【京都】『柳谷観音 楊谷寺』はSNS映えの宝庫! 花手水と霊水が迎える名刹
京都・長岡京の山深い秘境に佇む「柳谷観音 楊谷寺(やなぎだにかんのん ようこくじ)」は、古より眼病に効くという「独鈷水(おこうずい)」が湧き、桜や紫陽花、紅葉などの名勝地としても愛されています。最近では、手水鉢に色とりどりの花を浮かべた「花手水」がSNSで話題に。映画のロケ地にもなった「上書院」や「浄土苑」などみどころも豊富ですが、山里にあるため観光客が少なく、知る人ぞ知る穴場です。そんな柳谷観音の魅力を、余すところなくご紹介します!
車でしか行けない山里の集落に建つ古刹
JR長岡京駅から車で15分。「本当にこの先に名刹があるの?」と不安になりつつも山道を上がると、急に視界が開けて瓦屋根の建物が並ぶ集落が目の前に。駐車場の奥には山門がそびえ、階段を上ると山寺らしい落ち着いた風情のお堂が迎えます。
ここ「柳谷観音 楊谷寺」は、平安時代初期の806年に創建したと伝わります。清水寺の開山者でもある延鎮僧都(えんちんそうず)が、夢のお告げにより十一面千手千眼観音菩薩を見付け、堂宇を建てて「楊谷寺」と命名。
811年に真言宗の開祖である空海が参詣した折、眼を患った子猿を抱えた親猿に出会い、境内の湧水で眼を洗う姿を見たそう。空海が祈祷したところ17日目に治ったという説から「眼病平癒」の霊験が知れ渡りました。湧水は「独鈷水(おこうずい)」とよばれ、その後も眼病に悩む人々が訪れるように。以来この水は長きにわたり、眼を始めとする病気平癒の神様として慕われています。
「科学では説明できない奇跡を起こした」、空海の霊水
実はここ、住職の日下俊英さんと奥様の恵さん、娘さんたちと家族ぐるみで建物やご本尊様を守っているアットホームなお寺なんです。恵さんの曽祖父がご住職だった縁で、日下さんが2017年に受け継いだのだそう。「眼病平癒の霊験については、我々も信じられないお話を実際に聞いています。昔の住職の日記にも、子供の眼の怪我が治ったなどという話も。今も『先祖を助けて下さったお礼参りに』と代々訪れる方が多いですよ」と日下さん。
その「独鈷水」は書院のすぐ西にあり、現在も絶えることなく岩肌からひたひたと染み出ています。空海の立像とお地蔵様が並ぶ奥に岩屋戸が建てられ、水は大きな甕に溜められています。ひしゃくですくって紙コップで飲むと、ピュアで澄んだ味わい。もちろん手に取って眼などにつけても構いません。
恵さんによると「我が家は家族全員がこのお水にお世話になっています。花粉症の時期などは、これで眼を洗うとパッチリするんです」とのこと。羨ましい話ですね!
全部で5つある!?「花手水」を探そう
さてこのお寺、手を清める「手水」に色とりどりの花を浮かべた「花手水」がSNSでも話題となっています。最近では全国的にも花手水を設ける寺社が増えていますが、柳谷観音はその先駆的存在。実は名付けの親は恵さんなのです。
きっかけは2016年、浄土苑が寂しいので花が欲しいと、手水に紫陽花を浮かべてみたのが始まり。その後も境内入口の「龍手水」や「苔手水」など5カ所に四季の花々を浮かべるようになったそう。さらに娘さんがInstagramで公式アカウントを作って投稿したところ、「かわいい」「行ってみたい」と評判に。
2018年頃、これを恵さんが「花手水」と名付けました。「同じようなことをやっていたお寺や神社さんもあると思いますが、『花手水』とよんだのは柳谷観音が最初だと思います。でも、この名は自由に使っていただいて良いんです。寺社に人が訪れるきっかけとなってくれれば」と恵さんは話します。
コロナ禍後には幅広い年齢層の参拝者が来るようになったこともあり、恵さんと娘さんはさらにユニークな企画を考案。境内にカラフルな和傘を飾ったり、「押し花朱印作り」やヨガなどのワークショップを開催したり…。「お寺の品格を保ちつつ、自分達が新鮮な目線を持って、皆さんが楽しめる仕掛けを日々考えています。花手水だけでも、お庭だけでも、まずは訪れて下さるきっかけ作りになれば。テーマパークのように探検し、発見する中で、先人の信仰に想いを馳せてくれればうれしいです」とは日下さんの談。
映画のロケにも使われる絶景&庭園美を堪能
もちろん境内には京都府指定文化財や名勝がいくつもあるので、ぜひ見ておきましょう。本堂は江戸時代前期の築で、ご本尊の十一面千手千眼観世音菩薩は17日のみご開帳されます。
本堂隣にある庭園は「浄土苑」という名で、江戸時代中期に作庭された池泉鑑賞式庭園です。斜面に配された石は菩薩に見立てられ、阿弥陀如来や不動明王といった十三仏も安置されています。重森三玲氏により『古都百庭』にも選ばれました。
山の傾斜地を利用して作られているため、上の方に行けば行くほど眺めが良く、見晴らしが良いのが特徴。書院からの眺め、上書院に続く階段からの眺め、そして上書院から見下ろす眺めと、三層に及ぶ景色の違いを楽しめるのが魅力です。
書院の階段を上ると、明治時代後期に建てられた「上書院」が迎えます。ここは大法要の際に天皇家や公家など特別な客人だけが通された茶室で、赤い毛氈の敷かれた室内は貴賓室のような上品な佇まいです。眼下に浄土苑を望み、木々が真っ赤に染まる秋は、息を呑むほどの絶景です。
上書院から奥の院へと渡り廊下で続いていますが、見逃してはいけないのが庭にある「心琴窟」。実は近年作られたものです。「目の不自由な方でも五感で庭の美しさを感じられるように」と恵さんが造園業者に依頼したところ、偶然「眼力講」と彫られた灯篭が庭から見つかり、その石を甕として地中に埋め水琴窟の構造に。水を投じるとキーン、コーンと涼やかな音が響きます。
階段を上ると迎える奥之院は、江戸時代に中御門(なかみかど)天皇が観音様を祀って建てたお堂。子授け・安産・恋愛成就のご利益があるとされ、洛西観音霊場第10番札所にもなっています。
奥之院の横に置かれているベンチは、背もたれがハート型にくり抜かれ、脇には紫陽花が植えられています。このハート越しに紫陽花や山々の景色を撮影してSNSにアップする人も多いのだとか。
桜が並ぶ散策道や、小鳥が鳴く「さえずりの道」を下ると、いつの間にか本堂に戻ってきます。神仏習合の時代に建てられたため、神社建築も寺院建築もあり、観音様、阿弥陀様、お稲荷様、明王様、弁天様…とさまざまな神様・仏様がお祀りされ見応え満点。高地にあるので山々を見渡す景色にも心癒やされます。
何よりも、市街地から離れているため観光客が少なく、心静かにお参りできるロケーションは京都でも珍しいでしょう。日下さんの言う通り、「花手水」「上書院」を見に来るだけでも良いので、まずは一度訪れてみてください。気付けば2時間ほど満喫してしまった……という方も多いはず。
■柳谷観音 楊谷寺(やなぎだにかんのん ようこくじ)
住所:京都府長岡京市浄土谷堂の谷2
TEL:075-956-0017
参拝時間:9〜17時(最終受付 16時30分)
参拝料:500円(ウイーク期間中700円)※高校生以下無料
駐車場:32台(有料)
アクセス:京都縦貫自動車道長岡京ICより車で10分
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Photo:橋本正樹
Text:猫田しげる
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