
倉敷美観地区で暮らすように泊まる。「土屋邸」で町家ステイ【すみずみ宿泊ルポ】
白壁の土蔵や町家、洋館が立ち並ぶ「倉敷美観地区」にある町家リノベーション宿泊施設「土屋邸(つちやてい)」。フォトジェニックな歴史的景観に囲まれた立地ならではの宿泊は、特別感たっぷり! 新しい倉敷ステイの楽しみ方をご紹介します。
旧内科医院をリノベーションした一棟貸しの宿
「土屋邸」は倉敷美観地区エリアのほぼ中心、人気のカフェやショップが立ち並ぶ本町通りにあります。設計・企画・運営は、美観地区で人気の町家カフェ「三宅商店」、複合商業施設「林源十郎商店」などを手がけた有限会社くまの辻信行さん。
明治~平成にかけて土屋内科医院として開業していた土屋家の建物を改装し、2022年に宿泊施設「土屋邸」として新たなスタートを切りました。レトロな診療所の看板がノスタルジックな雰囲気を醸します。
建物内には改装工事の際に発見された、安政、慶応といった元号が書かれた棟札(建物の建築、修繕の記録を記した札)や、昔使われていた提灯箱などが配され、建物の歴史を今に伝えています。「建物とまちを体感できる宿泊を楽しんでほしい」と、古いところは古いまま残しながら、モダンな意匠や新しい設備を取り入れて、まちとのつながりを大切に設計をしているそう。
母屋、蔵の内部からまちを体感できる巧みな設計
「土屋邸」の客室は、母屋の「北棟」「南棟」、そして離れの「蔵」による3つの棟で構成され、それぞれが一棟貸しの宿です。玄関は個別に独立していて、間取りや広さ、趣が異なります。「北棟」と「南棟」をつなぐと最大8名、「蔵」も加えて全棟貸し切れば10名が利用でき、三世代家族やグループ旅など、ホテルと旅館の新しい選択肢に。
土屋邸母家 北棟
本町通りに面する母屋北棟は、主庭の全面を洋風のデッキ仕様に改装され、オープンキッチンと繋がっています。全体的にモダンな雰囲気で広々。カウンターやデッキのチェアーに腰をかけてゆったりと寛げるメインスペースです。
2階には小さなリビングがあり、窓からは幾重に連なる白壁と瓦屋根が見渡せます。この部屋からしか眺められない特別な風景です。倉敷美観地区の名物景観を内側から切り取れるよう、間取りに工夫が施されています。
母屋北棟の寝室は窓の高さに合わせて床が底上げされていて、街並みと気持ちよくつながることができます。
窓の際に立てば、真向いに立つ国の重要文化財・井上家住宅を中心とした旧街道本町通りのアーチを望むことができます。この景色は母屋北棟の特権です。
土屋邸母家 南棟
母屋南棟は南側の中庭に面しています。1階には広々とした和室があり、縁側を越しに庭を望む古き良き日本の風情を堪能できます。
リビングのソファに腰をかけると正面に格子戸の玄関が。玄関があるのは「ひやさい」とよばれる細い路地の突き当りです。白壁の路地を人力車が行き交う倉敷美観地区内でも屈指の撮影スポットを内側から眺めることができます。
倉敷川畔を臨む蔵宿
蔵宿は1階が玄関と浴室、2階は広々としたスペースにベッドをレイアウトしたホテルライクな間取りになっています。2名利用までのコンパクトな空間ですが、往時のまま残された蔵の意匠を存分に体感できる客室です。蔵窓からは倉敷川に架かる中橋周辺の様子が一望できます。
浴室には全棟にゆったりとした檜風呂を設置。蔵宿の浴室の壁はパネルではなく蔵の内壁をそのまま使用しています。腰壁のモザイクタイルとあいまって風情ある和の雰囲気です。
「住んでいる人の目線で倉敷の町を体感してほしいです」と辻さん。夕暮れ時、窓から眺める倉敷美観地区の風景に味や深みが増し、マジックアワーに。普段着の倉敷を伝えたいという思いから、早めのチェックインや連泊を推奨しています。
人気の町家カフェ「三宅商店」の直営ショップも併設
旧土屋内科医院の診療所にあたるスペースは、土屋邸の受付を兼ねたオリジナルのジャムや焼き菓子を販売する「三宅商店カフェ工房」の直営ショップです。
約30軒の地元契約農家から仕入れる季節の果物を、手作りで加工した多彩なフルーツジャムが人気です。
春ならイチゴ、夏ならモモ、秋のブドウやイチジク、冬の柑橘フルーツなど、季節ごとにジャムの味のラインナップは変わっていきます。フルーツの食感も楽しめる仕上がりで、かき氷のトッピングにもおすすめ。
倉敷を代表するみやげ「むらすずめ」、特産の「マスカット」や「連島れんこん」など、倉敷にまつわるかわいいイラストが入った手作りサブレの瓶詰も倉敷みやげとして人気です。
■三宅商店カフェ工房 土屋邸(みやけしょうてんかふぇこうぼう つちやてい)
営業時間:11~17時(土曜は10~18時、日曜は10~17時)
定休日:無休
周辺のおすすめ観光スポット3選
【宿からすぐ】倉敷美観地区
白壁や格子窓の町家や蔵が並び、大正15年(1926)に架け替えられた今橋や、昭和34年(1959)頃に復元した常夜灯などが美しい倉敷を代表する観光スポットです。
国の重要伝統的建造物群保存地区にも指定されています。倉敷美観地区の歴史やみどころを詳しく知ることができるボランティアガイドが1日2回予約不要で行われているので参加してみては。日没~21時(4~9月は~22時)には倉敷川畔を中心に夜間景観照明を実施。ほのかなあかりに包まれ、幻想的に浮かび上がる町並みを楽しめます。
■倉敷美観地区(くらしきびかんちく)
住所:岡山県倉敷市中央・本町・東町・阿知
TEL:086-422-0542(倉敷館観光案内所)
営業時間:散策自由
定休日:散策自由
料金:散策自由
【宿から約徒歩3分】大原美術館
倉敷紡績の2代目社長・大原孫三郎が昭和5年(1930)に開館した日本初の西洋美術中心の私立美術館です。画家・児島虎次郎に委嘱して収集した西洋の名画を中心に約3000件の作品を収蔵しています。17世紀のエル・グレコや19世紀の印象派の名画、現代美術品など、いずれも世界的にも水準の高いコレクションで、現在は西洋美術のみならず、日本人の洋画、現在活動中の作家の作品、民藝運動に関わる作家達の作品、エジプト・アジア等の古美術など多岐に渡るコレクションを見ることができます。
■大原美術館(おおはらびじゅつかん)
住所:岡山県倉敷市中央1-1-15
TEL:086-422-0005
営業時間:9~17時(入館は~16時30分)。12~2月は9~15時(入館は~14時30分)※児島虎次郎記念館は10~16時(12~2月は10~15時)
定休日:月曜(祝日・振替休日の場合は開館)、7月下旬~8月は無休、冬期休館・臨時休館あり※詳細は公式サイト要確認
料金:入館(本館、工芸館・東洋館、児島虎次郎記念館共通)一般2000円、小学・中学・高校生(18歳未満)500円、小学生未満無料
【宿からすぐ】阿智神社
標高37mの鶴形山に鎮座し宗像三女神を祀る倉敷の鎮守。境内の絵馬殿からは美観地区を一望できます。境内北側にある阿知の藤は岡山県指定天然記念物、倉敷市花に制定されていて、曙藤という品種の中では日本一古く大きいものであり、樹齢は300~500年ともいわれています。4月下旬にはお茶席や藤棚の下で雅楽演奏等も行われる藤見の会も開催されます。また10月の秋季例大祭では、土曜に祭典・神賑いを行い、翌日曜には150人余の御神幸行列が御神輿と共に市街を巡行します。行事開催日に滞在した際には鑑賞してみては?
■阿智神社(あちじんじゃ)
住所:岡山県倉敷市本町12-1
TEL:086-425-4898
営業時間:境内自由
定休日:なし
リアルなおすすめタイムスケジュール
【1日目】
10:00 倉敷駅に到着。チェックイン時間まで市内観光を楽しむ(11時から土屋邸に荷物を預けることも可能)
15:00 チェックイン。趣ある館内をすみずみまでチェック。窓から街を行き交う人々を眺めたり、お気に入りのスポットでティータイム
17:00 日没後、倉敷川沿いがライトアップされたら、街中へ。朝食用のパンなどを購入
18:00 街中のレストランで、ままかりやタコ飯、デミカツ丼など地元グルメに舌鼓
21:00 宿に戻り、檜のお風呂で疲れを癒やす
22:30 就寝
【2日目】
7:30 朝食。アメニティのコーヒーで目覚める。周辺には宿おすすめのモーニングの美味しいカフェも。
9:00 宿周辺をのんびりさんぽ
10:00 チェックアウト
10:30 宿に荷物を預け、昨日回れなかった倉敷の観光スポットへ。
12:00 ランチは「町家喫茶 三宅商店」名物の三宅カレーや季節のパフェを
14:00 「三宅商店カフェ工房 土屋邸」でおみやげ探し
15:00 帰路へ
倉敷美観地区の町家文化や時間、景色を“内側から味わえる”「土屋邸」。倉敷旅がはじめての人にはもちろん、倉敷の王道を知るリピーターの人にも新たな驚きと感動を与えてくれる宿です。
■土屋邸(つちやてい)
住所: 岡山県倉敷市本町3-10
TEL:086-435-0280(有限会社くま/受付10~17時)
時間:チェックイン15時~/チェックアウト~10時
料金:2名1泊利用時 1室2万8600円~(税込、宿泊税とサービス料別)
アクセス:JR倉敷駅から徒歩約14分
Text:フジタイコ
Photo:小川康貴
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