
【香川】「直島新美術館」は“直島アート”35年の集大成! 2025年5月開館のアートスポットを徹底レポート
現代アートで知られる直島に、新しい美術館が誕生したのをご存じですか? 瀬戸内海に浮かぶ島々で、1980年代後半からアート活動に取り組んできた「ベネッセアートサイト直島」。その活動拠点となる直島に2025年5月、「直島新美術館」がオープンしました。建物の設計は、「ベネッセアートサイト直島」で当初より数々の建物を手がけてきた安藤忠雄氏。今回は立地からアクセス、建物や展示作品の魅力、絶景カフェなど、「直島新美術館」を詳しくご紹介。「瀬戸内国際芸術祭2025」期間中はもちろん、期間外でも鑑賞できておすすめです。
2025年5月、今後の中核となる新しい美術館が直島に誕生
30年以上かけて瀬戸内海に浮かぶ島々でアート活動に取り組み、自然豊かな離島の魅力を再発見し、世界に発信し続けてきた「ベネッセアートサイト直島」。今回、直島に誕生した「直島新美術館」はその集大成とされ、館名に初めて「直島」と冠しました。また、「新」には、長年の活動が新しい価値観の創造であったこと、今後も既存の価値観に挑戦し続ける意志が込められています。
「直島新美術館」では、今まで目指してきた「自然・建築・アートの共生」や、「地域との協働によるコミュニティの発展」といったテーマをさらに深化させています。また、アジアに視点を置き、日本や中国、韓国、インドネシア、タイ、インド、フィリピン、マレーシアなどアジア出身アーティストの現代アート作品を展示しています。
「直島新美術館」が建つのは、直島東側の本村地区(写真中央の長方形のグレーの建物)。「ベネッセアートサイト直島」では初の“集落のなかにある美術館”で、小高い丘の上に立っています。
直島新美術館」へのアクセスやチケット購入は?
「直島新美術館」へのアクセスは、まず船で直島の「宮浦港」を目指します。
■宇野港(岡山県から)→「四国汽船」の小型旅客船だと15分、フェリーだと約20分。1時間~1時間30分に1本。
■高松港(香川県から)→「四国汽船」の高速旅客船だと約30分、フェリーだと約50分。1~3時間に1本。
「宮浦港」からは町営バスで約6~8分、バス停「農協前」もしくは「桃山」で下車し、そこから徒歩約10分で「直島新美術館」に到着します。「宮浦港」からレンタサイクルで行く方法もあります(約12分)。
チケットは現地の窓口で購入できますが、オンライン(日にちを指定)だと200円安く購入することができます。また「瀬戸内国際芸術祭2025」期間中は、作品鑑賞パスポートでも入館できます(秋会期10月3日~11月9日)。
まず見逃せないのが、安藤忠雄氏によるコンクリート建築
建築は30年以上にわたり、直島の一連のアート施設を手がけてきた安藤忠雄氏が設計しており、「直島新美術館」で手がける建築は10番目となります。
まずは、本村地区の観光駐車場の西側に「直島新美術館」と記されたスタイリッシュなコンクリートの壁を探してください。ロゴは、アートディレクター・祖父江慎(そぶえ しん)氏が手がけたもの。その先にある96段の階段を上ります。
階段をのぼりきった後は、入口に向かって緩やかな坂道が続きます。入口までのワクワク感を募る行程も安藤建築ならでは。地上1階、地下2階の3階建てで、2~3年もすると周辺の植栽が建物を覆い尽くすそうで、それも自然と建物の共生を図る安藤建築のポイントです。美術館の立つ本村地区になじむよう、集落でよく使われている焼杉のイメージに合わせた黒漆喰の外壁や、集落の民家から着想を得た小石の壁なども、チェックしてみてください。
安藤忠雄氏といえば、コンクリート建築。地上1階から地下2階までをつなぐ階段は、安藤建築らしさを存分に感じられる場所です。装飾のない打ちっぱなしの無機質なコンクリートが、トップから差し込む自然光と見事に調和し、安藤忠雄氏がかつて語った「光は新しい希望」という思いを体感することができます。
この階段室の両側に4つのギャラリーを配置しています。
緩やかに傾斜させた屋根もポイントで、丘の稜線とつながり、溶け込むよう考えられています。
1階北側には瀬戸内海の絶景を見渡せるカフェを併設。入館料なしで利用できるため、集落の住民もよく利用しているそうで、「ベネッセアートサイト直島」が目指す「地域との協働によるコミュニティの発展」の一介となっています。
「これからはアジアの時代」とアジア出身アーティストの作品に注力
2025年5月から「開館記念展示―原点から未来へ―」を開催中。「ベネッセアートサイト直島」の活動初期から交流があるアーティスト、「シンガポール・ビエンナーレ」でのベネッセ賞の受賞者、さらに近年のアジアの現地調査で知り合ったアーティストのなかから12組のアーティストを選出し、アジアの現代美術を中心に展示。2026年2月以降に一部の展示替えを予定しており、今後も「ゆるやかな展示替え」を行う予定だそう。
「ベネッセアートサイト直島」の創設者・福武總一郎氏は、「私にとってのアジア的な感性とは、人間も自然の一部ととらえ、自然とともに生きる姿勢」と語り、また「今後アジアの現代美術がさらに興味深いものになっていくだろうという期待」を強く寄せています。
それでは12組のアーティストによる作品のなかから、いくつかをピックアップしてご案内しましょう。
福武總一郎氏が「困難な時代でも諦めず、未来に希望が持てるよう」と、館長の三木あき子氏とともに選定した作品のなかでもっとも感銘を受けた作品が、中国出身・蔡 國強(さい こっきょう)氏の「ヘッド・オン」。99体のオオカミが全力で走り、ガラスの壁にぶつかる巨大なインスタレーションで、ベルリンの壁と同じ高さというガラスの壁は、人と人、異なる集団の間にあるイデオロギー(政治や社会に関する考え方)や文化の隔たりを表しています。
一心不乱にガラスの壁に立ち向かうオオカミは、困難に立ち向かう人間を表しているそう。ガラスの壁にぶち当たっても、すぐさまスタート地点へ向かうオオカミもいます。
地下2階の横に広い展示室をまるごと使い、躍動感あふれるオオカミを直近で、さまざまな角度から鑑賞することができます(館内すべて柵や額がなく、作品を間近に見られます)。
1階の「ギャラリー 1」では、4組のアーティストによる巨大壁画や彫刻、映像など幅広い作品が、広い空間を生かして展示されています。
思わず目を奪われてしまうのが、魚雷を抱えて頭上を飛ぶ10体の天使。アメリカン・コミックに触発されたインドネシア出身のヘリ・ドノ氏による作品で、ジャワの伝統的な人形劇で使うワヤン・ゴレ(木彫り人形)と現代の感覚を融合し、自国の抑圧的なシステムにあらがい、夢や想像する自由の大切さを訴えています。
こちらは、ヘリ・ドノ氏と同じインドネシア出身・インディゲリラ氏の2人による合作。ジャワの影絵芝居であるワヤン・クリとイラストを組み合わせて人間の日常活動を描いた、7点のポップでエネルギッシュな作品。ロボットや自然、科学、文明などの調和・共生を表現しています。
地下2階では、韓国出身のソ・ドホ氏が自身が暮らしてきた家の玄関や廊下などを縮小し、カラフルなメッシュ状の布で再現した作品を展示。ソウルやニューヨーク、ロンドンなどに加え、「直島新美術館」が立つ本村地区の民家の廊下も新たに加えられました(手前の青い部分)。人生のいろいろな通過点を悟った経験から生まれた私観的な作品で、鑑賞者は連なる8つの細長い作品の中を歩くことができます。
「地域との協働によるコミュニティの発展」という「ベネッセアートサイト直島」が掲げるテーマを、もっともわかりやすく表現した作品が、1階エントランスに展示されたこちら。
2020年から直島に移住している下道基行氏が、マレーシアの文化化活動家であるジェフリー・リム氏とともに、直島諸島の漂流物から手作りしたボックスカメラで島民を撮影。小さなモノクロ写真が連なり、その一つひとつに島民の生き生きとした姿がとらえられています。
そのほか、村上 隆氏による「洛中洛外図 岩佐又兵衛 rip」も必見。近世の京都の名所や市井の暮らしを描いた17世紀の屏風絵を参照した横幅13mの大作で、2700人が暮らす様を緻密に描くことで、生死や明暗が隣合って存在するという普遍的なメッセージを発してます。DOB君やカイカイ、キキといった村上隆氏が生み出したポップなキャラクターも描かれているので、探してみてください。
今後は2026年に、サニタス・プラディッタスニー氏による瞑想体験を誘う仏塔を中心とする作品を屋外に展示予定。2025年秋以降に仮設のパヴィリオンが登場し、作品にちなんだプログラムが行われるので、そちらもぜひチェックしてみて。
海が一望できる絶景カフェだけの利用もOK
ぜひ立ち寄りたいのが、1階にある多目的カフェスペース「&CAFE(あんどかふぇ)」。テラスはもちろん、室内からも瀬戸内海が一望できます。美術館が島の東部にあるため、遠景も街ではなく、ひたすら海と島!というのも高ポイント。天井が高く、開放感も抜群です。
「&CAFE」では、インド出身のN・S・ハルシャ氏による作品も展示しています。3面の壁に、インコによる「結婚式」「調理」「食事」様子が色彩豊かに描かれ、幸福感のある場所を作り出しています。
カフェでのランチなら、うどんを練り込んだ「うどんパン」を使った「瀬戸内産しらすの味噌チーズトースト」750円がおすすめ。鶏のさぬき味噌漬け焼きなどが入った「瀬戸内プレート」1800円や、「南インド風ヴィーガンプレート」1800円(ともに限定30食)もあります。
「わらびもち 岡山県産はちみつ添え」750円や、瀬戸内の柑橘から作ったフルーツシロップを好きな割り方で楽しめる「せとぽん」750円など、デザートやドリンクも用意されているので、ぜひ瀬戸内海の絶景やアート作品を眺めながら、ゆったりとしたお茶時間を過ごしてください。
洗練されたミュージアムグッズもチェック
出口近くにあるミュージアムショップにもぜひ。アートディレクター・祖父江 慎氏が手がけた明朝体のロゴをモチーフとしたノートやTシャツ、マグネット、手ぬぐいなどのグッズが並んでいます。どれもモノトーンのスタイリッシュなデザインなので、日常にも取り入れやすいはず。
人気なのがロゴのステッカー(写真奥)。縦と横の太さの差を少なくした美しい明朝体が実感でき、思い出に残る手軽な自分みやげに最適です。左下の最終画をなめらかにした「直」も要チェック。
散りばめられたロゴがおしゃれなアクセントになった「扇子」もおすすめ。品のあるセンスが感じられ、「どこのもの?」と聞かれそう!
直島新美術館」と直島の常設展示を巡る一日プラン
最後に「直島新美術館」を鑑賞する際に一緒に訪れたい、直島の常設展示作品を一日のプラン立てでご案内。ほかの安藤忠雄建築や直島を代表する人気のアート作品を一緒に巡ります。
直島「宮浦港」に到着したら、まず隣接する宮浦緑地で世界が認める前衛芸術家・草間彌生氏の「赤かぼちゃ」を鑑賞。「増殖」をテーマとする草間彌生氏には欠かせないドットで彩られた立体作品で、ビビットな色彩とぽってりした造形がキュート! 黒いドットのいくつかは窓になっています。ぜひ中に入って瀬戸内海や周囲の風景を眺めてみてください。
■赤かぼちゃ(あかかぼちゃ)
住所:香川県香川郡直島町宮浦緑地
TEL:087-813-0853(瀬戸内国際芸術祭実行委員会事務局)
鑑賞料金・時間・定休日:鑑賞自由
アクセス:宮浦港からすぐ
漁港にたたずむ「赤かぼちゃ」で到着早々直島らしさを満喫したら、バス停「宮浦港」から町営バスで約8分、「桃山」で下車し、徒歩10分の「直島新美術館」へ(レンタサイクルだと12分)。「直島新美術館」を鑑賞したら、「&CAFE」で瀬戸内海の絶景を眺めながらランチをいただきましょう。
ランチの後は、「直島新美術館」と同じ本村にある「ANDO MUSEUM(あんどう あんどうみゅーじあむ)」へ徒歩で6分(レンタサイクルで3分)。焼杉の板塀やのれんが趣ある、本村地区の町並みを楽しみながら向かいましょう。
「ANDO MUSEUM」は、安藤忠雄氏の活動や直島での取り組みを伝える写真、スケッチ、模型が鑑賞できます。それとともに、築約100年の木造民家と打ち放しコンクリートを融合させて光と闇を巧みに操った、彼が設計した建物自体も鑑賞の対象となっています。
■ANDO MUSEUM(あんどうみゅーじあむ)
住所:香川県香川郡直島町736-2
TEL:087-892-3754(福武財団)
鑑賞料金:オンライン購入600円、窓口購入700円 ※15歳以下無料
時間:10~13時、14時~16時30分(最終入館16時)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
※「ベネッセアートサイト直島」の開館カレンダーで要確認。
アクセス:バス停「農協前」から徒歩2分
次は「ANDO MUSEUM」から徒歩3分のバス停「農協前」から町営バスで8分、「つつじ荘」で下車してすぐの「南瓜」へ。海辺に突き出た古い桟橋に置かれた「南瓜」は、約30年前に制作された草間彌生氏の代表作で、大変人気の高い屋外彫刻作品です。
草間彌生氏は無限に増殖するパターンを用いた作品で知られますが、いくつかある「南瓜」シリーズのなかでもこちらは高さ2m、幅2.5mと最大級。ベネッセハウス ミュージアムの展示作品のひとつとして初めて屋外を意識して制作され、黒いドットをまとった黄色い「南瓜」は、青い海や緑の木々と呼応し、ここでしか出合えない風景を作り上げています。
■南瓜(かぼちゃ)
住所:香川県香川郡直島町
TEL:087-892-3223(ベネッセハウス)
鑑賞料金・時間・定休日:鑑賞自由
アクセス:バス停「つつじ荘」からすぐ
※作品のある「ベネッセハウス」の敷地内は、レンタサイクルを含む車両の乗り入れ禁止。
次は「南瓜」からすぐのバス停「つつじ荘」から無料シャトルバスで7分、「地中美術館」で下車し、徒歩2分の「地中美術館」へ。
直島を代表する美術館で、印象派のクロード・モネと、2人の現代アーティストであるジェームズ・タレル氏とウォルター・デ・マリア、3名の作品を恒久展示しています。安藤忠雄氏が設計を手がけ、建物の大半が地下に埋もれながらも自然光が差し込む空間そのものも作品といえます。特にやわらかな光が差し込むなかで鑑賞する、モネの「睡蓮シリーズ」5点は必見。
■地中美術館(ちちゅうびじゅつかん)
住所:香川県香川郡直島町3449-1
TEL:087-892-3755
鑑賞料金:平日 オンライン購入2500円(土・日曜、祝日は2700円) ※15歳以下無料。オンラインチケットによる事前予約を推奨。
時間:10~17時(最終入館16時30分)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
※「ベネッセアートサイト直島」の開館カレンダーで要確認。
アクセス:バス停「地中美術館」から徒歩2分
最後は、「地中美術館」から徒歩2分のバス停「地中美術館」から無料シャトルバスで7分、「つつじ荘」で町営バスに乗り換え13分の「宮浦港」へ。そこから徒歩すぐのアート巡りのシメにふさわしい、直島銭湯「I♥湯(あいらぶゆ)」へ向かいます(「瀬戸内国際芸術祭2025」期間中は、芸術祭特急バス<外回り>)が便利)。
直島銭湯「I♥湯」は、アーティスト・大竹伸朗氏による実際に入浴できる、ユニークな作品。外観・内装はもちろん、浴槽、風呂絵、モザイク画、トイレの陶器まで、ポップでエネルギッシュなコラージュが施され、細部を見るのも楽しい! 銭湯の浴槽に浸かって一日の疲れを癒やしながらアート鑑賞、というユニークな体験、おすすめです。
■直島銭湯「I♥湯」(なおしませんとう あいらぶゆ)
住所:香川県香川郡直島町2252-2
TEL:087-892-2626(直島町観光協会)
鑑賞料金:660円 ※15歳以下310円(3歳以下は無料)
時間:13~21時(最終受付20時30分)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
※「ベネッセアートサイト直島」の開館カレンダーで要確認。
アクセス:宮浦港からすぐ
ニューオープンで話題の「直島新美術館」。直島の今までの活動や未来に思いを馳せながら、アジア出身の作家たちによる現代アート作品や安藤忠雄建築を鑑賞。絶景カフェやショップにも立ち寄って大満喫した後は、島内の常設アート施設を巡り、直島で“アートな一日”を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■直島新美術館(なおしましんびじゅつかん)
住所:香川県香川郡直島町3299-73
※お問い合わせは下記のメールアドレスへ。
info-newmuseum@fukutake-artmuseum.jp
鑑賞料金:オンライン購入(日にち指定)1500円、窓口購入1700円 ※15歳以下無料
※「瀬戸内国際芸術祭2025」作品鑑賞パスポート対象施設。
時間:10時~16時30分(最終入館16時)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
※不定休あり。「ベネッセアートサイト直島」公式サイトの開館カレンダーにて随時更新。
アクセス:宮浦港から直島町営バスで6分、バス停桃山(もしくは農協前)下車、徒歩10分
※「瀬戸内国際芸術祭2025」期間中は、芸術祭特急バスが運行します。
Text:公益財団法人 福武財団、株式会社ベネッセホールディングス、こばやしみもざ
Photo:こばやしみもざ
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