
【奈良】鹿にも出会える⁈ アートと風景に心ほぐれるホテルステイ【すみずみ宿泊ルポ】
奈良公園にある景勝地、猿沢池(さるさわいけ)の東側、細い路地を入った隠れ家的な場所に「MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS(みろく なら ばい ざ しぇあ ほてるず)」(以下、MIROKU 奈良)があります。「共生の奈良」をテーマに、古都の風情と現代アートが調和する居心地のよいデザインホテルを訪ねました。
吉野杉や飛鳥石を用いたエントランスからロビーへ
2021年9月にオープンしたMIROKU 奈良は、「SHARING WITH LOCALS」をコンセプトに、地域との共生を目指すTHE SHARE HOTELSブランドのひとつです。名前の由来は「美(Mi)」と「鹿・麓(Roku)」、そして遠い未来に現れて人々を救済するとされる仏様・弥勒菩薩から名付けられ、「奈良の文化」をつなぐという意味が込められています。
「どのくらいの樹齢かしら……。」と想像が膨らむほど立派な丸太は、奈良の吉野杉。存在感のある石は飛鳥石です。地元奈良の自然素材を生かしてシンプルに仕上げられたエントランスは、静かでありながら迫力ある佇まいです。スタッフさんのワークコートは「服を通したコミュニケーション」をテーマに活動するアーティスト・西尾美也さんのデザイン。遠くアフリカと奈良をつなぐ物語が描かれているんです。
チェックインとチェックアウトはセルフでも行えます。わからないことがあればスタッフさんに質問できますよ。
チェックインを済ませたら部屋着と必要なアメニティ(歯ブラシ、ヘアブラシ、コットン、カミソリ)をピックアップして客室に向かいます。部屋着はやわらかな着心地のワンピースでフリーサイズです。
五感で感じるアート体験が館内の随所に
館内に一歩足を踏み入れて、まず目を奪われたのが、現代美術家・舘鼻則孝さんによる鮮やかなアート「Descending Layer」。雷をモチーフにして神仏習合を表しているというその世界観に思わず足が止まります。
使用済み段ボールとチラシで造られた「弥勒 MIROKU」は本堀雄二さんの作品。リサイクルで新たな命を吹き込むことは仏教の輪廻転生の思想につながっているようで、静かな感動を覚えました。
1階のカフェスペースの壁には、稲わらを大胆に使ったARKOさんの作品「万世不利 Banseifukan」が。稲作文化を象徴する素材が、アートとして再構成されており、和の温もりと力強さが同居しているような空間に。
客室へと続く廊下の片隅にも、植物や石を使ったさりげないアートが飾られていました。素朴でありながら空間に溶け込むように静かに存在していて、落ち着いた美しさを感じました。
鹿がいる風景が眼前に広がる客室
客室数は7タイプ44室。春日山の稜線を望む「Junior Suite with Japanese-style」は、2台のベッドに畳スペースを組み合わせれば、最大4名まで泊まれるゆったり空間です。障子越しの柔らかな光、和モダンを基調にしたシンプルなインテリアに、ほっと心が和みます。
障子を開けると、思わず声が出るほどの絶景が広がっていました。草地で草を食べている鹿、池の水面に映る空、そびえる山々。その美しい借景に、時間を忘れて見入ってしまいます。
室内の壁には、奈良の福祉施設「タンポポの家アートセンターHANA」に所属する澤井玲衣子さんの「Piano note」が飾られています。和紙に墨で描かれたピアノの楽譜は、音が聞こえてきそうなほど躍動的で、心に残る一枚でした。
2方向にある障子を閉めればプライベート感が高まり、読書や仕事にも集中できそう。
室内にはシンク付きのバーコーナーがあり、冷たい水やお茶の用意もラクラク。
「Superior with Japanese-style and Mountain View」は山側の客室で、鹿のいるエリアがぐんと近くに見えます。シンプルな客室だからこそ、窓から見える借景がより映えます。畳スペースのフロアベッドにエキストラの布団を敷いて、ソファーベッドを使えば4名まで泊まれます。
さらにユニークなのが、ロフト付きの「Moderate Loft」。ロフト部分にもベッドがあり、屋根裏気分を楽しめるため、家族やグループ旅行にもぴったりです。
地下には吉野杉や飛鳥石を使った特別室「The Roots of Nara(Superior)」があります。吉野杉と飛鳥石が贅沢に使われたハリウッドツインの和洋室で、窓の外には吉野の山肌を再現した空間が。奈良の原風景をそのまま部屋に閉じ込めたような、唯一無二の滞在が叶います。
地下の専用ラウンジで過ごす特別なひととき
ホテル滞在中にぜひ立ち寄りたいのが、地下にある宿泊者専用ラウンジ。明かりをぐっと落としたシックな空間に一歩足を踏み入れると、静けさに包まれた別世界が広がります。
中央に配されたテーブルの土台には飛鳥石を使用。落ち着いた色味と質感が、ラウンジ全体に凛とした空気を添えています。周囲を囲む椅子は吉野杉で作られており、座面のゆるやかなカーブが、思わず長居したくなる座り心地のよさを演出しています。
サイドには大きな吉野杉の丸太を使ったカウンター。ウォーターサーバーとともに、グリーンティーと紅茶の用意があり、自由に楽しむことができます。
明るくて開放的なカフェ&バーでくつろぎの時間を
1階にある「CAFE & BAR MIROKU TERRACE」は、宿泊者以外の一般客にも人気の店。大きな窓から自然光がたっぷり入り、吉野杉の一枚板の長テーブルや和紙の照明が、ぬくもりと落ち着きを添えています。夜になると照明がやさしく灯り、バータイムもリラックスムード満点。
多角形のスピーカーから自然に耳に届くやわらかな音色は、地下のラウンジにも設置されていて、その空間のどこにいても音楽が心地よく寄り添ってくれます。
テラス席は池の堤に面していて、まるで絵画のような風景を眺めながらのカフェタイムが楽しめます。タイミングが合えば、鹿が近くまでやってくることも。そんな自然との距離の近さも、このホテルならではの魅力です。
カフェ&バーのメニューと朝食は、地元奈良の人気カフェ「くるみの木」が監修。朝食は和と洋の2種類から選べて、どちらも奈良の旬の食材をふんだんに使った健康的なメニューです。和食のごはんは奈良県産の「ひのひかり」、おかずは季節野菜のせいろ蒸しに、ダシをきかせた自家製玉子焼き、田楽、和えもの、漬物などが盛り付けられます。味噌汁は、特産品のそうめんを使った温かいにゅうめんが提供されることも。
洋食は奈良・生駒市にある「つきあたりベーカリー」の塩パンと季節のパン。季節のパンはホテルスタッフの希望によって作られて、春ならヨモギパン、初夏にはカレーレーズンパンが登場していました。かぼちゃのスープに、地元・奈良の「あすか燻製工房」の無添加ソーセージや季節野菜のオーブン焼きなど、サイドメニューも野菜中心でヘルシーです。ヨーグルトには「くるみの木」オリジナルの和グラノーラとはちみつをトッピング。
※朝食は宿泊者のみの事前予約制
カフェ&バーメニューで気になったのは「ほうせき」という言葉。これは奈良の古い言葉で「おやつ」のことだそうです。「昼のほうせき」には、「和のグラノーラ」550円や「大和茶バスクチーズケーキ」750円、「アフォガード」700円。「夜のほうせき」には、お酒の肴を盛り合わせた「夜のほうせきセット」1650円、「燻製ミックスナッツ」600円などがあります。19時以降は小腹がすいた時にぴったりの「三輪のにゅうめん」や「大和ほうじ茶のお茶漬け」各1000円も。コーヒー、紅茶、ジュース、アルコールなど、ドリンク類も充実していて、どんな時間帯にもお望みの一杯を楽しめます。
■CAFE & BAR MIROKU TERRACE(かふぇ あんど ばー みろく てらす)
場所:1F
時間:朝食 7~10時(9時30分 LO)、カフェ&バー 11~23時(22時 LO)
ホテルからすぐ行ける、周辺のおすすめ観光スポット3選
【ホテルから徒歩4分】猿沢池
「南都八景」のひとつで、興福寺五重塔が水面に映る風景が美しいと人気のスポットです。周囲が360mの猿沢池は、天平21年(749)に、興福寺が行う全ての生命が大切なものであることを儀式化した「放生会」の放生池として造られました。
【ホテルから徒歩12分】奈良町
奈良町は、平城京の外京(げきょう)とよばれるエリアを中心とした旧市街地で、国道369号の北側「奈良きたまち」、南側「ならまち」、JR京終駅周辺の3つのエリアの総称です。神社仏閣や歴史的な町並み、古民家や町屋を生かした飲食店や雑貨店などがあり、観光客に人気です。
【ホテルから徒歩13分】奈良国立博物館
奈良公園の一角にあり、毎年秋に開催される「正倉院展」は有名です。仏教美術の名品が多数所蔵・展示されているのをはじめ、庭園では季節毎の美しい景色が楽しめます。ミュージアムショップやカフェ&レストランもあり、歴史を感じながらゆったりと過ごすことができます。
リアルなおすすめタイムスケジュール
【1日目】
11:00 近鉄奈良駅着。猿沢池を散策しながら「MIROKU 奈良」へ
11:30 荷物を預けて、奈良国立博物館でランチ&鑑賞
15:00 東大寺参拝
17:30 「MIROKU 奈良」にチェックイン。客室を満喫
18:00 「ならまち」で軽くディナー
20:00 客室へ戻ってしばし休憩
21:00 「CAFE & BAR MIROKU TERRACE」で「夜のほうせき」を楽しむ
22:30 客室へ戻っておやすみなさい
【2日目】
6:00 起床。支度をして浮見堂方面へ散歩
7:30 「CAFE & BAR MIROKU TERRACE」で朝食
9:00 チェックアウト。荷物を預けて春日大社などへ。途中ランチタイム
14:00 「CAFE & BAR MIROKU TERRACE」で「昼のほうせき」でティータイム
15:00 「MIROKU 奈良」で荷物を引き取り、興福寺へ
17:00 近鉄奈良駅から帰路へ
人通りの多い道から1本入った場所にあるため、驚くほど静か。なんといっても窓を開けると鹿が悠々と過ごす姿が見られて、奈良に来ていることを実感させてくれます。館内にはアート作品、外には自然、五感を刺激されると同時に癒やされるホテルでした。
■MIROKU 奈良 by THE SHARE HOTELS
(みろく なら ばい ざ しぇあ ほてるず)
住所:奈良県奈良市高畑町1116-6
TEL:0742-93-8021
チェックイン:15~23時
チェックアウト:10時
料金:2名1室利用時 1名12000円~
アクセス:近鉄奈良駅から徒歩約10分
Text&Photo:今田野さくら(ウエストプラン)
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