【京都】ヴォーリズ建築の駒井家住宅。「日本のダーウィン」が愛した和洋折衷の邸宅

【京都】ヴォーリズ建築の駒井家住宅。「日本のダーウィン」が愛した和洋折衷の邸宅

京都府 レトロ 建築 おでかけ るるぶ情報版(国内)編集部
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レトロ建築好きの心をとらえて離さない名建築家、ウィリアム・メレル・ヴォーリズ。彼はこれまで1600以上の建物を手がけましたが、円熟期を代表する建築として有名なのが京都市左京区の「駒井家住宅(こまいけじゅうたく)」です。週末のみ一般公開されていて見学することができます。見事な和洋折衷と「収納好き」の心をくすぐる建築の魅力をご紹介します。

Summary

「日本のダーウィン」が愛した邸宅

駒井家住宅(駒井卓・静江記念館)がある京都市左京区の北白川エリアは、大正末期から昭和初期にかけて住宅街が形成。京都大学の教授らの邸宅が多かったことから「学者村」と呼ばれました。駒井家住宅も、疎水が流れる閑静な住宅街の一角に佇んでいます。

敷地内は、約30坪ある主棟(母屋)と離れ、温室と洗濯場、庭園などで構成。主棟は昭和2年(1927)に建てられた木造2階建て。当時アメリカで流行していたスパニッシュ様式をベースに、切妻屋根の色桟瓦葺の屋根が洋館らしい趣をさらに強くしています。

邸宅の主・駒井卓博士(1886~1972)は、アメリカで学んだ当時最先端の遺伝学を日本で広めたことから「日本のダーウィン」と称された人物。クリスチャンとしての活動に勤しむ妻の静江(1890~1973)とともにアメリカで過ごした2年間は、先進的な西洋のライフスタイルを目の当たりにする特別な時間でもありました。

「日本でもアメリカのような生活をしたい」と考えた夫妻は、静江の学生時代の友人だったヴォーリズの妻・一柳満喜子(ひとつやなぎまきこ)を通じて、ヴォーリズに自邸の建築を依頼。ヴォーリズは夫妻のこだわりを形にした、和洋折衷の邸宅を設計しました。

【主棟】自然光を上手に活かした空間に心ときめく

まずは主棟の1階を見ていきます。夫妻がくつろぎの時間を過ごした居間には、ヴォーリズ建築では欠かせない暖炉がありません。その代わりに自然光を取り込める窓を東側に、サンルームを南側に設けているため、温かな空間となっています。東側の窓には作り付けのソファがあり、駒井博士はこれに腰掛けて静江が弾くピアノをじっくりと聞いていたそうです。

サンルーム。庭園から直接入ることもできる
サンルーム。庭園から直接入ることもできる

サンルームにはスパニッシュ様式の特徴をよく表すアーチ型の三連窓がフォトジェニック。このサンルームは、館内でも人気のスポット。案内してくれたスタッフの方によると最近はフォトウェディングの利用もあり、この三連窓を背景に選ぶカップルも多いそうです。

サンルームには引き戸があります。戸を開いてみると…。

なんと隣の和室が顔をのぞかせます。サンルーム側から見ると板戸、和室側に移動して見るとふすまと、「リバーシブル」なデザインに遊び心を感じられますね。

サンルームに続く和室の両側には出窓が設けられ、外からはここが和室であることがわかりにくくなっています。和室から臨む木々はカキをはじめ日本にゆかりのある植物に限定。実際に腰を下ろして外を眺めると、ここが洋館だとは思えないほど、和の情緒に包まれています。

廊下から2階へと続く階段は緩やかなアーチを描いて、眺めるだけで心がときめきます。ヴォーリズ建築の特徴のひとつとして、階段の段差が小さいことが挙げられます。普段着物で生活をすることが多かった静江も、上り下りがしやすかったのではないでしょうか。ヴォーリズの細やかな心配りを感じられます。

主棟でひときわ目を引くステンドグラスは、ヴォーリズが好んだ色を採用したといわれています。教会などにもよく使用され、夕方になるとステンドグラスからこぼれ落ちる光で黄金色に染まり、階段室一帯はさらに美しい空間へと変わります。

2階でまず訪れたいのが寝室。現在は展示ルームになっており、駒井博士が研究で使用した道具や旅行先で集めた置物などを見学できます。

こちらは駒井博士の書斎。入り口のみ入室が可能です。普段は遮光カーテンが下ろされていますが、今回は特別に開けて撮影。博士はこの部屋で研究や執筆にいそしんでいたようです。

寝室に連なるベランダは、建築後10年も経たないうちに手が加えられたそうです。東側を眺めれば大文字山がそびえ立ち、五山の送り火では駒井家住宅まで煤の匂いが届くほどだったといわれています。

【庭園・温室】爽やかな庭の緑と調和する博士こだわりの温室

主棟を取り囲む庭園も散策可能です。庭園には外来種・在来種問わずたくさんの樹木が植栽。かつては水を湛えた池もあり、和洋折衷の趣にあふれたプチ池泉回遊式庭園を楽しめます。

こちらは主棟1階の食堂に連なるテラス。上部には藤棚が設けられ、初夏には美しい藤の花を鑑賞できます。

庭園内にある温室も見学可能です。駒井夫妻がアメリカ留学の帰路に、敬愛したダーウィンの家を訪ねた際、ダーウィンが重要な実験を自前の温室で行っていたことを知り、自分も設置したといわれています。

駒井家住宅は静江の意向が強く反映されていると考えられていますが、駒井博士はこの温室の設置にはこだわったそうです。自然光が注がれる室内は今も温室として十分機能しています。

【ココに注目! ①】シックな空間に溶け合うアンティークの家具デザイン

それでは駒井家住宅でぜひ注目したいポイントを2つご紹介します。まずは、夫妻のこだわりが感じられる家具です。館内にある居間のピアノや蓄音機、食堂のテーブルや椅子、食器棚や本棚などは、夫妻が実際に使用していたもの。ドイツ製のピアノは、結婚時に駒井博士が静江に贈ったものだそうで、レトロな空間になじんでいます。

居間の照明をよく見ると日本らしい浜千鳥の文様が施されています。洋館でありながら和の趣をところどころに取り入れているのが心憎いですね。

館内を見学する時はドアノブにも注目を。駒井家住宅では、訪れた客をもてなすパブリックなスペースと夫妻がくつろいで過ごすプライベートなスペースを、ドアノブの色で分けています。さて、紫色のドアノブはどちらのスペースでしょうか。ぜひ現地で確かめてみてください♪

【ココに注目! ②】大がかりな仕掛けにも驚く機能的な収納スペース

駒井家住宅が誇るべき特徴のひとつが「収納スペースの多さ」。空間を上手に活用して、収納が可能なスペースを生み出しています。そのひとつが、客室の入口すぐ脇にある歯車。スタッフの方にお願いして、特別に動かしてもらうと…。

※普段は一般公開されていません。
※普段は一般公開されていない

なんと天井から階段が現れました。昭和初期の建築にこのような仕掛けがあるなんて驚きです。スタッフの方に伺うと、普段一般公開はされていませんが、今も立派に現役として活用されているとのこと。

屋根裏などの大スペースはもちろん、ちょっとしたスペースを見逃さず上手に活用するのが、ヴォーリズのすごいところ。こちらは廊下の壁面下部に設けられた小さな引き出し。靴磨きセットなどの小物を入れるためのもののようです。

2階寝室には作り付けのタンスがあります。こちらは元々の設計図とは少しデザインが異なるようで、静江が愛用していた着物を収納できるように作り替えたとか。右隣のクローゼットの下には小さな床下収納庫もあります。空間を無駄なく使うヴォーリズの優しい心遣いを感じられますね。こうした細かい所へのこだわりもぜひ注目してください。

駒井家住宅の見学は予約が必要? アクセスは?

2002年に親族からの寄贈により、公益財団法人日本ナショナルトラストが管理・運営する駒井家住宅。毎週金・土曜に予約制で館内を見学できます。見学を希望する場合は、見学日の前日10時までに日本ナショナルトラスト見学予約サイトで申請が必要です。

駒井家住宅へのアクセスはバスまたは叡山電車の利用がおすすめです。JR京都駅から向かう場合は、市バスの206系統に乗って伊織町バス停で下車。徒歩2分で到着可能です。また叡山電車を利用する場合は、茶山・京都芸術大学駅で下車。徒歩7分のアクセスとなります。駒井夫妻の思いを形にしたヴォーリズの傑作建築を、ぜひその目で確かめてみてはいかがでしょうか。

■駒井家住宅<駒井卓・静江記念館>
(こまいけじゅうたく こまいたく しずえきねんかん)

住所:京都府京都市左京区北白川伊織町64
TEL:075-724-3115(公開日のみ)
見学時間:金・土曜の10~16時 (最終受付15時)、夏季休館(7月第3週~8月末)、冬季休館(12月第3週~2月末)
料金:500円
アクセス:叡電茶山・京都芸術大学駅から徒歩7分、市バス停伊織町から徒歩2分
駐車場:なし
予約:見学希望日の前日10時までに日本ナショナルトラスト見学予約サイトにて先着順で受付

Photo:鈴木誠一
Text:津曲克彦(ぽんぽこ商事)

●店舗・施設の休みは原則として年末年始・お盆休み・ゴールデンウィーク・臨時休業を省略しています。
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。内容の変更が発生する場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。

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