【おとなのソロ部】北千住「タカラ湯」でひとり銭湯!昭和にタイムスリップした気分で銭湯文化を学びつつ縁側でととのう
疲れが溜まっていると感じたら、ふらりと行く「ひとり銭湯」はいかがでしょう。近所の銭湯もいいけれど、足を延ばして見知らぬ街の銭湯で新たな発見をするのもおすすめです。今回訪れたのは、銭湯が今も数多く残る北千住エリアの「タカラ湯」。昭和13年(1938)に建てられたという見事な門構えに加え、「キングオブ縁側」と称される日本庭園を臨む立派な縁側、昭和の風情が残る開放感と清潔感のあるお風呂…。数々の魅力で、老若男女に愛されています。銭湯文化を体感しながらのんびりと湯に浸かり、最高のととのいを体験しにでかけましょう。
Summary
入浴前からレトロな銭湯文化を体感できる!
「タカラ湯」が位置するのは、足立区の北千住駅から徒歩約20分の場所。約20分と聞くと結構歩くなあという印象がありますが、駅から続く北千住の商店街を楽しみながら歩くと、そこまで遠さを感じることもありません。最寄りのバス停「千住桜木」からは徒歩約5分で訪れることができます。
到着すると「ここが銭湯!?」と立派な宮造りの建物に驚かされます。建てられたのは、昭和13年(1938)。内装や設備は何度かリノベーションされていますが、外観にはほぼ手が加えられておらず、建築当時のままだそう。「関東大震災の後ぐらいから、都内ではこういった神社仏閣のような千鳥破風を採用して建てられた銭湯が流行ったらしいんですよね」と、三代目の松本康一さん。ちなみに「タカラ湯」の創業は、この建物ができる10年ほど前の昭和2年(1927)のことだとか。昭和13年(1938)に松本さんのおばあさんがこの建物を建てたそうです。
入り口では、随所に銭湯文化を感じられます。こちらの弓矢のオブジェは、江戸時代から銭湯で使われていたもの。だじゃれ好きな江戸っ子が「弓を射る」と「湯に入る」をかけて、弓矢が銭湯に掲げられるようになったそうです。
銭湯の入り口では、このような「わ」と書かれた板を見ることがあります。「わ」の「いた」=「わいた」で、「お湯が沸いた」=営業中を意味します。しゃれの聞いたこの看板が銭湯で使われるようになったのは比較的最近のことで、銭湯芸術家・ウエハラヨシハルさんによるものだそうです。
のれんの上部には、七福神が宝船に乗る様子が一枚木に透かし彫りされています。葛飾の柴又帝釈天の門前にある仏具店によって掘られたものだそうで、とても立派です。
入り口には、設備を説明する看板が。このレトロな感じがかわいい!ピンク文字で書かれた「お風呂は良く暖まる」のメッセージにほっこりします。「ペンギン風呂って何だろう…」という疑問は、お風呂に入ると解決するので入浴時までのお楽しみにとっておきましょう。
入り口だけでも、銭湯文化を存分に感じられます。中に入り、番台で入浴料520円を払います。現在では各種二次元バーコードでの決済も可能に。脱衣所以降は自販機がないため、水分が必要な場合はこちらで購入しましょう。
番台では入浴にまつわる備品が販売されています。思い立ってふらりと訪れたときは、1回分のシャンプー・コンディショナー・ボディソープ・タオルがセットになった「手ぶらセット」130円が便利。
昔、銭湯には「三助」とよばれるお客さんの背中を流す役割の人がいました。その三助が背中流しの注文を受けると、男湯で受けた場合は拍子木を1回、女湯で受けた場合は拍子木を2回鳴らしたといいます。現在はこの風習はなくなってしまいましたが、これにちなんで、男湯ののれんの上には拍子木が1つ、女湯ののれんの上には拍子木が2つ掲げられています。
こちらが女湯の脱衣所です。何回かリノベーションしているというだけあり、昭和の風情を残しつつも、清潔感があります。約6mもあるという高い格子天井が、まさに銭湯文化を感じさせます。大きな柱時計も味わい深いです。
実は、「タカラ湯」のアイコンでもある縁側があるのは、男湯側のみ。裸で縁側でくつろぐことができるのは残念ながら男性のみですが、毎週水曜には男湯と女湯の入れ替えがあるんです。縁側狙いの女性は、水曜に訪問を。
脱衣所には、不思議な引き戸が。これは、脱衣場で裸になってから番頭さんを呼ぶ際の名残だそう。現在ももちろん使うことができ、たまに使われることもあるとか。ちょっとした部分に銭湯文化が感じられるレトロな風情ある脱衣場で、入浴の準備をします。これは、浴場の中も期待できそう!楽しみです。
昭和レトロな浴場と見事な縁側で、もの思いにふける
こちらが女湯(水曜は男湯)。正面には銭湯文化でおなじみの、富士山のペンキ絵が見られます。こちらは、銭湯絵師・中島盛夫さんによるもの。女湯の富士山は山頂が黄色く塗られ、隣に少し見える男湯の富士山は山頂が白く塗られています。浴場の天井はさらに高く、なんと8mほどだとか!開放的な空間でゆっくりと湯に浸かることができます。
レトロでかわいらしいタイルの色使いもポイント。さらに、女湯のタイルには、イベントで使われたイラストが描かれています。「タカラ湯」ではイベントも多く行われています。イベントごとのスケジュールは、随時SNSでチェックを。
入り口看板の「ペンギン風呂」の答えが、ここにありました。ペンギンのオブジェからお湯が出ていることから「ペンギン風呂」とよばれていたんですね。女湯・男湯ともに、湯船はバイブラ装置のついた座風呂、赤外線風呂(超音波風呂)、電気風呂、日替わり薬湯、ゲルマニューム水風呂があります。お湯は熱めの44~46℃に設定されていますが、かつては飲料用であった井戸水を使用しており、肌あたりがやわらかいと評判です。
薬湯と水風呂の壁には、印象的な地獄絵図が描かれています。これは、閻魔大王が祭られている北千住の勝専寺にちなんだもの。こちらもイベントのプロジェクトで掲げられたものだそう。
縁側は男湯に備えられていますが、女湯にはサウナがあります(男湯にはサウナはなし)。サウナの定員は3名ほど。サウナストーンにセルフロウリュができるフィンランド式サウナなので、熱すぎずじわじわと温まることができます。
水曜は男湯と女湯が入れ替わるので、女性は縁側を楽しみたい日は水曜に、サウナを楽しみたい日は水曜以外に訪れるといいでしょう。
男湯側からは縁側と庭園を眺めることができます。一代目であった松本さんの祖父が庭師をしていたことから、ここまで立派な庭になったのだそう。「今はまだ緑が落ち着いていますが、春から夏にかけて勢いよく芽吹くので、都度剪定をしています」と三代目の松本さんは話します。
気になる縁側に出てみました。今回は撮影のため洋服を着ていますが、脱衣所と直結しており、裸で出入りすることができます。長く延びた廊下の前には、手入れされた立派な庭園が広がります。腰かける場所もたくさんあり、みな思い思いにととのいの時間を過ごしているとか。吊るされた風鈴がチリンと鳴る音に、じんわりとととのっていきます。夜は吊るされた灯がともり、また違った風情が。まるで、旅先の老舗旅館にいるかのよう。
お湯に浸かった後の体をクールダウンしながら、優雅に泳ぐ鯉をぼんやり眺め、かすかに聞こえる水の音を聞き、そよ風を感じます。ととのい状態では感覚が繊細になっているため、より至福のひとときに。体の奥からパワーがチャージされるのを感じます。
ととのったら、休憩室でコーヒー牛乳とマンガでのんびりくつろぐ
せっかくなので、入浴後は休憩室でゆっくりして帰りましょう。女性は奥に見えるテラスで、水曜以外に日本庭園を楽しむことができます。空いていればぜひテラスで風に当たりながら、湯上がりタイムを過ごしてみましょう。こちらのテラスは引き戸一枚で縁側と繋がっているため、縁側に繋がる浴場が女湯になる水曜は出られないように配慮がされています。以前、テレビ番組『仮面ライダーリバイス』のロケ地となったこともあり、仮面ライダーのフィギュアなどもそこかしこに見られました。
やっぱり風呂上がりはコーヒー牛乳でしょ!ということで、こちら。好きなドリンクを選んで、番台でお会計をします。写真左に写るすりガラスも昭和レトロな雰囲気です。
休憩室には椅子がたくさんあるので、好きな席に座ってコーヒー牛乳とマンガでお風呂上がりのひとときを楽しみます。体もぽかぽかしてリラックスできる時間。帰り道の北千住さんぽで何を食べて帰ろうかなあ、などと思いを巡らせるのもいいですね。
銭湯巡りの楽しみの一つといえば、オリジナルタオルをコレクションすること。「タカラ湯」のオリジナルタオルも、もちろんあります。デザインはイラストレーター・メソポ田宮文明さんによるもので、色は写真の赤と青の2色です。訪れた記念にぜひ。
北千住さんぽをしながら、ほかほかの心で帰路へ
せっかくだから、駅まで寄り道をしてから帰りましょう。「タカラ湯」から荒川土手まではすぐ。荒川土手といえば、ドラマ『3年B組金八先生』のロケ地として使われていることでも有名です。風呂上がりのぽかぽかした体に、川沿いに吹く風が気持ちいい!
北千住は、日光街道の江戸からの最初の宿場町「千住宿」として栄えたエリアでもあります。駅に続く宿場町通り商店街沿いには、江戸時代の紙問屋であった横山家などの歴史ある建物がちらほらと残ります。風情のある街並みを、ゆっくりさんぽしてから帰りましょう。有名な焼だんご屋さんをはじめ、さまざまな飲食店が並ぶので、銭湯でととのった後の小腹を満たすのにも事欠きませんよ。
地域のコミュニティスペース的な存在でもある銭湯で、その街ならではの雰囲気をひとり新鮮な気持ちで味わってみては。特に「タカラ湯」では旅先の旅館にあるような縁側で、ひとり時間を満喫することができます。ととのった後、感覚が鋭くなっている帰りの街歩きでは、新しい気づきがあるかもしれませんね。
■おすすめの利用シーン:ゆっくりとひとりお風呂に浸かりたいとき、銭湯文化にふれたいとき、都内でリフレッシュしたいとき、銭湯×街歩きを楽しみたいとき
Text:松崎愛香
Photo:yoko
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