【美術ライターが選ぶ11月のアート展】ミナ ペルホネン、いわさきちひろ…「おしゃれの秋」に行きたい展覧会

世田谷美術館「つぐ minä perhonen」より 刺繍工場での補修作業 手元風景 Photo: Yayoi Arimoto

【美術ライターが選ぶ11月のアート展】ミナ ペルホネン、いわさきちひろ…「おしゃれの秋」に行きたい展覧会

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美術ライターの浦島茂世さんがセレクトする、11月のおすすめアート展。ハイジュエリーブランドや、布・服装に関する展覧会が多い2025年の秋。そんななかから、特におすすめの展覧会をピックアップしました。それぞれの展覧会を見たあとは、ちょっとおしゃれしたくなってくるはずです。

Summary

101歳までずっと現役。染色家の仕事をたどる

「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景

柚木沙弥郎(ゆのきさみろう)は、1922年に生まれ、2024年に101歳で生涯を閉じるまで、ずっと現役でいた染色家です。戦後、岡山の「大原美術館」に就職、民藝運動の主要メンバーであった芹沢銈介の型染に出会って染色の道へと進みました。

「東京オペラシティアートギャラリー(とうきょうおぺらしてぃあーとぎゃらりー)」で12月21日(日)まで開催中の「柚木沙弥郎 永遠のいま」は、そんな柚木の75年にわたる活動の全貌を楽しめる展覧会です。
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
彼の染色は広い幅の布地に染める、自由で伸びやかな形と豊かな色彩が特長。日本だけでなく、海外でも高く評価されています。

そして、柚木はキャリアを進めるにつれ、挿絵やコラージュなどジャンルの垣根を軽々と飛び越え、精力的に創作活動を行っていくようになります。大胆なデザインの布地はもちろん、絵本や版画、立体作品まで、柚木がさまざまなチャレンジをしてきたことがわかります。その作品がどれも美しくてかわいい!

「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
「柚木沙弥郎 永遠のいま」 展示風景
柚木沙弥郎 《型染水辺文二曲屏風》1995年 個人蔵
柚木沙弥郎 《型染水辺文二曲屏風》1995年 個人蔵

彼の手掛けた作品は昭和に制作された作品でも、令和の現在に通じる新しさを感じます。そして、令和に入って制作された作品も、またどこか懐かしさを感じさせます。柚木は80歳を過ぎても精力的に活動を行い、その作品はインテリアショップの「イデー」や、カフェ、ホテルなどの商業空間などでも採用されています。

いつまでも新鮮な印象を与える柚木沙弥郎とその作品。見ていて楽しくなってくる展覧会です。


■東京オペラシティアートギャラリー/「柚木沙弥郎 永遠のいま」
会期:開催中~12月21日(日)
住所:東京都新宿区西新宿3-20-2 東京オペラシティ アートギャラリー
休館日:月曜 ※11月24日(月・振休)は開館。11月25日(火)は休館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般1600円、大高生1000円、中学生以下無料
開館時間:11~19時(入場は18時30分まで)
アクセス:京王新線初台駅東口から徒歩5分

3人のクリエイターの「装い」と生き方に迫る

「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」展示風景
「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」展示風景


西武新宿線、上井草駅から徒歩7分の場所にある「ちひろ美術館・東京(ちひろびじゅつかん・とうきょう)」は、絵本画家いわさきちひろが暮らしていた場所に作られた美術館です。こちらでは、2026年2月1日(日)まで「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」展が開催中。この展覧会は、2025年9月に刊行された行司千絵『装いの翼 おしゃれと表現と―いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子』(岩波書店)を起点としたもの。絵本画家・いわさきちひろ、詩人・茨木のり子、美術作家・岡上淑子をフューチャーし、「装い」をテーマにしています。

絵本画家・いわさきちひろ、詩人・茨木のり子、美術作家・岡上淑子。ジャンルも違うし、年齢もちょっとずつ違う3人は、交流こそありませんでしたが、恵まれた幼少期を過ごし、多感な時期に戦争を体験した、という共通点があります。そして、3人とも装うことに興味と関心がありました。

 この展覧会では、3人の作品のほか、愛用していた服やアイテムなども展示し、それぞれの人間像に迫っていきます。淡く繊細な水彩画で知られるいわさきちひろはとてもおしゃれで、自分でワンピースを作っていたそう。

「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」展示風景 いわさきちひろの作品
「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」展示風景 いわさきちひろの作品
いわさきちひろの 自作ワンピース
いわさきちひろの 自作ワンピース
茨木のり子もイッセイミヤケなどの服を着こなしていた人。展示室には愛用の品や直筆原稿なども展示されています。そして、『わたしが一番きれいだったとき』など、代表作の詩もパネルで提示、力強い言葉を展覧会で読むことができます。
茨木のり子が着用していたイッセイミヤケのメンズシャツ(左)と、イタリアのブランド、ヘルノのスーツ
茨木のり子が着用していたイッセイミヤケのメンズシャツ(左)と、イタリアのブランド、ヘルノのスーツ
茨木のり子の直筆原稿
茨木のり子の直筆原稿
岡上淑子は、1950年代に活動したコラージュ作家。戦後、日本にどっと入ってきた洋雑誌などを素材に、幻想的な作品を制作しました。1990年代後半にその先鋭的な活動が注目され、その作品が再評価されています。
岡上淑子《閃光》1955年 東京国立近代美術館蔵
岡上淑子《閃光》1955年 東京国立近代美術館蔵
岡上淑子が《閃光》で素材の一部として使用した洋雑誌『LIFE』 1955年 個人蔵
岡上淑子が《閃光》で素材の一部として使用した洋雑誌『LIFE』 1955年 個人蔵
この展覧会は、3名の女性が作り出したジャンルの異なる作品を一度に見られる、とても刺激的で、少しオトクな気分にもなる展覧会。併設のカフェものんびりくつろげて素敵な空間です。

■ちひろ美術館・東京/「装いの翼 いわさきちひろ、茨木のり子、岡上淑子」
会期:開催中~2026年2月1日(日)
住所:東京都練馬区下石神井4-7-2
休館日:月曜(祝休日は開館・翌平日休館)、年末年始(12月28日〜1月2日)
TEL:03-3995-0612、テレフォンガイド03-3995-3001
入場料:一般1200円、18歳以下・高校生以下無料
開館時間:10~17時(入場は16時30分まで)
アクセス:西武新宿線上井草駅より徒歩7分

人気ブランドの丁寧なものづくりに迫る

“sea sky” 2025-26→a/w Photo: Keita Goto(W)
“sea sky” 2025-26→a/w Photo: Keita Goto(W)
「せめて100年続くブランド」という想いを核に、デザイナーで創設者の皆川明が1995年に立ち上げたブランド、minä perhonen(ミナ ペルホネン)は今年で創立30周年。常に100年後を想定して創作活動を行っています。11月22日(土)~2026年2月1日(日)まで「世田谷美術館(せたがやびじゅつかん)」で開催される「つぐ minä perhonen」は minä perhonenのものづくりのありかたを見つめる展覧会です。

minä perhonenは天然素材でオリジナルのテキスタイルを中心とした「特別な日常服」作りから始まったブランド。活動を展開していくうちに少しずつ領域を広げ、現在はインテリアや生活全般にまつわるものを取り扱っています

世田谷美術館「つぐ minä perhonen」より 刺繍工場での補修作業 手元風景 Photo: Yayoi Arimoto
世田谷美術館「つぐ minä perhonen」より 刺繍工場での補修作業 手元風景 Photo: Yayoi Arimoto
この展覧会では、洋服やプロダクトはもちろん、オリジナルのテキスタイルや原画なども展示。「つぐ」という展覧会のタイトルどおり、100年先まで受け継がれていくであろう仕事、そして考え方にふれていきます。ちなみにminä perhonenのminäは「私」、perhonenは「ちょうちょ」を意味するフィンランド語です。
“kivi” 2025-26→a/w Photo: Keita Goto(W)
“kivi” 2025-26→a/w Photo: Keita Goto(W)
2019年から「東京都現代美術館」のほか全国各地で開催された展覧会「ミナ ペルホネン/皆川明 つづく」では、minä perhonenの、繊細で、しなやかで、たおやかな世界を心ゆくまで堪能できました。今回の展覧会も、さらに深くminä perhonenの世界に耽溺できるはず。

■世田谷美術館/「つぐ minä perhonen」
会期:2025年11月22日(土)~2026年2月1日(日)
住所:東京都世田谷区砧公園1-2 世田谷美術館1・2階展示室
館日:月曜、年末年始(2025年12月29日(月)~2026年1月3日(土))
※11月24日(月・振休)、1月12日(月・祝)は開館。11月25日(火)、1月13日(火)は休館
TEL:050-5541-8600(ハローダイヤル)
入場料:一般1700円、65歳以上1400円、大高生800円、中小生500円
開館時間:10~18時(入場は17時30分まで)
アクセス:東急田園都市線用賀駅から徒歩17分


「おしゃれの秋」を楽しむ展覧会

今月紹介した3つの展覧会は、どれも「装う」ことや「布地」がテーマです。布地や服などを鑑賞するときは、まずは素材そのものに着目してみてください。

「なでたら気持ちよさそう」、「トートバッグにしてみたい」、「いや、テーブルクロスに使いたい」「いっそのこと自分で着てみたい」など、自分で使うならどうなるか? 身につけるならどういう気持になるか? を想像してみる。すると、展示作品が身近に思えてくるはずです。ぜひ美術館で「おしゃれの秋」を楽しんでみてください。


Text&Photo:浦島茂世

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