【おとなのソロ部】「廣田硝子 すみだ和ガラス館」で和ガラス探し。完全予約制の美術館見学も楽しい!
東京の下町・墨田区錦糸にある、120年以上の歴史をもつ老舗ガラスメーカー「廣田硝子」は、大量生産が可能となった現在も、職人の手仕事にこだわり続けて和ガラスを製造しています。今回は、その直営店「廣田硝子 すみだ和ガラス館」を訪れ、大正ロマンや昭和レトロを感じる和ガラス探し。併設の美術館にも足を運びながら、和ガラスの魅力を堪能するソロ時間を満喫してきました。
老舗ガラスメーカー「廣田硝子」と和ガラスについて
JR錦糸町駅から徒歩5分、両国と錦糸町を結ぶ北斎通りの路地に「廣田硝子 すみだ和ガラス館」があります。ここは、東京で歴史のある老舗ガラスメーカーのひとつ「廣田硝子」の直営店です。1階はショップ、3階は和ガラスを展示する「和ガラス美術館」、4階はガラスの絵付けを行う「和ガラス研究室」となっています。
切り盛りするのは4代目社長の廣田達朗さん。受け継がれてきた和ガラスの技術・製造方法を広く伝えたいとの思いから、2015年に「廣田硝子 すみだ和ガラス館」を設立しました。
“和ガラス”とは、江戸から昭和の時代にかけて製造された日本独自のガラス製品のこと。天文19年(1550)に、宣教師フランシスコ・ザビエルが西洋ガラスを持ち込み、ガラス技術が伝来。江戸時代の中期には、ガラス製のランプや薬瓶などが国内で製造されるようになりました。そして、明治維新をきっかけに迎えた文明開化のもと、ガラス技術と製造がさらに発展。品川には国営のガラス製造所が創設され、窓や街灯、食器など、さまざまな場所でガラス製品が普及しました。
そうしたガラス製造全盛期の明治32年(1899)に誕生した「廣田硝子」は、職人の手仕事にこだわり、吹きガラスや切子など、伝統技術を今に受け継ぎ、作り続けています。
まずは1階のショップで和ガラス探し。こぢんまりとした店内にはガラス製品が数多く並んでいて、入った瞬間にワクワクが止まりません! 大正時代の技法を復刻したシリーズをはじめ、レトロモダンなガラスが目白押し。これらはすべてハンドメイドで、職人を抱える工場に委託して製造しているそう。
涼やかで美しい! 1階ショップで探す、おすすめの和ガラス
数あるシリーズのなかから、復刻版に注目しました。「骨灰(こつばい)」という特殊な原料を含んだガラスに急激な温度変化を与えることで乳白色(オパール)に発色させる、乳白あぶり出し技法で作るプロダクトシリーズ『大正浪漫硝子』。この技法は大正時代に流行したもので、凹凸がついた金型に熱したガラスを吹き込み、模様を付けていきます。冷めて固くなったガラスを再び熱することで凹んだ部分の温度が急激に上昇し、模様となって乳白色に浮かび上がります。この技法を使った製品は現在『廣田硝子』でのみ作られる、職人の技術が集結した逸品。透明ガラスと乳白色が涼しげで、儚さや懐かしさが感じられます。
お花のような形をした器「雪の花」は、昭和に制作された型を使っています。昭和レトロなアンティークさが魅力のフラッペガラスは、フルーツをのせたり、アイスクリームやかき氷を入れたりするのにもぴったり。
日本の食卓に欠かせないしょうゆ差しも、懐かしさを感じるデザインが揃っています。「廣田硝子」が所蔵する貴重なデザイン資料を元に復刻した「復刻醤油差し」は、昔ながらのうっすらと黄色みがかった色と籠目(かごめ)の伝統模様が特徴。もうひとつの「江戸切子醤油差し」は、模様を削り出す伝統加工「江戸切子」を側面に施しています。どちらも液だれしにくく、機能性にもすぐれた逸品です。
明治以降、ガラス産業が発展し、戦後になると欧米諸国への輸出も多くなりました。「東京復刻硝子BRUNCH」は、「廣田硝子」が1950年代に輸出していたプロダクトを復刻したシリーズです。繊細なカットを施した、高いガラス加工技術を楽しめるタンブラーで、飲み口が薄くなっているため、ビールなどお酒がよりおいしく感じられるそう。
思わずニッコリ、ほっこりしてしまう、なんともかわいい招き猫の形をしたガラス瓶。昭和時代、駄菓子屋の定番だったお菓子入れ=ガラス瓶をもう一度作ってみようと、考案したそう。お菓子を入れるのもよし、貯金箱やインテリアポットとして飾るのもよしです!
完全予約制・3階「廣田硝子 和ガラス美術館」と絵付体験
「廣田硝子 すみだ和ガラス館」の3階には、和ガラスを展示する「和ガラス美術館」があります。毎月、隔週土曜(月2回程度)のみ開館する完全予約制のミニミュージアムで、予約は公式サイトから可能です。入館料は1人1320円、当日はガイドスタッフが案内してくれます。「廣田硝子」で作られた貴重なガラス製品を中心に、ガラスを成型する金型、ガラスの原料となる珪砂(けいさ)の展示、ガラス関連本を閲覧することもできます。
部屋の中央には小鳥形、切子など、「廣田硝子」がこれまでに作ってきたバリエーション豊富なしょうゆ差しが並んでいます。かつて、しょうゆ差しの注ぎ口部分は内ネジ式が主流で、液だれしやすいという欠点がありました。しかし昭和51年(1976)に「廣田硝子」が、蓋を擦り合わせることで液だれを解消した「元祖 すり口醤油差し」を開発。これは45年間で累計300万個を超える大ヒット商品となり、「すり口醤油差し」は食卓の大定番アイテムになっています。
江戸時代後期、日本橋のガラス問屋「加賀屋」で使われていた引き札(現在の販売カタログ)も展示されています。コップに菓子皿、小皿などの日用品から、理化学用品、贈答品などが描かれていて、この当時から作られていたものが分かります。切子皿はガラス細工でおなじみの“江戸切子”のことで、「加賀屋」の加賀屋久兵衛が考案したといわれています。
しょうゆ差し展示の隣は、和ガラスの変遷をたどるコーナー。訪れた日に案内してくれた廣田社長によると、ガラス製品のデザインは景気がいいと華やかになり、低迷するとシンプルになるそうです。時代と経済状況によってガラスのデザインは変わるという視点をもって見学するのも興味深いですね。
ガラス製ランプの火屋(ほや※ランプを覆う筒)の製造から始まった「廣田硝子」は、大正10年(1921)にカルピス、キリンビールの宣伝用グラスを製造するなど、最盛期を迎えます。関東大震災や東京大空襲の苦難を乗り越え、昭和42年(1967)にブランデーグラス型の灰皿「BYRON」が、4年後には花柄のデイジーシリーズが大ヒット。その後も、バブル景気で、貝殻型のカラフルな「メローシェル」が女性向けギフトに人気に。「廣田硝子」における和ガラスの近代史をガラス製品と一緒にたどることができます。
日本各地の地場産業を取り入れた商品を、その地域で作り、その地域にある店舗でのみ販売する、スターバックスの「JIMOTO made Series」シリーズに登場した、“墨田区限定 江戸切子職人の伝統技術が光るアイスグラス”も発見。なんと、「廣田硝子」の江戸切子を作る職人によるものでした!
ガラスに関する書籍や資料を集めた図書室は立ち読みOK。気になる本があれば開いてみましょう。1960年代の「廣田硝子」の木版印刷カタログや、製品の絵を掘った木版画も見ることができます。
ワンフロアの小さなミュージアムですが、和ガラスの歴史を見て知るという施設は東京都内ではほとんど見かけないので、とても貴重な体験です。スタッフによる説明の後も30分くらいは自由に鑑賞できるので気になったガラス展示を再度見たり、書籍や資料を見たり、ソロ時間を満喫できます。
4階「和ガラス研究室」では絵付け体験を行っています。開催日は未定なので、公式サイトや公式SNSでチェックしてみてください。自分好みにペインティングして、オリジナルのガラス製品を持って帰りましょう。
西洋の技術と日本の文化や美意識が融合した、職人の伝統技が生きる和ガラス。そのレトロでモダンなデザインは、現代のインテリアにもフィットする、時代を超えた魅力があります。これから迎える暑い夏に、涼しげなガラスでおうち時間をさわやかに演出するのはいかがでしょうか。
公式サイト:https://hirotaglass.thebase.in/
■おすすめの利用シーン:ひとりでゆっくり買い物をしたいとき、とっておきの和ガラスを見つけたいとき、和ガラスの歴史や魅力を知りたいとき
Text:木村秋子(editorial team Flone)
Photo:yoko、廣田硝子
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