
【京都】重要文化財の名建築で楽しむカフェ時間。「旧三井家下鴨別邸」
京都・下鴨神社の南に位置する「旧三井家下鴨別邸(きゅうみついけしもがもべってい)」は、旧財閥で知られる三井家一族の休憩所として、大正14年(1925)に建築された邸宅です。明治・大正・江戸後期の名建築と、季節ごとに違う表情を見せてくれる美しい庭園を楽しめます。重要文化財に指定された貴重な空間には、三井家の美意識を感じられる建具の意匠がいたるところに。庭を眺めながらひと休みできる喫茶も人気です。
下鴨神社の南に佇む重要文化財の名建築
「旧三井家下鴨別邸」(以下、下鴨別邸)があるのは、京阪出町柳駅から徒歩約5分の場所。賀茂川と高野川が合流する三角地帯の北側、下鴨神社の一の鳥居のすぐそばです。
下鴨別邸が建てられたのは、この地にあった三井家の先祖を祀る顕名霊社(あきなれいしゃ)に参拝する際の休憩所とするためだったそう。木立に囲まれて、玄関棟、主屋(しゅおく)、茶室の3棟が現存しています。主屋は、木屋町三条にあった明治時代建築の三井家の木屋町別邸を移築したもの。玄関棟は、主屋の移築時に玄関部分として増築したもの。茶室は、三井家が所有する以前から建っていた江戸時代後期のもの。平成23年(2011)に重要文化財に指定された、貴重な歴史的建造物です。通常公開されているのは玄関棟と主屋1階のみですが、主屋2・3階は、特別公開や食事プランの際に見学することができます。
こちらは玄関棟入ってすぐの広間。現在は、休憩や喫茶室として使われています。玄関棟は武家屋敷に由来する書院造りを基調としていて、社寺建築にも用いられる格天井がみごとです。
当時からテーブルと椅子を置いて洋風に使用されていたため、庭に面して腰高に設計された大きな窓が特徴的。天井も高く、近代的な趣が感じられます。
窓ガラスに使われているのは、大正時代につくられた貴重な大正ガラス。窓越しに見る庭の風景がゆらゆらとゆらめき、味わいのあるレトロな雰囲気が感じられます。
いたるところに散りばめられた三井家の美意識に注目!
こちらは主屋1階の座敷。主屋の目的は「眺望を楽しむこと」。ガラス障子を多く用いて、庭園の景色を存分に楽しめるようになっています。ゆっくり腰を下ろし、庭を眺めてのんびりした時間を過ごしたくなりますね。平日は、この座敷で喫茶を楽しむこともできます。
座敷南面のガラスは、木屋町別邸時代から使われている明治期のもの。正面に眺められるのが、藪内節庵の指導により作庭されたといわれる、四季折々に美しい日本庭園です。取材時には紫と白の桔梗、ピンクのサルスベリがとてもきれいでした。
内玄関次の間の杉戸絵は、江戸時代後期の日本画家、原在正(はらざいせい)筆の「孔雀牡丹図」。繊細な描写、鮮やかな彩色に目を奪われます。(通常は撮影禁止)
下鴨別邸には細部にまでこだわった意匠があちこちに散りばめられていて、みどころ満載。天井、床、窓、壁紙、ふすまの引手まで、洗練されていて作り手の思いが感じられます。
内玄関にある大正時代の照明は、ころんとしたかわいい花の形。金具の部分のデザインもモダンです。
打たれた釘の頭を隠す装飾具・釘隠しはすべて大正時代のもので、修復時に金箔を施し、大正期の色合いを再現しているそう。
大正時代に増築された洗面所の窓枠には、中華風の意匠を取り入れています。
大正時代に増築された浴室です。天井にある換気口は、なんと花びら型! 浴室の天井が傾斜しているのは、水滴が傾斜に沿って流れ、下にポタポタ落ちないための工夫だそうです。
下鴨別邸のみどころを、クイズ形式で探せる問題も用意されています。答えが書かれた用紙を片手に、確認しながら見て回ることもできますよ。また、随所に詳しい説明が書かれたパネルも設置されています。
趣のある庭を眺めながら楽しむ! 喫茶&食事タイム
玄関棟の広間や庭のベンチ、平日には主屋1階の座敷でも、庭を眺めながら抹茶やお菓子で一休みすることができます。「抹茶セット」(一保堂の抹茶と亀屋良長の烏羽玉のセット)700円や、「鶴屋吉信の生菓子と抹茶のセット」950円、「抹茶ケーキセット」1100円、京の老舗小川珈琲の豆を使用した「コーヒー」500円など、ほっこりできるメニューがたくさん。
「泉仙」の仕出し朝食、「フルーツパーラーホソカワ」のフルーツサンド、「三友居」の茶懐石弁当など、京都の名店の味が楽しめる特別な「季節の食事プラン」(3階望楼見学付き)3000円~(別途入館料が必要)もおすすめです。通常非公開の主屋2階座敷で楽しめる、朝食・ブランチ・ランチの3つのプランで、事前予約が必要。開催日が限られているので、詳細は公式サイトを要確認! 趣のある庭を眺めながら、贅沢なひとときが過ごせます。
食事プランの会場は、主屋の2階座敷です。窓枠にはガラス障子が用いられ、縁側の手すりのデザインは、座ったまま外の景色が見えるように考えられています。最高のロケーション! この部屋では、ヨガや能楽講座、呈茶などの催しも不定期で行われています。日程などは公式サイトでチェック!
2階から見ると、庭の池のひょうたんの形がよくわかります。1階とはまた趣の違う庭の風景が楽しめますよ。
3階の望楼見学は特別公開や食事プランで
2階から3階へ上がる階段は、なんと、隠し階段! ふすまを開けると、蛇腹(じゃばら)になった木の扉と3階への階段があらわれます。建具の下にカシの木でつくった算盤のようなレールがはめ込まれていて、ガラガラと扉が開くしくみにびっくり。
隠し階段を上がった先にあるのは、秋や冬の特別公開時と食事プランで見学できる、主屋3階の望楼です。景色を楽しむためだけに作られたという畳3畳ほどのスペシャルな空間は、全方位がガラス窓で360度パノラマビュー、まさに展望台。東側には五山送り火の如意ケ嶽(大文字山)や比叡山など、四季折々の京都の景色を一望できる贅沢といったら……!
座ると視界に空が広がり、より美しい景色が楽しめる構造になっているそう。いつまでも窓の外を眺めていたくなります。眺めをさえぎらないように、雨戸の戸袋を窓の下に設置するなど、徹底した工夫も見られます。
館内では、おみやげにぴったりの絵葉書やお菓子なども販売されています。ひょうたんや梅鉢窓など、下鴨別邸の意匠を紋様にした伝統和紙のオリジナル「唐紙ハガキ」は、玄関棟のふすまや壁紙にも使用されている唐紙で、職人さんが1枚1枚摺り上げています。
石臼挽き宇治抹茶をたっぷり練り込んだ、別邸オリジナル濃抹茶の「抹茶ケーキ」300円も、おみやげに人気です。
主屋の建築図面と鬼瓦がデザインされた、旧三井家下鴨別邸オリジナル「入場記念符」は、よい記念になりそうですね。
建物を見学し、カフェを楽しんだあとは、ゆっくり庭園を散策しましょう。庭園には、下鴨神社の境内を通って高野川へと流れる泉川から水を引いたひょうたん型の池があり、周囲に園路が巡らされています。池越しに主屋の望楼を見上げると、庭園と一体となった開放的な造りの「旧三井家下鴨別邸」の全貌を感じ取ることができます。ここは静かで落ち着いた雰囲気が味わえる穴場的スポット。歴史ある空間で、特別な京都を楽しんでみてはいかがでしょうか。
■旧三井家下鴨別邸(きゅうみついけしもがもべってい)
住所:京都府京都市左京区下鴨宮河町58-2
TEL:075-366-4321
時間:9~17時(16時30分受付終了)
入館料:平日 一般500円、中学生300円、小学生200円/土・日曜、祝日 一般600円、中学生300円、小学生200円
休館日:水曜(祝日の場合は翌日)、12月29日~31日
Text&Photo:砂野加代子(ウエストプラン)
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