【富山】2024年10月運行開始!「黒部宇奈月キャニオンルート」
2024年10月、黒部峡谷鉄道欅平駅と黒部ダムを結ぶ「黒部宇奈月キャニオンルート」が運行を開始します。これまで、「立山黒部アルペンルート」の立山駅または扇沢駅からのルートしかなかった黒部ダムへのアクセスに、新ルート「黒部宇奈月キャニオンルート」が加わります。今回、富山県の宇奈月温泉で前泊し、黒部峡谷鉄道欅平駅から黒部ダムへ抜けるルートを取材してきました。「黒部宇奈月キャニオンルート」は、今まで作業員のみしか通れなかった工事用ルートを一般開放したもので、5つの乗り物を利用してアクセスします。
Summary
【宇奈月駅~欅平】富山県からのルートの起点は名湯・宇奈月温泉から
四方を山に囲まれた宇奈月温泉は、黒部峡谷の玄関口にある富山随一の温泉街で、黒部峡谷鉄道沿線の黒薙温泉から湯を引いています。日帰り利用可能な宇奈月温泉総湯や足湯もあり、黒部の大自然を描いた絵画を展示するセレネ美術館といった観光スポットや、グルメも楽しめます。
「黒部宇奈月キャニオンルート」の出発点である欅平駅へは、宇奈月温泉にある黒部峡谷トロッコ電車の宇奈月駅からトロッコ電車に乗車して向かいます。
黒部峡谷トロッコ電車が走るのは北アルプスに深く刻まれたV字峡。崖にへばりつくように走るトロッコ電車から見る景色は絶景です。宇奈月駅からはいくつものトンネルと橋を渡り、ガタゴト揺られて約1時間20分で終着駅の欅平駅に到着。ここからいよいよ「黒部宇奈月キャニオンルート」の旅が始まります。
■黒部峡谷トロッコ電車
住所:富山県黒部市宇奈月温泉
TEL:0765-62-1011(黒部峡谷鉄道お客さまセンター、9~17時、12~3月は~16時)
営業時間:宇奈月駅始発8時17分、欅平駅終発16時43分※時期により変更あり
定休日:12月~4月下旬(シーズン中無休)
駐車場:駅前駐車場利用350台(有料1日1000円)
【欅平~竪坑エレベータ-】 トンネルを抜けた先に広がる後立山連峰を見渡す絶景
欅平駅からは5つの乗り物を乗り継いで黒部ダムに向かいます。「黒部宇奈月キャニオンルート」は黒部川第三・第四発電所の建設で整備された約18kmのルートで、欅平駅からは工事用トロッコ電車に乗り換え、トンネル内を約5分走行します。
「欅平下部」で工事用トロッコ電車を降りると、その先にあるのは、竪坑エレベーターです。岩盤ばかりの山中を垂直に掘削して作られたルートで、荷物を積んだ巨大な貨車がそのまま入れる大きさ。エレベーターの床にもレールがひかれています。4.5トンの資材を一度に運ぶことができ、人だけの場合は36人まで乗車可能。すぐ横には6人用のエレベーターもありました。
竪坑エレベーターは、昭和15年(1940)に完成した仙人ダム建設時に、人や資材を運ぶために造られた輸送ルートで、急峻な地形のため鉄道ではなくエレベーターが設置されました。標高差200mを約2分で移動し、「欅平上部」に到着します。
「欅平上部」から徒歩で約5分、竪坑展望台に到着。展望台は、標高1543mの奥鐘山全景や標高2903mの白馬槍ヶ岳など、後立山連峰を見渡せる絶景スポットです。ずっとトンネルの中にいたので、新鮮な山の空気を胸いっぱいに吸い込んでリフレッシュできました!
【蓄電池機関車・高熱隧道~仙人谷】 過酷な工事現場として小説にもなった高熱隧道に潜入!
絶景を見た後は「欅平上部」に戻り、今度は蓄電池機関車に乗って高熱隧道に向かいます。高熱隧道は昭和11年(1936)から始まった黒部川第三発電所工事で最難関だった場所です。隧道には高熱の断層があり掘削時に岩盤温度が160度を超えたため、作業員に水をかけながら工事を進めたそう。ほかにもダイナマイトが自然発火し爆発、雪崩で宿舎ごと飛ばされるなど、過酷な現場としてドキュメンタリー小説にもなっています。
現在も隧道内は40度ほどあるため客車は耐熱式です。周辺には硫黄の臭いが立ちこめ、蓄電池機関車の窓もすぐ曇ってしまいます。窓の曇りを拭きながら隧道の壁を見てみると、黄色い硫黄がびっしりと付着し、岩が盛り上がっているのがよく分かります。
終点に近い場所で案内役の人が、「2002年NHK紅白歌合戦の中継で、中島みゆきさんがここで『地上の星』を歌いました」と、撮影場所を教えてくれました。
「欅平上部」から約35分、高熱隧道を抜けると蓄電池機関車終点の仙人谷です。標高859mの鉄橋から険しい山々が迫る雄大な景色が見渡せます。手前に仙人ダム、その奥には落差165mの滝も見え雄大な景色が広がります。
【黒部川第四発電所】 「黒部ダム」の心臓部ともいえる黒部川第四発電所を見学
高熱隧道の終点・仙人谷で降り、仙人谷に架かる鉄橋を歩いて進むと黒部川第四発電所があります。立山連峰と後立山連峰に挟まれた黒部川の上流に位置し、豊富な水量を利用して水力発電が行われている「黒部ダム」の心臓部ともいえる場所です。国立公園内にあることから自然環境保護や、地形や気候、積雪、雪崩といった厳しい自然条件から守るため、発電所は地下に建設されています。発電所は内部見学が可能で、黒部川流域のジオラマがある部屋では、電力不足による電源開発の長い歴史を学ぶことができます。
ここでは、水力発電で実際に使用されている直径3.3mのペルトン水車が展示されています。水が流れる落差の力を利用し、1分間に360回も水車が回転するそう。昭和36年(1961)の運転開始から高度経済成長期の日本の電力を支えてきました。黒部川第四発電所は遠隔監視によって、ほぼ無人化されています。
【インクライン】 急勾配を巨大な台車が静かに進むインクライン
黒部川第四発電所からはインクラインという乗り物を利用するため、インクライン下部へ向います。インクラインのルートも竪坑エレベーターと同じく、急峻な地形のため強固な岩盤をくり抜いてトンネルを掘っていて、大型の機器などを運べるようになっています。
傾斜鉄道ともいわれる「インクライン」は、傾斜がある路面で貨物を運搬する台車のことをいいます。日本では京都の蹴上インクラインが知られていますが、キャニオンルートのインクラインは大量の資材と作業員を運ぶため4.5tのビッグスケール。2台の台車をつるべ方式で昇降させ、大型機器なども運びます。長さ815m、高低差456m、斜度34度の急な傾斜をインクライン下部から約20分で、インクライン上部に着きます。
【黒部トンネル内バスとタル沢横抗】 個性的な乗り物だけではない途中見られる素晴らしい景観も魅力
「インクライン上部」からは、最後の乗り物、黒部トンネル内バスに乗り換えします。バスで約10.3km走ると、「黒部ダム」はもうすぐ近くに!
途中、タル沢横抗というところでバスはいったん停車し、下車します。ここには横抗があり、暗いトンネル道を先に進むと視界が急に開ける展望台に到着です。富山平野の反対側から剱岳を眺められるスポットで、登山者も憧れる「裏剱」の勇姿が見られます。
「黒部宇奈月キャニオンルート」は地中内を進む個性的な乗り物も魅力ですが、途中には雄大な山々の景観を見られる場所がいくつかあって、乗り物以外の楽しみもあります。
【黒部ダム】 高さ日本一のアーチ式ダム「黒部ダム」に到着!
バスは無事黒部ダムに到着。目の前にはエメラルドグリーンの水をたたえた「黒部ダム」の景観が広がっています。高さ186m、堰堤の長さ492m、日本最大級の巨大なアーチ式ダムは、7年の歳月と、のべ1000万人動員した世紀のプロジョクトで、完成までには多くの困難がありました。ダム堰堤には殉職者171名の名前を刻んだ慰霊碑もあります。
黒部峡谷鉄道欅平駅と黒部ダムを結ぶ新ルート「黒部宇奈月キャニオンルート」へは、各旅行会社が企画する旅行ツアーに参加する方法のみです。前泊または後泊がセットになった1泊2日のコースが基本で、価格は1人13万円程度(宇奈月発第2便の想定販売金額)です。旅行商品の販売開始時期などは公式HP(https://canyon-route.jp/)で確認してみてください。
■黒部ダム
住所:富山県中新川郡立山町芦峅寺
TEL:0261-22-0804(くろよん総合予約センター)
営業時間:7時30分~17時
定休日:12月~4月中旬(シーズン中無休)
駐車場:扇沢駐車場700台(無料350台、有料350台)
※2024年3月現在、令和6年能登半島地震の影響とみられる落石で黒部峡谷鉄道の鐘釣橋が被害を受け、トロッコ電車の全線開通が不明のため、旅行商品の販売が延期されています。詳細は黒部宇奈月キャニオンルートのホームページhttps://canyon-route.jp/でご確認ください。
Text&Photo:沖﨑松美
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