【おとなのソロ部】兵庫・芦屋「茶と菓と いい日」の朝茶会で、香って味わってまた香って。お茶に魅了されるひととき
今やペットボトルで飲むことも多いお茶。でも、お茶を急須でていねいに淹れると、ただ喉を潤すだけでなく、香りや味を楽しむことで心がほぐれるような、とっておきの時間になります。そんなお茶の魅力に改めてふれたい人におすすめなのが、兵庫・芦屋市にあるお茶専門のカフェ「茶と菓と いい日(ちゃとかと いいひ)」。月1回行われる朝茶会に参加し、その魅力とともに、普段のカフェや家で楽しめる茶葉の販売も合わせて紹介します。
閑静な住宅街にたたずむ、端正なお茶専門のカフェ

阪神本線芦屋駅から北へ徒歩約5分、閑静な住宅街にお茶専門のカフェ「茶と菓と いい日」はあります。外観は格子戸が美しく、まるで料亭のよう。入り口からも端正な雰囲気が醸し出されています。

店内は白木をベースに白、藍色を用いたシンプルな空間に、カウンター7席と2席のテーブルがひとつ。どこか茶室を思わせる静謐(せいひつ)な空気が漂います。

テーブル席のあしらいもすてきです。

「茶と菓と いい日」は、元バリスタの店主・松本康生さんが煎茶の香りに魅了された経験をきっかけに、「ていねいに作られたお茶のすばらしさを伝えたい」と2022年1月にオープンしたカフェ。店のコンセプトは“香りのお茶”。約15軒の茶農家に足を運ぶなどして厳選した、安心安全で香り高い煎茶・烏龍茶・紅茶などを提供しています。
「家では飲めない深みのあるお茶に感動した」「お茶の香りがすばらしく、カフェの空間も別世界のよう」など口コミも好評で、若き店主が営むオープン4年目の店とは思えない、どこか風格さえ感じられます。お茶を提供する際の器も作家ものなどにこだわり、「茶農家と茶器を手掛ける作家、お客様をつなぐ場所になれば」と松本さん。
毎月行われる朝茶会でお茶の世界をちょっと深掘り
「気鋭の茶農家によるお茶を、みなさんと楽しみたい」との思いから、「茶と菓と いい日」ではさまざまなお茶が飲める朝茶会を月1回開催。新茶や烏龍茶、岩茶、紅茶、花茶など、季節のお茶を扱い、お茶の種類は毎回変更。3種類のお茶を3杯ずつ、お菓子とともにいただきます。
■朝茶会(あさちゃかい)
開催日:毎月第3日曜
時間:9時30分~10時40分ごろ
料金:参加費3000円
定員:6人
予約方法:Instagramのダイレクトメール、または電話にて
内容:香りのお茶の飲み比べ
※開催日や時間、料金などは変更する場合あり。詳しくはInstagramや公式サイトで要確認

今回参加した朝茶会の一品目は、中国産の「白茶(はくちゃ)」で「白牡丹」というお茶。半発酵で茶葉の栄養が多く、残暑の時期にふさわしい体の熱を逃がす効果があるといわれています。白っぽい産毛を残した新芽で、お茶の淡い色とさわやかな香りが特徴です。
「まずは生産者からのメッセージである茶葉をしっかり見てください。中国では紙に包まれ、壁に飾られていることもあるんですよ」と松本さん。茶葉を参加者の間で順に回し、まずはその姿や香りを愛でます。

次に温めた茶器に茶葉のみを入れて(お湯はなし)と、湯を注いですぐと、2煎目と、その都度参加者の間で茶葉を回して香りと見た目を楽しみます。一つのお茶につき3煎味わいますが、「ここで何度も茶葉を見たり、香ったりする経験をしてほしい」と松本さん。

3煎とも松本さんがベストなタイミングでしぼり出し急須から湯冷ましに注いでくれ、それが順にまわってきたら、自分の湯のみに注ぎます。最初は微かに鼻をくすぐるフレッシュな香りとすっきりした味わいが、煎を重ねるにつれ、香りや味わいに深みが増していきます。

朝茶会の茶菓子は毎回変わります。この日は松本さんのお気に入りの、お取り寄せした栗蒸し羊羹を用意。栗を甘露煮にしたものが多いなか、こちらの栗本来の風味を生かした素朴な味わいで、後味もすっきり。さわやかな「白茶」とよく合います。

一般的にお茶会というと、かしこまったイメージがありますが、ここはざっくばらんな雰囲気。松本さんの蘊蓄(うんちく)が楽しく、また質問も気軽にできる雰囲気です。「お茶会はセミナーではありません。その日にここに集った人たちのいい時間になれば」との思いで開催されています。

松本さんの淹れ方は、サッと流すように淹れる「高温短時間抽出」。1・2煎目は約15秒ほどですが、これは香りを重視するため。お茶の香りが鼻腔に残り、口のなかのはサッと引いてさっぱりする淹れ方で、また飲みたくなります。
1煎目は淡くやわらかな香りを、2煎目はボリュームのあるしっかりした香りや味わいを楽しみます。3煎目は、ほんの少し渋みで口のなかをサッと引き締めます。1煎目から3煎目の風味の違いもしっかり感じられます。またお茶を淹れる所作も、思わず見惚れてしまうほどの美しさ!


二品目は台湾産の「凍頂烏龍茶」。日本でも人気の高い、台湾四大銘茶の一つです。二品目もその都度香りを楽しみます。鼻腔の感覚がふわっと開く、高貴な香りにうっとり。

甘みがあり、角がまったく感じられない、まろやかな味わいです。
二品目の「凍頂烏龍茶」を飲む間に、一品目の煮出した「白茶」を4煎目としていただきました。お茶の色がかなり濃く、1~3煎目とはまた違った奥ゆきのある濃厚な味わいです。

3つ目は最高級の烏龍茶「鳳凰単叢(ほうおうたんそう)」(写真下)。茶畑ではなく1本の木から採れるお茶で、木によって茶葉の価格が異なるそう。芳醇な香りが特徴です。

こちらは1煎目から高貴で華やかな香りをしっかり感じることができます。とにかく濃厚な甘い余韻がふわふわと口元を漂う、幸せな時間が続きます。

2煎目からは甘みや香ばしさがさらにしっかり味わえます。3煎めでも華やかな余韻にうっとり。鼻腔に香りが残りながらも、口のなかはさっぱりで引き際もじつに見事です。
普段なかなか口にできない貴重な3種類のお茶を香って飲んで、また香って。茶器やお盆、店内のしつらえもすてきです。「お茶会をきっかけに器やしにふれ、日本のいいものについて考えるきっかけになれば」と松本さん。約70分の贅沢なお茶会を五感フル活用で楽しみましょう。
通常のカフェメニューを紹介。時間がゆったり流れるひととき
朝茶会の場所は、通常はカフェでの営業を行っています。カフェで外せないスイーツが、抹茶・ほうじ茶・きな粉から2種が選べる、名物の「オリジナルテリーヌ」。小麦粉を使わず、素材のもつ濃厚な味わいがシンプルに際立ちながらも、口のなかからスッと消え、一緒に飲むお茶の風味を邪魔しません。味が濃く、口に甘みが残りがちなテリーヌの一般的なイメージをくつがえす名品です。
そのほか、自家製の餡(あん)に胡桃や栗、抹茶、白玉(温かい場合は焼き餅)が豪華にトッピングされた「和栗と胡桃のぜんざい」850円や、自家製の餡バターかアーモンドバター、生はちみつバターが選べる「無添加トースト」650円などがあります。
お茶は、珍しい日本産の烏龍茶「青心烏龍茶」がおすすめです。台湾の王道の品種を茨城で生産、台湾の人々から絶賛されるほどハイクオリティで、花やミルクを思わせる甘い香りと緑茶のようなさわやかな風味がしっかり感じられます。

カフェでのオーダーでも、松本さんがほどよいタイミングを見計らって、目の前で3煎を注いでくれます。

挿し木を繰り返す一般的な品種茶とは違う、「在来実生」とよばれる生産量1割未満の日本古来の煎茶1000円~も4種揃います。おすすめは、樹齢300年を越す無農薬栽培の古木から採れ、“幻のお茶”といわれる「政所 在来実生―滋賀―」。体にスッと入ってくる自然な飲み心地と、じわじわ~っと感じられる甘み・苦み・渋みの重なりが魅力です。
また2025年の夏の季節限定メニューだった「ティーアフォガード(抹茶、またはほうじ茶)」800円が、人気ゆえ秋以降は通常メニューに。抹茶の場合は、松本さんが目の前で点てた宇治抹茶が後味さっぱりのミルクアイスにたっぷりかかり、こちらもおすすめです。
オリジナルの極上茶をおうちで楽しもう
店内では、松本さんが全国から選りすぐった煎茶や烏龍茶、紅茶を約26種販売しています。お店で飲んでおいしかったらでも、お茶の説明文を読んで気になったからでもよし。「茶と菓と いい日」で味わったすてきなお茶時間を、家でも再現してみてはいかがでしょうか。

店内では販売するお茶のほか、全国から集めたかわいい民芸品も飾られているので、チェックしてみてください。

「茶と菓と いい日」はどこか詩的ですてきな店名です。「お茶とお菓子でいい時間を過ごせば、それがきっといい一日につながる」という思いから名付けたそう。店名通り、カフェを訪れた日はもちろん「いい日」に、その後の日常も好きなお茶をていねいに淹れて味わう時間を持てれば、きっと「いい日」になるはずです。

そうそう、「茶と菓と いい日」でお茶を堪能したら、香り高いお茶の余韻を楽しみながら、近くの芦屋川沿いをぜひ散策してみてくださいね。
■茶と菓と いい日(ちゃとかと いいひ)
住所:兵庫県芦屋市公光町2-3
TEL:0797-35-8808
営業時間:11~18時(土・日曜は10時~)
定休日:水曜、ほか不定休あり(Instagram、公式サイトで告知)
アクセス:阪神本線芦屋駅から徒歩5分、またはJR芦屋駅から徒歩10分
■おすすめの利用シーン:お茶の魅力をもっと知りたくなったとき、1回限りの教室で学びたいとき、おいしいお茶で癒やされたいとき、おうちでもっとお茶の時間を楽しみたいとき
Text:こばやしみもざ
Photo:沖本明
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