
名建築の隠れ宿「Hotel宇多野京都別墅」で静寂にひたるひととき【すみずみ宿泊ルポ】
平安時代、宇多天皇が過ごされた宇多野の地。昭和初期に建てられた邸宅をリノベーションして2024年11月にオープンしたのが、「Hotel宇多野京都別墅(ほてるうたのきょうとべっしょ)」です。約1000坪の敷地に建物と日本庭園があり、客室はわずか10室のみという贅沢な宿。全室に温泉がひかれ、気の向くままに温泉三昧といきましょう。
Summary
京都・宇多野エリアってどんな場所?
宇多野は平安時代から静かな山稜の地として知られ、明治期には文化人や経済人らが多く住んでいました。「Hotel宇多野京都別墅」もその一つで、昭和14年(1939)に、京都の財界人・大渡光蔵氏の邸宅として建てられたものです。
当時のよりすぐりの技術で建てられた邸宅と日本庭園を、淡路島に本社を置く「ホテルニューアワジグループ」が、ほとんど当時のままにリノベーションし、「Hotel宇多野京都別墅」としてオープンしました。京都市内でも数少ない昭和初期の大規模邸宅建築として、京都市の「京都を彩る建物や庭園」に選定されています。
公共交通機関を利用する場合、JR京都駅から嵯峨野線花園駅で下車。送迎車(予約制)で3分。四条烏丸駅から市バス8号系統(高雄・栂ノ尾行)で宇多野御屋敷町下車すぐです。市内中心部の喧騒を離れた立地ながら、アクセスのよさも魅力です。
お茶とお菓子をいただきながらチェックイン
玄関で靴を脱いで上がると目の前にフロントがあります。でも、ここはチェックアウトの場所なんです。
案内されたのは広いダイニング。伝統的な書院造りに京都在住の著名な和紙デザイナー・堀木エリ子さんによる光壁や光柱、障子和紙などがあしらわれています。堀木さんが過去に作られたさまざまな和紙を組み合わせた欄間がとっても素敵。ここでチェックインの手続きをします。
「移動でお疲れでしょうから、まずはゆっくりなさってください」と、お茶とお菓子をいただきながらチェックイン。やさしい甘さの「餡バタークッキーサンド」と京都のお茶屋さんの抹茶を加えた煎茶をいただきました。
見た目もかわいいお菓子は、パティシエが館内のキッチンで手作りしています。
そのほかにもセルフサービスで自家製のスナックやコーヒー、紅茶、ジュースなどをいただけます。
眺望バツグン! 6名まで泊まれる鳴滝本館「松」
書院造の本館2階の「松」の客室は137.9㎡という広さで、レギュラーベッドが2台。3~6名で泊まる場合は広い和室に布団が敷かれます。3世代ファミリーやグループでの利用が多いそうです。
2階の広縁からは、有名な庭師、重森三玲氏が設計した庭園を見下ろせます。梅や枝垂れ桜、紅葉といった四季折々に変わる風景に加えて、嵐山や嵯峨野方面の山々も借景に。
17畳の和室は京間とよばれる大きなサイズ。欄間に描かれているのは京都の風景で、反対側の広縁からは中庭が見えます。この中庭は新たに造られたものですが、360度どこから見ても美しい絵になるように計算されています。
ふすまの引手(ひきて)に、七宝焼が使われているなんて、なんてゴージャス! 建てた人の思いが伝わります。
部屋のお茶は京都の老舗「一保堂茶舗」の茎煎茶、コーヒーは同じく京都「小川珈琲」のものです。
冷蔵庫には水やお茶、地サイダーが冷えています(無料)。湯上がりにちょうどいいビールもあります(有料)。
客室に入ったらすぐに入れるように、お風呂はちょうどいい湯加減で準備されていました。肩までつかれる深いタイプの湯船です。京都・清水にあるグループホテルの敷地から湧出する温泉を、毎日運び湯し、循環式なので24時間いつでも入れます。アルカリ性単純温泉なので美肌効果や疲労回復が期待できますよ。
シャンプー、コンディショニング、ボディソープは「awaji insence」製。淡路島の名産品であるお香をイメージした香りが特徴です。女性用の基礎化粧品は「HABA」のもので、フェイスパックも人数分設置。さらに歯磨き粉は人気のイタリア製「MARVIS」でした。
各客室にはバスローブとパジャマ、浴衣、羽織があります。ダイニングや庭を含めて館内は、浴衣と羽織でOK。ローブとパジャマはお部屋のみのくつろぎ着です。
昭和レトロなスパニッシュ風洋館「樟」
スパニッシュ風の洋館は、レトロな雰囲気がとっても素敵な「樟(くすのき)」。かつて玄関として使われていた場所がティースペースです。
客室の格天井(ごうてんじょう)は当時の職人技が生きています。照明は1930年代のアメリカ製のもので、客室の雰囲気によくマッチしています。
昭和チックな洋風バス。蛇口は温泉と普通のお湯の2種類で、自分でお湯をためるタイプです。
離れや新館もそれぞれ趣が違って素敵!
鳴滝本館離れ1階「禄(ろく)」は、2方向に縁側と専用の庭がある客室です。95.9㎡の室内は、お茶室の前室として使われていたそうですが、こんなに広い前室とは驚きです。
網代天井、装飾のある欄間、そして壁は年月が経つにつれて黒っぽく変化する錆壁(さびかべ)。土壁ならではの経年変化を楽しむ伝統的な日本の建築技術が使われています。
真新しい建物の香りがする新館1階「山桜(やまざくら)」は、広くて明るい客室です。お風呂は青石造り和風風呂で、もちろん温泉です。
畳に布団を敷けば4人まで泊まれるので、小さな子ども連れファミリーにおすすめです。
特製ジェラートを手に庭園を眺めるひととき
1階に、京都×淡路島×瀬戸内を味わうジェラテリア「Shima-Otto(しまおっと)京都宇多野店」を併設。淡路島牛乳や京都の抹茶、瀬戸内の旬のフルーツを使った自家製ジェラートはホテルのパティシエの力作です。(ジェラート500円~)
ジェラートは、ホテル宿泊者は店内カフェやダイニング、客室で食べてもOKです。
宿泊客以外はテイクアウトのみですが、庭園で食べるのも可。利用の際は本館フロントにお声がけを。
■Shima-Otto 京都宇多野店(しまおっと きょうとうたのてん)
営業時間:宿泊者9~22時、宿泊者以外 12~17時
定休日:不定休 ※KYOYASAKA-GELATERIA Shima Otto公式SNS要確認
宿泊者は利用可
重森三玲氏が造った庭を散策してみました。蓬莱山に見立てた築山(つきやま)の前に、浜石と船石で海の景観を表しています。庭には茶室の庭などによく使われている京都産の鞍馬石がたくさん用いられています。
広い芝生の向こう側に、鳴滝本館と洋館が見えています。書院造の本館、スパニッシュ風の洋館の対比がおもしろいですね。
御食国・淡路と京都の食材が融合した食事
食事は淡路島と京都の食材を取り入れた和洋折衷の料理です。朝食は季節のスムージーから始まって、京都のおばんざい5種類。季節ごとの煮物やおひたしが味わえます。寝起きの胃にやさしいのが、鯛の骨のスープのしゃぶしゃぶで食べる温野菜。だしの利いたスープでそのまま食べたあとは、バーニャカウダで味変を楽しめます。さば、玉ねぎ、みそ、オリーブオイルのバーニャカウダの深みのある味に元気が出ます。
焼き物、焚き物など盛りだくさんのおかずですが、なんといっても1組ごとに釜炊きされる、淡路島のブランド米「鮎原米(あいはらまい)」のおいしさは抜群! 朝からパワーチャージできます。
夕食は、京都と淡路島の旬の食材を用いた和食のコース。先付、煮物椀、お造り、八寸、焼き物、おしのぎ、強肴、お食事に、2種類から選べる水菓子と、ひとつひとつが見た目にも美しく味わい深い料理です。淡路島は古くから宮廷に海産物を中心に食材を献上した御食国(みけつくに)です。その淡路島から、ホテルニューアワジグループのルートを生かして、とれたての新鮮な魚介類を京都に直送。希少な淡路牛も京都で味わえます。
酒どころの京都らしく、地酒やクラフトビール、ワインをはじめとする厳選されたドリンクも楽しめます。食後にもう少し飲みたい場合は、ダイニングに併設されたバーからテーブルにドリンクが運ばれます。ライトアップされた庭園をながめながら、ゆっくりと京都の夜を楽しめます。
朝食、夕食ともに、チェックインでも利用したダイニングでいただきます。食事の時間は、朝食7時30分~10時、夕食18~20時(LO)、ディジェスティフサービス21~23時です。
ホテルから徒歩で行ける、周辺のおすすめスポット3選
滞在を楽しみつつ周辺観光も忘れずに!徒歩圏内にある仁和寺の参詣ついでに、散策しながら休憩やおみやげ選び、ランチタイムを楽しめるスポットをご紹介。【ホテルから徒歩約13分】御室 さのわ
仁和寺散策の後に立ち寄りたいカフェ「御室 (おむろ)さのわ」。和モダンの雰囲気が素敵な空間で、洋菓子とこだわりの日本茶をいただきましょう。
【ホテルから徒歩約18分】京都おはし工房
日本初の誂え(オーダーメイド)御箸の専門店。使う人の身長が分かれば、そこから使いやすいサイズを割り出して誂えてもらえるお箸は知人のプレゼントや自分へのおみやげにピッタリです。お気に入りの材を選ぶのもたのしいひととき。
【ホテルから徒歩約20分】京料理 萬長
妙心寺の北門前の京料理店。吉田兼好作の『徒然草』にちなんで名付けられた名物の「つれづれ弁当」(手桶弁当)が人気です。『徒然草』に描かれた御室仁和寺や吉田兼好が居を構えた双ケ丘、花園法王開基の妙心寺にちなんだ料理を堪能してみて。
リアルなおすすめタイムスケジュール
【1日目】
12:00 JR京都駅から地下鉄で移動し四条河原町界隈を見学
15:00 四条烏丸駅から市バスでhotel宇多野京都別墅へ
15:05 ダイニングでお茶とお菓子をいただきながらチェックイン
15:30 ジェラートをチョイスしてお部屋でリラックス
17:00 お風呂で、至福のひととき
18:00 ディナータイム
20:00 ラウンジ&ダイニングでディナータイムの余韻を
21:00 お部屋でリラックスタイム
23:00 就寝
【2日目】
6:30 起床、朝風呂を楽しむ
7:30 ラウンジ&ダイニングで朝食。パワーチャージ!
8:30 中庭を散策し、ラウンジでティータイム
10:00 チェックアウト、仁和寺へ
11:30 京都おはし工房でおみやげ選び
12:00 京料理 萬長でランチタイム
13:00 きぬかけの路を散策しながら龍安寺から金閣寺を巡る
16:30 金閣寺からバスでJR京都駅へ
17:30 JR京都駅着
昭和初期の経済人がこだわりぬいて造ったお屋敷は、随所に職人技が生きていました。今はもう作れないような波ガラス、高級な網代天井など、優れた近代建築が生み出す空気感に癒やされました。
■Hotel宇多野京都別墅(ほてるうたのきょうとべっしょ)
住所:京都府京都市右京区宇多野御屋敷町14
TEL: 0570-078857(ホテルニューアワジグループナビダイヤル)
時間:チェックイン15時/チェックアウト:11時
料金:1泊1室2食付2名利用時1人あたり4万700円~
アクセス:JR京都駅から嵯峨野線、花園駅で下車。徒歩10分。(花園駅まで送迎有)
四条烏丸駅から市バス8号系統(高雄・栂ノ尾行)で宇多野御屋敷町下車すぐ
Text&Photo:松田きこ(ウエストプラン)
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