿道の市町や観光協会などで配布されているほか、和歌山県公式観光サイトからダウンロードできます。また、和歌山県観光振興課(TEL:073-441-2424)に送付を依頼することも可能なので、気になった方はぜひ問い合わせてみてください。
道中のみどころはココ!伝説が伝わる寺や歌に詠まれた里山も
スタートはJRきのくに線の紀伊宮原駅。JR和歌山駅からきのくに線で約40分、大阪・天王寺駅から阪和線ときのくに線を乗り継いで約2時間の場所にあります。木造の駅舎がレトロでかわいいJR紀伊宮原駅から、熊野古道の標識に従って左折、住宅地のなかを抜けて600mほど進み、国道480号に出ると目の前に雄大な有田川の流れが現れます。ここからは、道中に点在するみどころを紀伊宮原駅側から順にご紹介します!
1. 宮原の渡し場跡
最初のみどころは、昔、渡し場があった場所に立派な宮原橋が架かる「宮原の渡し場跡」。宮原橋北詰の東側には「渡し場跡」の碑が立っており、その手前、国道の北側では札場の地蔵が見守っています。有田川の増水で宮原の渡しが中止になるとそこに川止めの札が立てられたそうです。
上流は紀北屈指の清流として知られ、有田市を通って紀伊水道へと注がれる有田川に架かる宮原橋。約500mある橋の上からは、周囲の山々や美しい川の流れを眺めることができます。有田みかんで有名な有田の里山ののどかな風景も堪能できますよ。
■宮原の渡し跡(みやはらのわたしあと)
住所:和歌山県有田市宮原町宮原の渡し場跡
電話:0737-22-3624(有田市観光協会)
徒歩約15分
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2. 得生寺
宮原橋を渡って有田川沿いを歩き、再び住宅街のなかへと進むと、向かって右手に中将姫(ちゅうじょうひめ)の伝説が残るといわれる「得生寺」が見えてきます。美貌と才能に恵まれた中将姫が継母に殺されそうになった時に、家臣にかくまわれた場所として知られる歴史ある寺で、広々とした境内の最深部に堂々とした本堂が立っています。
境内には、紀州藩の初代藩主が熊野古道を整備した時に造った一里塚もあり、まさにこの地が熊野古道の一部であったことを、改めて想起させてくれます。また、境内の随所に写真のような格言を掲げた看板があり、それぞれに含蓄のある言葉が書かれています。
■得生寺(とくしょうじ)
住所:和歌山県有田市糸我町中番229
電話:0737-88-7110
営業時間・定休日:参拝自由
徒歩約5分
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3. 糸我稲荷神社
京都・伏見稲荷神社より約60年も前に創建されたとの資料が残っていることから、日本最古の稲荷神社ともいわれる「糸我稲荷神社」に到着。境内は周囲を覆うように木々が茂り、神聖な空気が満ちています。
「糸我稲荷神社」の境内には、樹齢500〜600年ともいわれる大楠が立っています。有田市指定の文化財にもなっている神社の御神木で、境内のなかでも独特の存在感を放っており、この御神木に直に触れてパワーをもらっていくという人も多いのだとか。YURIEさんも実際に触れることで何かを感じたようです。
また、神社に隣接する「くまの古道 歴史民俗資料館」には、藤原定家の日記など、熊野古道に関する興味深い資料が展示されているので、ぜひ立ち寄ってみてください。「熊野古道紀伊路押印帳」もここで押すことができます。また、ここを過ぎるとしばらくトイレがないので、こちらで済ませておくのがおすすめです。
■糸我稲荷神社(いとがいなりじんじゃ)
住所:和歌山県有田市糸我町中番329
電話:0737-88-7093
営業時間・定休日:参拝自由
徒歩約10分
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4. 糸我王子
次に、13世紀初頭頃からの長い歴史をもつ「糸我王子」にお参りします。この王子社は近世に一度、廃絶されていたものを1995年に再建したもの。広場の片隅の小さな社を、背後の山肌に生える木々が覆いかぶさるようにして守っているような、趣きあるたたずまいが印象的です。ルートはここから、いよいよ「糸我峠」へ向けて急な上り坂へと続いていきます。
■糸我王子(いとがおうじ)
住所:和歌山県有田市糸我町中番
電話:0737-22-3624(有田市観光協会)
営業時間・定休日:参拝自由
徒歩約30分
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5. 糸我峠
「糸我峠」へ向けては、このコース唯一の急な上り坂を進みます。道の両側にみかん畑が広がる舗装道路から、峠の手前数百メートルは地道(未舗装路)を歩くことになります。勾配は急ですが、一般的なスニーカーで充分歩くことができる道なので、初心者の方もご安心を。
峠を越えると、湯浅の町へと下る坂道に。道路に覆いかぶさるように茂るアーチ状の樹木が、まるで湯浅町への入場ゲートのようで、写真映えスポットとしても人気の場所になっています。向こうには湯浅の町並みが広がっています。
■糸我峠(いとがとうげ)
住所:和歌山県有田市糸我町・湯浅町吉川
電話:0737-22-3624(有田市観光協会)
徒歩約20分
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6. 逆川王子
湯浅の町へと続く竹藪のなかの急な坂を下り、平坦な道へ出て数百メートル進むと、和歌山県指定の史跡で、江戸時代には吉川村の氏神として祭られていた「逆川王子(逆川神社)」に着きます。「逆川王子」の名前は、周辺の川が海に向かって西へと流れているのに、王子の前を流れる川だけが海とは逆方向の東に向かって流れていることに由来しているといわれています。
境内には古来の形を今に伝えているといわれる祠があり、さっそくYURIEさんも石段を上って、王子社にお参りしました。数百年もの長きにわたり、多くの参拝者が旅の安全や日々の安寧を願って、この王子社を訪れたことにも思いを馳せながら、しっかりとお祈りしてきました。
■逆川王子(さかがわおうじ)
住所:和歌山県湯浅町吉川
電話:0737-22-3133(湯浅町観光協会)
営業時間・定休日:参拝自由
徒歩約10分
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7. 方津戸峠
「逆川王子」から、緩やかな坂道を上り、弘法大師が見つけたと伝わる「弘法の井戸」を右手に見て、さらに100メートルほど進むと、「方津戸峠(ほうづととうげ)」に着きます。峠にはお地蔵さんが祭られており、旅に疲れた旅人を優しい表情で出迎えてくれます。江戸時代に、湯浅醤油の製造が盛んになってきたころ、この峠で正装した湯浅の商人と、紀州藩の役人の間で湯浅醤油の売上金の受け渡しも行われたという、この地がまさに湯浅町の玄関口であったことを示すエピソードも残っています。
「方津戸峠」周辺にはみかん畑もたくさん!全国的にも名高い有田みかんの産地では、シーズンになると山肌を埋め尽くすように多くのみかんが実っている様子を見ることができます。
■方津戸峠地蔵尊(ほうづととうげじぞうそん)
住所:和歌山県湯浅町栖原
電話:0737-22-3133(湯浅町観光協会)
徒歩約20分
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8. 北栄橋
「方津戸峠」を下り、山田川沿いをしばらく歩きます。「北栄橋」までの川沿いの道やその周辺は、昭和レトロな面影を残す商店や、みかんの無人販売所などもあり、思わずシャッターを押したくなる写真映えするポイントがいっぱい!
■北栄橋(ほくえいばし)
住所:和歌山県湯浅町湯浅
電話:0737-22-3133(湯浅町観光協会)
徒歩約10分
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9. 道町の立石道標
湯浅の旧街道に入ってしばらく歩くと、天保9年(1838)に建てられた2.35メートルの大きな石の道標があります。「道町の立石道標」といわれる四角い石の面には、東西南北の方角と「きみゐでら(紀三井寺)」「すぐ熊野道」「いせかうや(伊勢高野)」などと、巡拝地名が記されており、各地へ巡礼する人々の道しるべとなっていたことが分かります。
■道町の立石道標(どうまちのたていしどうひょう)
住所:和歌山県湯浅町湯浅
電話:0737-22-3133(湯浅町観光協会)
徒歩約10分
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10. 湯浅駅旧駅舎・湯浅米醤
ゴールは2020年に新駅舎が完成したJR湯浅駅。新駅舎の隣にはリニューアルされて、建物内に「湯浅米醤」という店舗が入っている「湯浅駅旧駅舎」があります。「湯浅米醤」はかまど炊きご飯で作るおむすびや、湯浅醤油だしが香るそばなどがいただける食堂と、テイクアウトでおむすびや米ソフトなどが買える売店があります。食堂で注文したメニューや売店で購入した商品はいずれも、レトロモダンな雰囲気がおしゃれな「湯浅駅旧駅舎」内の好きな場所で食べられます。
今回はおむすび2つに加えて豚汁や和歌山の名産品・金山寺味噌などが付く「おむすび定食」を堪能しました。おむすびは、シラスや梅、金山寺味噌など地元の名物を使った具材などから好みのものをチョイスすることができるうれしいシステム!かまどでふっくら炊き上がったご飯をにぎったおむすびは、旅の疲れを癒やしてくれます。
■湯浅駅旧駅舎(ゆあさえききゅうえきしゃ)・湯浅米醤(ゆあさべいしょう)
住所:和歌山県湯浅町湯浅1075-2
電話:070-9133-0737
営業時間:10〜17時(売店)、11時~14時(食堂)
定休日:1月1日(変更の場合あり)
徒歩約10分
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【立ち寄りスポット】湯浅重要伝統的建造物群保存地区
最後に、今回のコースからは少しそれますが、せっかく湯浅まで来たのだからと周辺の湯浅重要伝統的建造物群保存地区を散策。近世から近代にかけて醤油や金山寺味噌の醸造で栄えた醸造蔵などが並ぶ町並みは歴史情緒満点の場所で、つい時間が経つのも忘れて散策を楽しめるような場所です。湯浅醤油は、鎌倉時代に伝来した金山寺味噌を造る過程で生まれたといわれており、その後、紀州藩の手厚い保護を受けて繁栄、文化年間(1804〜1818)には92軒もの醤油醸造家が湯浅で営業していたといいます。現在、醤油醸造家は大幅に減少したものの、当時の面影を残す町並みが残っています。
■湯浅重要伝統的建造物群保存地区(ゆあさじゅうようでんとうてきけんぞうぶつぐんほぞんちく)
住所:湯浅町湯浅
電話:0737-22-3133(湯浅町観光協会)
いかがでしたか?今回YURIEさんとともに歩いたコースは熊野古道紀伊路のなかでも比較的歩きやすく、みどころが豊富なコースです。JRの駅から駅までのコースなので、アクセスも便利。ゴールに「湯浅米醤」の、ふっくらおむすびというご褒美が待っているのもうれしいですよね。歴史や風景を楽しみながら手軽に歩けるコースなので、ぜひ気軽にでかけてみてください!
【熊野古道を歩く際の注意】
●旅行の際は、ゴミ、喫煙、環境保全等のマナーを守りましょう。
●歩行ルートに適した服装・準備を心がけましょう。
●歩行時間を考慮して、計画を立てましょう。
Text:能勢太郎
Photo:YURIE、能勢太郎
●店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。変更される場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください
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