西麻布のフレンチレストラン「Takumi」で “説明カード” とともに独自の味を体感【ご褒美の新定番】
西麻布にあるフレンチレストラン「Takumi(たくみ)」は、オープンしてから毎年、7年連続・世界的グルメガイドで1つ星を獲得している名店。大学の経営学部出身という、フレンチのシェフとしては異例の経歴をもつ大槻シェフが織りなす前衛的なフレンチが味わえます。料理を食べた後「おいしかった」の記憶だけで終わらない味を「体感」できるような工夫で、より満足のいくフレンチコースを味わうことができます。
無駄なものを削ぎ落としたミニマル空間で背筋が伸びる
東京メトロ六本木駅から六本木通りを渋谷方面に8分ほど歩き、1本路地に入ったところに「Takumi」はあります。外観は白いレンガで覆われ、店のサインは小さく掲げられているだけというシンプルさ。思わず通り過ぎてしまわないように注意です。
「Takumi」では、シェフ・大槻卓伺(おおつきたくみ)氏の独自の理論とオリジナリティで構成した、ここでしか食べられないフレンチが味わえます。
大槻シェフは「シェフをするなら経営も学びたい」という思いから、大学の経営学部を卒業後、フレンチを学ぶために渡仏。三ツ星レストラン「Le Petit Nice (る・ぷてぃィ・にーす)」など5軒の星付きレストランで修業し、2017年に「Takumi」をオープンさせました。師匠とよよべる人をもたないために、彼独自の理論でフレンチを解釈し、業界内外での注目が集まっている話題のお店です。
店内は、白とベージュを基調にしたシンプルな空間。広さはコンパクトで、2人掛けの席が2つ、4人掛けの席が2つのみ。同伴者とともに、静かに食事に向き合うことができそうです。
店内には、一切インテリアの類がありません。それは「料理が主役で一番美しく引き立たせるべき存在」という考えのもと。ミニマルな空間で、五感をフルに稼働させつつ、フレンチを堪能できるというぜいたくさがここにはあります。
着席すると、シェフの思いを綴ったカードとコース内容のカードがテーブルに配置されます。「Takumi」のメニューは、「ランチコース」1万3200円、「ディナーコース」1万9800円のみ。1品ずつにペアリングしたワインをおまかせで頼むこともできます(ランチは5グラス付きで9900円プラス料金、ディナーは6グラス付きで1万6500円プラス料金)。ワインを持ち込むことも可能で(持ち込み料1万1000円)、その場合は予約時に伝える必要があります。
香りと味の相乗効果を学びながらゆっくりと味わう
取材時のディナーコースは、「シェフからのお口始めの一品」、「アミューズ・ブッシュ2種類」、前菜の「真鴨 黒トリュフ」、前菜の「ウナギ 米」、魚料理の「ヒラメ 松茸」、お口直しの「オッソー・イラティ ルッコラ」、肉料理の「鹿 ヘーゼルナッツ」、アヴァン・デセールの「薔薇」、グラン・デセールの「巨峰 チョコレート」、「お茶菓子と食後のお飲み物」という内容。
今回は、「真鴨 黒トリュフ」と「鹿 ヘーゼルナッツ」、お店の看板メニュ―である「薔薇」を撮影させていただきました。
前菜の「真鴨 黒トリュフ」が運ばれてきました。秋らしいムードのお皿が美しく、白い空間に映えます。ヨーロッパ産の真鴨のむね肉ともも肉を一つの筒状になるように巻き込んで焼き、そこに鴨のフォアグラの温かいムースをかけたひと品。ふりかけられたオレンジの粉が目にも美しく、オレンジのフレッシュな香りがほのかに香ります。
付け合わせは、キノコを練り込んだジャガイモピューレに黒トリュフをまぶしたもの。見た目は黒トリュフのようでも食べると全然違う、ユニークな一品です。
シンプルな空間だからこそ、五感を研ぎ澄ませて目の前の料理に集中できます。きゅっとしまった鴨のうま味にオレンジが香り、いままで食べたことのない味。普段はなかなか食べられない組み合わせや調理法で食べられるのが、フレンチのぜいたくなところです。
味わっていると、次に用意される料理の詳細が書かれた説明カードが置かれます。フレンチのコースだと、シェフが席にきて次に提供する料理を説明する姿が見られますが、「Takumi」では、それをあえてカード形式にしています。これは、盛り上がっているお客さまの話の端を折りたくないという、大槻シェフの気遣いによるもの。もちろん、こちらから詳細を聞けば、丁寧に料理の内容を教えてくれます。
このカードを置くタイミングがポイントで、料理を提供する前に置くことで、次に出てくる料理への期待感を高めてほしいという思いがあるそうです。
料理を楽しみに待っていると、目の前に瓶に入った状態の香辛料が運ばれてきました。中に入っているのは、次に提供される料理で使う香辛料など。
1はシナモン、2はクローブ。名前を聞いたことのある香辛料でも、具体的な香りとなると想像できないことも多いのでは? だからこそ「Takumi」では、実際に香辛料の香りを嗅いで、次に提供される料理への想像を膨らませる、味を「体感」できるような工夫がされています(こちらは食べることはできません)。
料理がテーブルに運ばれてきました! パッと見ただけでは、どんな料理かなかなか想像することができません。だからこそ、料理の説明カードで自分なりに解釈しながら味わうと、より深く味を理解することができます。あらかじめカードで説明した上で「お客さまの期待する料理を、はるか超えるような料理を提供したいと思っています」と、大槻シェフ。
エゾジカは、鹿のうま味を最大限に引き出すために、あえて火入れは浅めに。ジビエですが、臭みの出ない焼き方にしています。
付け合わせ兼ソースでもある「ベージュ色のパフェ仕立て」は、ナスのピューレの内側にヘーゼルナッツと焦がしバターのソースが流し込まれ、その上に、フォアグラやフライドオニオン風味のクルトン、ヨーロッパ産のキノコの一種であるジロール茸、シナモンやクローブ風味のホイップクリームが飾り付けられています。
エゾジカは、「ベージュ色のパフェ仕立て」に絡めながらいただきます。付ける箇所によって違う味わいが楽しめ、幾重に重なるうま味が、口の中でハーモニーを織りなします。
そして、こちらは肉料理で一緒に提供された「クレソンとピスタチオ、半熟卵のサラダ」。説明カードに「サラダ」と綴られていましたが、想像のはるか先を行くビジュアルでした。
「これがサラダ!?」と思いながら食べ方をシェフに聞いてみると、これはよくかき混ぜた状態でいただくのだとか。かき混ぜるとそれぞれの食材がふわふわとメレンゲ状に。本当にサラダ?と思いつつと口に入れると、味わいはサラダそのもので、口の中でゆっくりととろけました。サラダで野菜のうま味を感じたのは、初めて!
シェフの原点ともいえるバラのデザートで華やかな締めを
フレンチといえば、食べたことのないような美しいデザートも楽しみの一つ!「Takumi」では、大槻シェフが修業中から絶対に作ってみたかったという、オリジナルのアヴァン・デセール「薔薇」が定番です。
こちらは、大槻シェフが大学時代にパリを訪れた際、バラだけを取り扱う店でバラのジャムやバラのチップスを初めて食べて感動し、「いつかバラのデザートを作ってみたい」と、何年も試行錯誤をして作った渾身の一品です。
見た目もすてきで、バラの造花が敷き詰められたボックスにデザートが入って運ばれてくる様子に、思わず歓声を上げてしまいます。
そして、お皿の上に置かれます。バラのドライフラワーから抽出したバラエキスを、ムース状に。バラの香料や着色料を一切加えていないというこだわりのデザートです。
フワフワのムースの食感も楽しく、バラの香りがほんのりと口の中いっぱいに広がります。これは、何度も食べたくなる味! 下には牛乳で作ったプリンであるブランマンジェ、間の濃いピンクの部分にはバラのソースが入っています。
デザートをひととおり堪能しておなかいっぱいになっても、まだ楽しみがあるのが「Takumi」のフレンチコースです。
アニバーサリープレート(1210円)をオーダーすると、食事が終わったあとにこちらのプレートが運ばれてきます。美しいデザートのようなプレートですが、これはオブジェで食べることができないのでご注意を! 誕生日や恋人との記念日のお祝いで利用されることが多いこちらのプレート。カレンダー仕様になっているので、思い出の日付をここに刻みつつ、記念撮影をすることができます。
「料理を独りよがりにしたくない、みんなで同じように楽しんだり味わったりしたい、だからこそ、どんな食材が使われているかを詳しく知ってもらいたい、という思いがあります」と、大槻シェフ。誠実で、気さくで、物腰のやわらかい大槻シェフの生み出す料理はどれも味わい深く、さまざまな食材の可能性を体感できました!
削ぎ落とされたシンプルな空間で料理を主役とし、等身大の自分でご褒美時間を楽しむことができる名店。7年連続で世界的グルメガイドに掲載されているのもうなずけます。ご褒美フレンチを選ぶなら、ぜひ「Takumi」をリストアップしてみては?
■Takumi(たくみ)
住所:東京都港区西麻布1-11-10ビルマーサ1F
TEL:03-6804-6468
営業時間:ランチ12~15時、ディナー18時30分~22時30分
定休日:月・日曜
Text:松崎愛香
Photo:日高奈々子
●店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。変更される場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。