現代アートと自然美に囲まれ心の底からの癒やしを得られる。富山のおもてなしの真骨頂「リバーリトリート雅樂倶」【すみずみ宿泊ルポ】
富山市街地から神通川沿いに車で約40分、山里ののどかな風情がただよう春日温泉に「リバーリトリート雅樂倶(りばーりとりーとがらく) 」はあります。こだわり抜かれた空間や施設内外に飾られたたくさんのアート作品のすばらしさに、「こんな宿があるとは!」と思わず感嘆の声を上げてしまうほど。目にするものから、口にするもの、肌にふれるものまで、富山らしい上質なもので整えられた、富山で最もおすすめしたい宿を詳しくご紹介します。
Summary
富山の山里にたたずむモダンアートミュージアムのような宿
富山市を流れる神通川(じんづうがわ)。富山市街から車で40分ほど川沿いを上流へたどった神通峡沿いに小さな温泉郷・春日温泉があります。この地にある「リバーリトリート雅樂倶」は、山里の景色のなかでその美術価値を発揮するいくつものモダンアートに囲まれながら、訪れる人を迎え入れています。
ホテルは創業時から使用されている本館と、建築家・内藤廣さんが手がけた2005年築の新館からなります。周囲の景観に配慮しているのか、見た目はとても謙虚で控えめなたたずまいですが、近づくにつれ見えてくる細部にまで美を追求したデザインに、宿への期待も高まります。
新館のメインエントランスから館内へと入り、このレセプションでチェックインをします。レセプションカウンターに飾られている作品は、世界的歌姫のレディ・ガガさんが着用して話題をよんだ「Heel-less Shoes」の作者、舘鼻則孝さん作の「Descending Layer」「Duality Painting Series」です。
そしてロビーのこの美しさに思わず声が漏れます。あらかじめ形成されたプレキャスコンクリートを校倉に組んだ壁が印象的な大空間に、天井までの大きな窓で切り取られた神通峡の景色がまぶしく目に飛び込んできます。
建築家の内藤さん曰く、リバーリトリート雅樂倶は「数寄屋の繊細さとアジアの土臭さ」をコンセプトとしているそう。ロビーで見られる「校倉」という組み木の技法や、窓で景色を切り取る「借景」などの技に、日本古来より続く美しさへのリスペクトが見られます。
ロビーにはコーヒーや紅茶、黒文字茶、デトックスウォーターなどの宿泊者専用のドリンクコーナー(6~11時、14~22時)が設けられているので、ソファに腰掛けて飲み物をいただきながら、ゆっくりとこの空間のすばらしさに浸ってみてください。
ロビーの一角にあるハイエンドオーディオにも注目です。スピーカーやモノラルパワーアンプなどすべてのパーツが富山メイドの最高級品! 20時からは、宿泊者の持参した希望のレコードやCDをかけてくれるそうなので、このオーディオセットで聞いてみたい音楽がある人は、ぜひホテルへ持っていきましょう。
ロビーの外はテラス状になっていて出られるので、ここからも景色を楽しんでみてください。ここは建物の周囲をぐるっと巡ることのできるアートウォークの一部です。
水盤に周囲の景色が映り込み、神通峡と一体化しているように感じられます。下流側にある古い建造物は、昭和30年(1955)に設置された神通川第三ダムの水門だそう。風化具合に味があり、自然の景色のなかでよいアクセントになっています。
客室へ荷物を置いたら、まず楽しんでほしいのが館内のアート巡り。宿には館内外の作品を紹介するアートマップがあるので、それを片手にゆっくりと館内を歩いてみましょう。
宿の内外に飾られている常設のアート作品は60点近く。そのほか、2つのレストランや企画展を行うミュージアムホールなどにも作品が飾られているので、まさに美術館に泊まっていると言っても過言ではないほどです。
もちろん、建物自体にもみどころがたくさん。コンクリートの階段が宙に浮いているようにデザインされた階段は、華奢な手すりの桟も美しい、まさに巨大アート。
そのほか、いつでも自由に利用できるアートライブラリーや、希望者のみ見学可能な茶室もあります。
リバーリトリート雅樂倶は桜で有名な春日公園に隣接していて、その公園内にもアート作品が展示されています。朝食の前後のお散歩にぴったりの場所で、池のそばにはガラス張りの足湯もありますよ。
景色もアートも居心地のよさも。すべてを備えた客室で過ごす上質な時間
次は客室のご紹介です。客室はスイート、デラックス、スタンダードの3種類で25室あり、すべて造りが異なるそう。訪れるたびに、違う客室に泊まってみたくなります。今回宿泊の客室は、新館ラグジュアリースイート1泊2食付5万9000円~です。
宿泊する213号室「想紅(おもいくれない)」のドアを開けると、さらにアプローチが続き、その先にドアが見えます。
上下階共有で専用の中庭があり、その2部屋の宿泊者のみ鑑賞できるアート作品が展示されています。苔の中に青銅の水盤がたたずむ畠山耕治さんの『時に佇む』です。
213号室は150㎡+バルコニー。客室全体の約1/4を占めるリビングは、6人がけのソファセットと、角に寝転べるワイドソファがあってもまだまだ余裕のある広さ。ホワイト×グレーの配色が、上品で優美な印象です。
なんてぜいたくな眺めなのでしょう。客室でくつろぎながら1枚の大きな絵画を眺めているような、豊かな気持ちになれます。11月からの冬の時期には、雰囲気が一変して、まるで水墨画のような幽玄の世界になるそうです。
客室の飲み物には、ホテルオリジナルのコーヒーと「メグスリノキ ブレンドティ」が用意されています。富山で盛んなガラスのオブジェや、錫のトレーなどの工芸品と、高級洋食器のウェッジウッドのカップ&ソーサーを飾るように収納したこのボックス型シェルフも素敵です。
寝室にはダブルベッドを2台用意。部屋の手前の方にドレッサーと収納が付いています。収納スペースはリビングにもあり、浴衣やパジャマなどはそちらに収納されています。
もうひと部屋、畳敷きの和室があります。漆塗りの戸棚、柿渋のテーブル、越前和紙のランプなど、用意されている調度品のひとつひとつが選び抜かれたもので、気分を変えて和室のよさが感じられる空間です。
ラグジュアリースイートは、浴室の造りもハイグレード。まずは脱衣室から。洗面台が2面あり、ステンレスの洗面ボウルやドリアデ社のパトリシア・ウルキオラのスツールが生活感を感じさせないオシャレな空間を演出しています。
213号室はジャクジータイプバス。壁一面の大きな窓から神通峡の景色を眺めつつジャクジーで温まる時間は、想像通りの気持ちよさです。お風呂場から直接、テラスへ抜けられるようになっているので、外気浴もしやすいです。
213号室のジャクジーはノーマルなお湯ですが、客室のお風呂で温泉が楽しめる部屋もあります。
この客室のお風呂はドライサウナも付いています! サウナにも窓が付いていて、ジャクジー越しに外の景色が眺められるので、心地よい外の光を感じながらサウナに入ると爽快感が倍増します。
客室や大浴場などに用意されている基礎化粧品は、メイドイン富山の雅樂倶オリジナル。名称に用いられている「つべつべ」は富山の方言で「すべすべ」のことで、ネーミングもかわいいです。
洗顔料の「富山生まれの洗顔水」は、富山産の蜂蜜を使用したオリジナル洗顔で、メイクも落とせるそう。ローズ水たっぷりの「つべつべ化粧水」はさらっとしてて余計なものが肌につかない感じが気持ちいいし、特にいちばん右側の100%植物性天然美容オイル「つべつべ美容液」は、たっぷり濃厚ながらベタベタしすぎない伸び具合で、翌朝の“つべつべ”感がひと味違いましたよ!
手拭いやボディタオル、歯ブラシなどは、布製のアメニティポーチに入っています。シンプルでボタンのデザインがかわいいアメニティポーチはお持ち帰りOKです。
歯ブラシとヘアブラシは生分解性のバイオマス素材で作られたものを使用しているのも、環境へ配慮した取り組みの一つです。
タオルはフェイスタオルとバスタオルが用意されています。フェイスタオルはあまり毛足が長くなく、程よい厚さで拭き取りやすいもの。バスタオルは毛足が長く、フワフワなタオルに包まれるように拭き取ることができます。
このほか、ふかふかのバスローブも用意されているので、サウナに入って外気浴を楽しむのにさっと引っ掛けたり、お風呂上がりに汗が引くまでに羽織ったりするのに便利です。
部屋着としてオリジナルの浴衣が用意されています。一般的な浴衣よりも厚手な綿100%の浴衣は、一枚で着ても透けたり、体のラインが出たりしにくくて、よりリラックスできます。半幅帯だけでなく腰紐も用意されているから、着崩れしにくく着ることができます。
オープン以来変わらないデザインで、海外のゲストにも人気なのだそう。
さらにルームウェアも用意されています。コットン100%のシャツは柔らかいガーゼのような肌ざわりと軽さが特徴で、リラックス感たっぷり。こげ茶のワイドパンツとの組み合わせがオシャレ!
ちなみにホテル内はドレスコードなしなので、チェックイン後は浴衣やルームウェアで公共エリアに出てもOKです。
クローゼットに用意されているもうひとつのアイテムが、大浴場へ行く際に必要なものを入れて持ち運べるこのビニール製のカゴバッグです。東南アジアの民族グッズのような柄で巾着ほどカジュアルすぎないところと、たっぷりの大容量がありがたい優れものです。
食材から器まで富山のモノにこだわったディナー&モーニング
この場所でしか味わえない食体験ができるのも「リバーリトリート雅樂倶」の魅力です。
ディナーはレストラン「TORÈSONNIER」にて。店名は、料理人にとって最大の宝物といえる季節の優れた食材を意味する造語で、富山の最上の食材を使ったフランス料理が味わえます。
このレストランの前身は全国にその名を知られる富山の名店「L’évo」。「TORÈSONNIER」のシェフを務めるのは、かつて「L’évo」のスーシェフとして働いた田中逸平さんです。ちなみにどちらのレストランもフランスの有名ガイドブックで高評価を受けています。
アミューズや前菜の小さなひと口にも、食材への感謝や料理することの情熱を感じる丁寧さがあって、それでいてユニークな遊び心が感じられ、食べて純粋においしい!
例えばこのアミューズ の1品「富山・新湊漁港のワタリガニを使用したタルト」は、温かい焼きたてのタルト生地にワタリガニの身をたっぷりのせ、さらにその上に春巻の皮を型抜きした小さなカニがたくさんのっているんです。楽しい発見が食事の時間を華やかにします。
ガラスや陶器など、地元・富山で創作活動をする作家の器が料理のおいしさを引き立てます。シェフが作家の元へ赴き実際に対面するそうで、創作の思いが料理へ影響を与えることもあるのだとか。
こちらは「八尾町で作られた大豆・あまうららの豆乳を使用した豆腐と自家菜園の野菜のガズパチョジュレ、天然葉ワサビのオイル」。カットガラスの生み出す涼やかな質感がガスパチョの野菜の青味の味わいとリンクして深く印象に残ります。
メインの肉料理は「立山・柏ファームのとやま酒粕育ちの和牛 薪焼」。酒粕で育てる富山のブランド牛「とやま和牛 酒粕育ち」の肉質が軟らかく甘みのある味わいももちろんおいしいのですが、それと並ぶほどの感動があったのは甘くみずみずしいナスです。
シェフは信頼のおける生産者から仕入れるだけでなく、自分で野菜を育てて、納得できる味に育ったもののみを提供しているそうで、このナスもシェフが育てたもの。栽培の過程から収穫のタイミングなど、最良の状態を見極めて使うことができるのだそうです。
料理は用意できた食材によって異なるので、その日にどんな料理と出合えるのかもお楽しみの一つ。富山県内にある醸造所や酒蔵で造られたワインや日本酒などの地酒とともに、ひと皿ひと皿をじっくり味わってみてください。
朝食は「和彩膳処 樂味」での和食です。料理の内容はその時により変わりますが、土鍋の炊きたてご飯とともに、野菜や魚を中心にした季節のお総菜があれこれ。朝からたくさんの品数を食べられるのがうれしいです。
まずは「目覚めの一杯」とよばれているこのドリンクから。地元産ショウガを使用したり、季節のフルーツをネクター風にアレンジしたりとその時期によって変わります。ロビーのドリンクコーナーなどでも目にした作家さんのグラスがかわいい。
野菜の炊き合わせや豆腐などの先付けのほか、「富山湾のアオリイカとサワラの昆布締」や「サワラの西京漬」など、どの料理も仕込みや味付けが丁寧に行われていて、料理人の細かな仕事が感じられます。
土鍋の蓋を開けると漂う炊きたてのご飯の香りに食欲がそそられます。お米は川を挟んだ向かいにある集落で合鴨農法によって育てられた有機棚田米だそう。粒がひとつひとつ立ったしっかりとした味わいのお米です。
富山市のたまご園「田村農園」のうみたて卵を抹茶茶碗で溶いて卵かけご飯にするほか、ガラス製の専用容器に入った新鮮野菜の浅漬けなどご飯のお供が用意されているので、ご飯が何杯もすすみます。
訪れた時に朝からどんな料理が食べられるのか楽しみにしていてください。
春日温泉の温もりと薬膳スパで身も心も癒やされる
客室のお風呂もプライベートでぜいたく感がありますが、せっかく温泉の楽しめる宿に来たのであれば広々とした大浴場での湯あみもまたよし。御影石と檜を組み合わせた内湯と縁起のよい赤石を荒々しく配した露天風呂で春日温泉の湯を楽しみましょう。
大浴場は時間によって男女が入れ替わります。お風呂の造りや眺める景色が異なるので両方入れるといいですね。
ちなみに大浴場はレストランの利用者やビジターも利用できます。
大浴場前の湯上りスペースには、9月に行われる「おわら風の盆」で有名な八尾町の牛乳とコーヒー牛乳、地元で長く親しまれている「バーモンド・デリシャス」というリンゴ風味のジュースが用意されています。どれも飲んでみたくて、困っちゃいます。
また、ぜひ受けて欲しいのが「薬都逗留 スプリングデイスパ」のスパトリートメント。漢方オイルを用い、筋肉にアプローチする雅樂倶オリジナルの「雅漢樂」45分1万6000円~や富山産の100%天然エッセンシャルオイルを使う「森林香」40分1万5000円~など、薬都・富山らしさを織り交ぜたトリートメントが受けられます。
スパの個室には専用の露天風呂が付いていて、丁寧なカウンセリングを受けた後は、まず温泉に浸って体を温めるところからスタート。トリートメント後にはハーブティーと余韻を楽しむ女性専用のアフターカウンセリングルームもあり、トリートメントの前後も合わせてじっくりと癒やしを得ることができます。
また、この「薬都逗留 スプリングデイスパ」には宿泊客専用スパがあります。大きなジャクジーが2つと川に面した温泉露天風呂、ドライサウナとミストサウナがあり、シャワーやシャンプー類に「ReFa」の製品が用意されたスペシャル仕様。パウダールームは仕切り付きで、お風呂上がりのケアもゆっくりと行えます。
ホテルから車で行ける、おすすめ観光スポット3選
ホテルのある春日温泉は富山駅から車で約40分、富山空港から車で約30分の山あいに位置するため、観光するなら富山駅周辺の富山市街へ移動しましょう。富山市街地は市電やトラムなどの路面電車が充実しているので、移動に利用してみましょう。【ホテルから車で40分】
富山県美術館
【ホテルから車で40分】
富岩運河環水公園
【ホテルから車で35分】
富山市ガラス美術館
リアルなおすすめタイムスケジュール
ホテルを有効に活用しながら過ごすおすすめのタイムスケジュールはこちら。チェックイン開始と同時にホテルに入って、時間の許す限りホテル内やその周辺でと過ごすのがおすすめです。ゆったりとした時間の流れるホテルで、アートや温泉、富山の自然、ごちそうを心ゆくまで堪能してください。
【1日目】
11:00 富山駅到着。駅周辺でさっそく富山のすしを味わう
14:00 ホテルにチェックイン。館内散策や温泉、客室でゆったりした時間を満喫
18:30 レストラン「TORÈSONNIER」でディナー
21:00 スプリングデイスパ「薬都逗留」でトリートメントを受ける
23:00 暖かい季節ならテラスで、肌寒い季節はリビングで少しお酒を楽しんでから就寝
【2日目】
6:30 客室の浴室、または大浴場で朝一番にお風呂
7:30 和彩膳所「樂味」で朝食
8:30 春日公園内やホテルの周りをゆっくり散策
9:30 サブロビーのドリンクを持ってリバーサイドテラスでゆっくり
10:00 部屋に戻って荷造り
11:00 チェックアウト。ホテルの送迎で富山駅へ。
12:30 市電で市街地へ。ランチの後、富山市ガラス美術館に
16:00 市電で駅まで戻り、富岩運河環水公園を通って富山県美術館へ
18:30 富山駅から北陸新幹線で帰路へ
「リバーリトリート雅樂倶」は、富山の魅力が立山や富山湾などの”豊かな自然の恵み”と、さらにもうひとつ、アートへの造詣の深さから分かる“心の豊かさ”であると感じられる、ほかには類をみない宿です。都会の喧騒を忘れる富山の山里で、世界最先端のモダンアートと細部にまで心を尽くした富山のおもてなしに浸ってみてください。
■リバーリトリート雅樂倶(りばーりとりーとがらく)
住所:富山県富山市春日56-2
TEL:076-467-5550
チェックイン/アウト:14時/11時
料金:1泊2食付3万3500円~
アクセス:JR富山駅から高山本線で45分の笹津駅から徒歩15分
Text:山下あつこ(アトリエshiRo)
photo:リバーリトリート雅樂倶/アトリエshiRo
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