京都の老舗「山田松香木店」で香木の香りを“聞く”「聞香実践体験」。極上の伽羅の深遠な香りに心を傾ける貴重な体験
「山田松香木店(やまだまつこうぼくてん)」は江戸・寛政年間に創業した京の老舗。京都御所の近くにあり、香木(こうぼく)を専門に扱っています。香木とは、樹木から採れる香料(伽羅・沈香・白檀)のこと。また、聞香(もんこう)とは香木の香りに心を傾け、じっくりと鑑賞することです。今回は香木をたいて、その奥深い香りを聞く「聞香実践体験」に参加してきました。室町時代より続く「香道」の世界にふれる貴重な体験をレポートします。
Summary
京都御所のほど近くにある香木専門店「山田松香木店」へ
「山田松香木店」は江戸中期創業、京都御所の西にある老舗の香木店です。日本の香り文化を正統に伝承し、天然香料にこだわった香製品を製造しています。もとは薬種業に始まりましたが、明和から寛政年間にかけて香りに特化するようになりました。
店内に入って思わず目が引き寄せられるのは、壁面を占める香木箪笥。その数なんと400個もあります。天然の香木は東南アジアで採取されるため、すべてが輸入品。とくに希少で上質な香木は非常に高価で「金より高い」といわれるほど。現在は伽羅(きゃら)・沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)の香木や雄のジャコウジカの腹部にある香嚢(こうのう)から得られる分泌液を乾燥させた麝香(じゃこう)やマッコウ鯨の分泌液である龍涎香(りゅうぜんこう)など、さまざまな香原料を扱っています。さらに店内では、天然の香原料をふんだんに使った線香や匂い袋など、さまざまな薫香製品と出合うことができます。
室町時代より続く「香道」の世界にふれられる「聞香」を体験
「香道」が盛んになったのは室町時代のこと。「香道」には香木が用いられますが、この香木の微妙な違いを鑑賞するため「六国五味(りっこくごみ)」という分類方法が生まれました。
六国(りっこく)とは、産出された地名などから香木を分類するものです。その6つの種類は伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真南蛮(まなばん)、真那賀(まなか)、寸門多羅(すもんだら)、左曽羅(さそら)。そして五味(ごみ)とは甘(あまい)、酸(すっぱい)、辛(からい)、苦(にがい)、鹹(塩辛い)と香りの特色を5つの味覚で表現したものです。
例えば伽羅はベトナム産で5つの味覚をバランスよく感じられる最高級の香り。今回体験した「聞香実践コース」では聞香の作法を習い、伽羅ともう1種類の香木が選べて、その香りを聞くことができます。ちなみに聞香では香りを「嗅ぐ」のではなく「聞く」と言います。心を傾けて香りを聞く、心の中でその香りをゆっくり味わうという意味です。
炭に火を熾(おこ)した炭団が埋め込まれた聞香炉が席に運ばれてきました。聞香をするには聞香炉の灰を整える支度が必要です。さて、先生に教えてもらいながら、まずは灰を整えていきましょう。
火箸で灰を聞香炉の中心に向かってかき上げて、山を作ります。
聞香炉を回しながら、灰押という道具を使って、灰を押しながら山を円錐のかたちに整えます。
聞香炉の灰の頂点に銀葉という雲母板を水平に置き、その中央に香木をのせます。
右手で覆い、香りが逃げないように、右手親指と人差し指の間にできた半月状のすき間に鼻を軽く近づけます。そして心を穏やかにして、ゆっくりと香りを吸い込み、香炉の脇で息を吐きます。
実際に伽羅の香りを聞いてみて、本当に驚きました。甘くてスパイシーで温かみがあり、なんとも複雑な香り。何よりその香りのあまりに深い奥行きに感動します。ものすごく小さな木片から、一瞬で場の雰囲気をがらりと変えてしまうほどの幻想的な香りが立つとは。さらに驚いたのは、伽羅があまりにも高価だということ。貴重な高級香木の香りを体験させてくれるのは、平安朝の頃より育まれた「日本の香り」の伝統を今に伝える「山田松香木店」ならではの特別な体験です。
伽羅のほかにもう一種類香木を選ぶことができたので、寸門多羅(すもんだら)を選んで聞きました。こちらは酸味のなかにほのかな甘さと辛さを併せもつエキゾチックな香り。すっきりとした鋭さも感じられて、なんとも好みな香りでした。
東南アジア産のジンチョウゲ科に属する木からできる香木。「聞香実践体験」は自然界のなかで長い年月をかけて育まれた香木の香りを五感で感じる、じつに貴重で有意義な体験でした。
■「聞香実践体験」
開催日は公式WEBサイトの体験カレンダーを参照。体験料は2750円、所要時間は約50分 ※前日の受付時間内までに要予約(日曜、祝日は受付不可)。2~6名
香木や天然香原料をふんだんに使用した高品質な線香でリラックス
線香で香木本来の香りを楽しむこともできます。「香木千聚」シリーズは香木の香りをそのままに贅沢に調合された線香。
ベトナムで産出する最上級の沈香を使用した「シャム沈香」はさわやかでみずみずしい香り。最上の香木「伽羅」の線香は奥深く、繊細で贅沢な香り。ほかにもインド産の「白檀」やインドネシア産の「ジャワ沈香」もあります。
店内にあまりにたくさんの種類の線香があるので選びきれずにいると、スタッフが高級線香のおためしセットをすすめてくれました。カリマンタン産の極上沈香を贅沢に使用した奥深く幽玄な香り「鷹樹」や沈香の香りのなかの甘さを際立たせたやさしい香り「翠風」などタイプの違う10種類のお香を試せるうれしいセット。旅のお供にもいいですね。
温活に特化した天然の薬種にこだわったお茶やキャンディも
こちらは、2024年10月中旬から新たに発売された温活におすすめのお茶。体を温めるとされる天然の薬種にこだわり、天然の香原料をブレンドしています。左はオーガニックの「和紅茶」に桂皮や生姜、リンゴ、陳皮、甘草、コショクボクの6種類をブレンド。右は手軽に入れられるティーバッグタイプ2個入りの「薬種茶」でおみやげにもぴったり。なかでも「京蒼茶」は薄紅葵(ブルーマロウ)と7種類をブレンドしたお茶で、水出しで入れるときれいな紫色のお茶に。さらにレモン汁を入れると色がピンクに変化します。
温活でも注目される天然の薬種が入ったハーブキャンディも。カラダもココロもポカポカ(生姜・桂皮)、カラダもココロもリラックス(柚子・山椒・くちなし)と2種類の飴が入っています。スパイシーかと思いきや、どこか懐かしくてやさしい味わい。リフレッシュタイムにぜひ。
旅の手紙にそっと忍ばせたい!香りとともに気持ちを伝える「文香」
「文香」は手紙と一緒に香りを送るための小さな匂い袋で、平安時代、貴族たちの間では大切な人へ送る手紙に香をたきしめ、香りを添えて思いを伝えていたそう。12月は水仙、1月は松、2月は梅など月替わりで全12種のラインナップ。手紙以外にも、財布やバッグに入れたり、名刺入れに忍ばせたり、本のしおりとして使ったり、さまざまな使い方ができます。
貴重な高級香木の奥深い香りの世界へと誘ってくれる「山田松香木店」、いかがでしたか。深い奥行きと五味が絡み合う複雑でふくよかな香り。悠久の時を経て育まれた香木の香りのなかにいたせいか、とてもリラックスした気分で店を出ました。おうちでも香木の線香をたき、気分転換に香りを楽しむ習慣もできてよかったです。ちなみに表にかかる暖簾はお香を表す「香色(こういろ)」。平安時代より高貴な色として尊ばれた色だそうです。京都に来た際はぜひ足を運んでみてくださいね。
■山田松香木店 京都本店(やまだまつこうぼくてん きょうとほんてん)
住所:京都府京都市上京区勘解由小路町164
TEL:075-441-1123
営業時間:10時30分〜17時
定休日:なし
アクセス:地下鉄烏丸線丸太町駅から徒歩7分
Text:鴨 一歌
Photo:小川康貴
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