【京都・洛北】あの文豪も訪れた! 老舗料亭「山ばな平八茶屋」で京都の美景を眺めながら味わう昼懐石【ご褒美の新定番】
創業は安土桃山時代。若狭街道沿いの街道茶屋として発祥した「山ばな平八茶屋(やまばなへいはちぢゃや)」は趣深い老舗料亭。窓の向こうには鴨川の上流・高野川、野趣あふれる庭の緑からは木漏れ日がこぼれ、なんとも美しい光景を惜しげもなく見せてくれます。日本の美景に包まれながら味わう、とっておきの昼懐石を紹介します。
Summary
天正年間創業の老舗料亭「山ばな平八茶屋」
約450年前の安土桃山時代、若狭街道(通称 鯖街道)の街道茶屋として初代が茶屋を営み始めたのが「山ばな平八茶屋」のはじまりです。こちらは京都・洛北の山端(やまばな)にあり、御所からちょうど一里(約4km)の場所。当時は旅人が都に入るときの最初の茶屋であり、都を出るときの最後の茶屋でした。魚を運ぶ行商人がかきこんでいったのは、現在も味わうことのできる名物の「麦飯とろろ汁」です。
玄関にそびえる「騎牛門」をくぐると、約600坪もの庭園が広がっています。外からは想像もつかない幽玄な庭は、まさに別天地。鬱蒼と木々が生い茂り、吸い込まれるような深い緑に包み込まれます。庭に面して大広間や松梅の間、小部屋、奥の間などの離れが立ち並び、昼の懐石はこちらの離れにある小部屋でいただくことができます。
川端通に面した母屋は京都市の景観重要建造物。江戸後期(寛政9年)の建物で、現在は調理場として使われています。明治時代以降には、夏目漱石や正岡子規、高浜虚子や北大路魯山人もこちらの宿を訪れたそう。現在では1日3組限定で宿泊できるほか、昼夜ともに懐石料理が味わえます。
創業以来の名物「麦飯とろろ汁」と旬の恵みを味わうお昼の懐石
離れに通されて、あまりの美しい景色に思わずため息が漏れます。窓側は高野川に面していて、取材中にもたくさんの白鷺が一斉に舞い降りてくる、夢のような光景を目撃。なんと川べりを鹿が走ることもあるそう。きっと先人も同じような景色を見たのだろうな、と感慨深くなる美景を眺めながら、静寂を楽しみます。
料理を手がけるのは、21代目当主の園部晋吾(そのべしんご)さん。日本の食文化を次世代に伝える活動に精力的に取り組んでいます。季節の食材を調理で生かし、食で心までをも満たす懐石料理は、繊細な味わいと彩り豊かな見た目が魅力です。
今回取材したのは9350円の「昼懐石」※サービス料別途。7品の料理に名物「麦飯とろろ汁」と水物がつきます。料理はすべて月替わり。熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、食べる人のタイミングを見ながら供されます。
まずは前菜です。すだちの菊釜に詰められた「いくらのみぞれ和え」や卵黄を柿に見立てた「柿卵」など、目が喜ぶ料理の数々が黒の漆器で供されます。料理人の繊細な手仕事を堪能する贅沢な時間のはじまりです。
マグロとタイ、鳥貝のお造りの麗しい盛り付けにうっとり。透明感のある青磁のうつわが新鮮な魚の色艶をひと際引き立てます。
食材が豊富な秋の恵みを実感するごちそう。まずはお猪口にだしを注いで香りと風味を楽しみ、すだちを搾って具材をいただきます。豪華な具材ももちろんですが、松茸とだしが織りなす香りが何よりのごちそうです。
旬と旬の食材同士の組み合わせや相性のよい食材の組み合わせを京料理では「であいもん」とよびます。ニシンとなすはまさに「であいもん」。内陸で魚介が手に入りにくかった京都でニシンは欠かすことのできない伝統食材です。とろりと軟らかいナスとニシンの組み合わせは京都のおかずでも定番ですが、絹さややカボチャで彩り豊かに魅せるのは、さすがの職人技です。
秋になるとメスの鮎はお腹に卵を持ちます。「子持ち鮎」「落ち鮎」ともよばれ、限られた期間しか味わうことのできない子持ち鮎を塩焼に。白身とプチプチとした卵が混じり合う独特の食感が楽しめます。
そのほか、揚物と酢物を堪能したのちに、いよいよこちらの名物が登場します。
創業以来の名物がこちら「麦飯とろろ汁」。丹波産のつくね芋を丁寧にすり下ろし、鰹と昆布の一番だしでなめらかにしたものを麦飯にかけていただく一品です。
粘りが強いのに、キメが細かくて驚くほどにのどごしがよく、ついついご飯が進みます。創業当時、ご飯は麦のみでしたが、現在では白米に少し麦を混ぜたものにアップグレード。麦との相性を考え、岡山県の朝日米という大粒で少しパサっとした米を採用しているそう。米のうま味と麦の存在感をそれぞれしっかり残しながら、とろろが絡んでのどごしがいい。純白のとろろを飾る青海苔が香りよく、全体の味を引き締めます。食べてみるとわかるのですが、さすが約450年も続く名物。何度も味わいたくなる黄金バランスです。
添えられたしば漬も忘れがたい名脇役。ナスと赤しそを塩のみで漬け込んだ大原の「生しば漬」は、乳酸発酵を生かした酸味が特徴です。とろろの味を邪魔せず、とろろがしば漬の香りや酸味を和らげて、互いに引き立て合う相性のよさを味わってみてください。
水物はみずみずしい果物を使ったワインジュレ。
料理、器ともに美しく、“目と舌で味わう”和食の魅力を再認識しました。
訪れる人に季節の移ろいを感じさせてくれる約600坪の日本庭園
「山ばな平八茶屋」の庭は、真・行・草(しん・ぎょう・そう)の庭。「真」とは実体が厳格に完備したもの。それがやや砕けて軟らかな形式になったものを「行」、さらに軟らかさが増したものを「草」とよびます。築400年から500年の「騎牛門」をくぐれば、整然とした庭にピンと背筋が伸びます。
さらに奥に進むにつれて、訪れる人の肩の力が抜けるような和やかで自然な庭へと様相を変えます。ししおどしの音を聴きながら、いちばん奥まで進むと3mの滝があり、まるで山の奥へと歩いて行くような野趣あふれる表情を見せてくれます。
地下50mから汲み上げる井戸水は比叡山の伏流水。清らかな水は鯉が泳ぐ池を満たし、訪れる人に涼やかさを届けます。
日本古式の蒸し風呂がある!? いつかは泊まってみたい憧れの宿
素晴らしい庭園と高野川のせせらぎの音に抱かれて、日本の美を詰め込んだようなこちらの宿。夕食はこちらの名物ぐじ(甘鯛)を使った「若狭懐石」が味わえます。冬の味覚は丹波産の野生イノシシを使ったボタン鍋。寒くなるこれからの季節、秋の紅葉が窓を覆うように色づく景色、冬の朝のうっすらと雪が積もった庭の美しさは泊まった人だけが見られる特権です。
また、こちらの宿にはひとつ珍しいものがあるのです。それは日本古式の蒸し風呂「かま風呂」です。
かまくら型の篭の空洞に粗むしろを敷き、陶器の枕を持ち込んで、横たわって温まります。温度は55〜60℃。一般的なサウナと比べて温度が低いため、ゆったりと長時間入ることができます。じっくり温まった身体にひんやりとした陶器の枕がなんとも心地いい。併設の内風呂で汗を流してからゆっくりと庭で過ごせばリフレッシュします。
季節の移ろいが感じられる庭園、旬を目と舌で感じることのできる懐石料理、それを引き立てる美しい盛り付けと器づかい。日本の伝統と職人技を凝縮した「山ばな平八茶屋」に足を踏み入れると、老舗料亭の緊張感というよりは、自然の中にいるときのくつろぎと静寂が感じられます。
日本で守り受け継がれた自然や景観が生み出す静かなひとときは、とっておきの癒やしの時間。いにしえから旅人を癒やしてきた景色と美食を体験しに、ぜひ足を運んでみてくださいね。
■山ばな平八茶屋(やまばなへいはちぢゃや)
住所:京都府京都市左京区山端川岸町8-1
TEL:075-781-5008
営業時間:11時30分〜15時(13時LO)、17〜21時30分(19時LO)
定休日:水曜、不定休
アクセス:叡山電鉄修学院駅から徒歩5分
Text:鴨 一歌
Photo:小川康貴
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