
神戸・北野「風見鶏の館」へ。ドイツ人貿易商のこだわりが光る、館内のみどころを徹底紹介!【2025年7月18日公開再開】
数々の異人館が立ち並ぶ、神戸・北野エリアのシンボルといえば「風見鶏の館(かざみどりのやかた)」。北野坂から見える色鮮やかなレンガの建物が目を引きます。「風見鶏の館」は耐震工事のため、2023年から長期休館していましたが、2025年7月18日(金)から一般公開を再開しました。ドイツの伝統様式を取り入れながら、当時の新しい芸術様式、アール・ヌーヴォーの動きを感じる装飾が施され、細部にわたるまでみどころたっぷりの館内を詳しく紹介します。
長期休館中だった「風見鶏の館」がいよいよ公開再開!
耐震工事のため約1年9カ月にわたって休館していた神戸・北野の「風見鶏の館」。2025年7月18日から一般公開が再開されました。壁に筋交いを入れ、シャンデリアに落下防止を施すなどして、見た目をほぼ変えずに補強された、将来にわたって貴重な文化財を残すために行なわれた耐震工事。北野のシンボルが久しぶりに公開されることで、また多くの観光客が訪れそうですね。
入館料金は500円。すぐそばに立つ「萌黄の館」との2館券は650円、シティループ1日乗車券を持参すると450円です。JR三ノ宮駅や阪急・阪神の神戸三宮駅などから北野までは徒歩15分ほどですが、北野の街は急な上り坂が多いので、シティループで行くのがおすすめです。
シティループは神戸の観光スポットをめぐるバス。最寄りの北野異人館停留所から「風見鶏の館」までは徒歩5分です(バスの乗り方や乗り場などは公式Webサイトを参照)。
ドイツ人貿易商、ゴットフリート・トーマス氏のこだわりが詰まった邸宅
「風見鶏の館」は明治42年(1909)ごろにドイツ人貿易商、ゴットフリート・トーマス氏の自邸として建てられました。20歳の若さで来日し、神戸で貿易商として成功を収めたトーマス氏とクリステル夫人、一人娘のエルゼさんがこの邸宅で暮らしていました。大正3年(1914)に当時14歳だったエルゼさんがドイツの学校に入るため帰国。その後、第一次世界大戦が始まり、トーマス一家が再びこの館に戻ってくることはありませんでした。
建築を手がけたのは、ドイツのゲオルグ・デ・ラランデ氏。明治36年(1903)に来日し、横浜を中心に活躍した名建築家です。
尖塔の上に立つ風見鶏がシンボル。異人館唯一の外観に注目!
この館のシンボルは、尖塔の上に立つ風見鶏です。風見鶏は警戒心の強い雄鳥から魔除けの意味があるほか、キリスト教の教勢を発展させる効果があるといわれてきました。風見鶏は鉄製で、幅90cm、高さ80cmほど。飾りだと思われがちですが、風が吹けば今も動きます。
この風向計の機能が、貿易商だったトーマス氏にとっては大きな意味を持っていたという説があるそう。当時は通信機器が発達していなかったため、神戸港に積み荷が到着する詳細な時刻まではわかりませんでした。トーマス氏は風見鶏が示す風向きを参考に、船の運行状況を読んで陸揚げの準備にあたっていたのではないか、と推測されています。風見鶏の回転装置には、当時の最高水準の技術が使われていたそうで、当時のトーマス氏の熱心な仕事ぶりを想像するのもおもしろいですね。
館の裏には「家屋銘文」が示されています。ドイツ語で「私の家は私の世界です。この家を気に入ってくれる人は、誰でも大歓迎いたします」と書かれています。一説には表通りに見えない場所に書いていることから、家に幸運を呼び込むためのおまじないではないかといわれています。
「風見鶏の館」は北野・山本地区に現存する異人館のなかで、外壁がレンガの建物としては唯一。色鮮やかなレンガの色合いに加え、石積みの玄関ポーチ、2階部分のハーフ・ティンバー(木骨構造)など、ほかの異人館とは異なる重厚な雰囲気をもっています。
玄関入口のドアには、図案化された飾りがついています。この飾りも館の不思議のひとつで、何の模様かが解明されていません。一説にはクリスチャンだったトーマス氏が十字架をデザインした、もしくは中華風の模様をあしらったという説もあります。このデザインは神戸フラワーロードのベンチや柵などにも採用されてみます。ぜひ街で見つけてみてくださいね。
部屋ごとに意匠が異なる館内のみどころをチェック
1階には玄関ホール、応接間、居間、食堂、書斎があります。館内の大きなみどころは、豪華な1階とシンプルな2階のコントラスト。
1階は客をもてなす迎賓館のような役割を兼ねていたため、豪華で細部まで凝った内装に。2階は一家のプライベートな空間のため、シンプルですっきりとした空間となっています。
全体にドイツ伝統様式を取り入れながら、19世紀末から20世紀初頭にかけての新しい芸術運動(アール・ヌーヴォー)の動きを感じさせる意匠があります。食堂はドイツの宮廷や城によく見られる城館風の造りです。
また、シャンデリアの上部は王冠のデザインになっています。こちらもアール・ヌーヴォーに影響を受けたデザイン。ランプの柔らかい曲線美による照明が、部屋の印象に大きく影響を与えているのがわかりますよね。
こちらの取っ手金具も当時流行したアール・ヌーヴォーの影響が垣間見られるデザインです。興味深いのは、1階と2階のデザインの違いです。
1階は客をもてなす空間として、しっかりと装飾を施し、2階は生活空間として、シンプルな造りになっているのがわかります。生活面では質素・倹約に努める堅実なドイツ人気質が現れていておもしろいですよね。
応接間にもまたアール・ヌーヴォーの影響を感じさせるシャンデリアや豪華な三段カーテンが採用されています。
居間に飾られたピンク色のシャンデリアには、よく見ると支柱に滑車とチェーンが付いています。滑車とワイヤーで上下に動かすことができるのです。
当時の電球は40ワット程度で、夜はかなり暗かったため、本を読んだり、トランプを楽しんだりするときには上下に動く照明を設置し、明るさの工夫をしたようです。
こちらの照明もかなり凝ったデザインで、幾何学模様の天井とあいまって、空間に優雅な雰囲気をもたらしています。
1階書斎のペンダントライトもおしゃれ。こうもり傘を広げたような天井のデザインにあわせてライトは、まるで傘の持ち手のようにも見えます。
どの角度からも光が入るように、五面のベイウィンドウになっている書斎。アール・ヌーヴォーの風刺画が描かれた柵部分にも注目を。こちらもなぜこの絵が採用されたかはいまだに不明だそうです。ドイツでは当時「ユーゲント」というアート雑誌が流行していて、リトグラフによる斬新な表紙や都会的な感覚のイラストで人気を博していました。「ユーゲント」の表紙のイラストは、この風刺画とも多くの共通点を見ることができるといいます。
もしかするとトーマス氏やラランデ氏が、ドイツから船で運ばれてきた「ユーゲント」から発想を得て、邸宅の意匠に採用したかもしれない。そんなことを想像しながら家の細部を眺めるのも楽しいです。
階段を上がると、家族のプライベートフロアです。2階にはホール、朝食の間、客用寝室、子供部屋、寝室、ベランダがあります。
2階は1階に比べ、簡素な造りになっていますが、客用の寝室は壁紙とカーテンの模様をコーディネートするなど、おもてなしの心配りが。アート&クラフツ運動の提唱者で、モダンデザインの父とよばれるウィリアム・モリスの影響がみられるファブリックで装飾されています。
「子供部屋」は、トーマス氏の一人娘・エルゼさんの部屋。南向きで日当たり良好、写真はほんの一角で、なんと24畳もの広さがあります。当時は洋服ダンス、整理ダンス、テーブルとイス、洗面台、勉強机、縫製台、人形コーナーがあったそうです。
神戸の街並みが一望できるベランダです。日当たりがよく、椅子も置かれているので休憩するのもおすすめ。
ベランダの天井には金具が取り付けられていて、かつては吊り輪が設置されていました。吊り輪はドイツで発展した競技で、トーマス氏が体を鍛えるために設置したとみられています。
元寝室だった2階のショップでオリジナルグッズが買える♪
元トーマス夫妻の寝室で、20畳ほどの広さがある空間はショップになっていて、おみやげが買えます。「風見鶏の館」オリジナル商品や神戸みやげにぴったりな紅茶やお菓子なども揃っています。
久しぶりに一般公開された「風見鶏の館」はいかがだったでしょうか。北野の高台にあるレンガ装飾の外観と風見鶏は、当時海からよく見えたそうです。まるで迎賓館のような豪華な1階から日当たりがよく心地いい2階に上がると、トーマス一家に招かれた客人のような気分になります。
昔も今も変わらず神戸を代表する異人館へ、ぜひ足を運んでみてくださいね。
■風見鶏の館(かざみどりのやかた)
住所:兵庫県神戸市中央区北野町3-13-3
TEL:078-242-3223
営業時間:9〜18時(入館は17時45分まで)
料金:大人500円
定休日:2・6月の第1火曜(祝日の場合は翌日)
アクセス:J R三ノ宮駅、阪急・阪神神戸三宮駅、地下鉄三宮駅、新幹線新神戸駅から徒歩15分
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Text:鴨 一歌
Photo:沖本 明
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