【おとなのソロ部】倉庫に眠る建築模型をじっくり堪能。天王洲「WHAT MUSEUM」で建築美に溺れる
東京・天王洲アイルの運河沿いに立ち、倉庫の静けさをそのまま残したミュージアム「WHAT MUSEUM(わっと みゅーじあむ)」。アートと建築を軸にした展示を楽しめるのが魅力で、ふだん目にすることのない“構想の裏側”にふれられる貴重な場所です。静かに、自分だけの思考がほどけていくような時間が過ごせるミュージアムをご紹介します。
エントランスからすでにアートな感覚に浸る

東京・品川区の静かな水辺に佇む「WHAT MUSEUM(わっと みゅーじあむ)」は、倉庫のもつ空気感をそのまま生かした“現代アートと建築のミュージアム”。天王洲アイルに本社がある倉庫会社「寺田倉庫」が長年培ってきた保存・管理のノウハウを背景に、普段は目にすることのできない作品や建築模型が一般に開かれています。
アクセスは、りんかい線天王洲アイル駅から徒歩約5分。運河沿いを歩きながら向かう導線そのものが、静かに日常から切り離してくれるような気持ちのよいアプローチです。

外壁を覆う大きな格子模様は、建物そのものも作品の一部のように見えてくるほどの存在感。初めて訪れる人でも、「ここから非日常がはじまる」と自然に思わせてくれる印象的な外観です。
今回訪れたのは「建築倉庫(けんちくそうこ)」。受付で入館手続きを行い、スタッフの誘導で館内奥のエレベーターで移動します。「建築倉庫」は、建築家や設計事務所が建物を建てる際に作った模型などを保管し、その一部を展示しているエリア。ふだんは建築家の事務所やプロジェクトの内部でしか目にすることのない模型や図面が、一般向けに公開されています。
エレベーターを降りるとやさしい灯りが並ぶ「三灯小道(さんとうこみち)」と名付けられたオブジェが展示され、訪れる人をそっと迎えてくれます。

ちなみにこの小道は、クギや金具を使わずに木材を組み上げる伝統技法「三方格子(みかたこうし)」で作られています。解体や移設が可能な構造で、木の持つしなやかさと職人技が息づいています。

「建築倉庫」には、用途の異なる2つの展示室があります。エレベーターを降りて右手側は、建築模型を体系的に見せる「保管展示スペース」。建築倉庫で保管している模型が整然と並び、建築の考え方や構造の違いを立体的に理解できます。

左手側は、企画展や特集展示が行われる「体験スペース」。特定の建築家やテーマにフォーカスした内容が多く、模型だけでなく図面資料や映像なども交えて、ひとつのプロジェクトがどのように形づくられていくのかを深く追える場所になっています。展示替えも定期的に行われるため、何度訪れても新しい視点で建築を楽しめるのが魅力です。
建築倉庫で“構想の裏側”をのぞき込む

建築倉庫の「展示室1」に一歩足を踏み入れると、棚のようにレイアウトされた大小さまざまな建築模型がずらり。住宅、商業施設、美術館といった幅広いジャンルの模型が並び、まるで建築家のアトリエを覗き込んでいるような臨場感があります。
完成した建物を見る機会はあっても、その前段階を体系的に見られる場所は貴重。模型を通して「この曲線はこうして生まれるのか」「こんなディテールまで考えるんだ」と、建築の舞台裏にふれられる空間です。
ここでは、設計の初期段階を形にした「スタディ模型」、完成形を緻密に表現する「プレゼンテーション模型」、建物の骨組みを示す「構造模型」など、種類豊富な模型が間近で観察できます。残念ながら、撮影はいっさいNG。目に焼き付けて楽しみましょう。
「スタディ模型」の一例が、建築家・伊藤寛(いとうひろし)氏の住宅模型。住宅を建築する際に実際に使われたもので、外観・内観が可視化されていておもしろい。じっくりと観察していると、そこで暮らす風景が見えてくるかのようです。
1/50の縮尺。建物の外側と内側が見える化されている。模型に筆を使って着色することで実際の建築の仕上げをイメージしようとしている
1/100の縮尺。丁寧に着色されている
「プレゼンテーション模型」の一例が、建築家・隈研吾(くまけんご)氏が手がけた「小松マテーレ ファブリックラボラトリー fa-bo」の模型。こちらは化学繊維メーカーの先端技術を体験できる施設で、模型では、ファブリックのドレープをイメージしてデザインされた耐震補強材が繊細に表現されています。
外の光を柔らかく透過する外観の質感まで伝わってくるよう。素材の“軽さ”や“透け感”を建築デザインにどう取り込んでいるのかがよくわかり、技術とデザインが融合するプロセスを追体験できる作品です。
「構造模型」の一例が、建築家・中村拓志(なかむらひろし)氏が手がけた、広島県尾道市のホテル内のチャペル「リボンチャペル」の模型。2本のらせんが絡み合う特徴的な構造がわかりやすく再現されていて、建物がどのように支えられているのか、内部の力の流れまで視覚的に理解できるつくりになっています。
一部の展示物については「WHAT MUSEUM」の公式アプリで確認することができるので、ダウンロードしておくと便利。展示されている模型の背景や設計意図、建築家のコメントなどをその場で確認でき、気になる作品の前でアプリを開くと、まるで建築家本人から解説を受けているような感覚で楽しめます。
新しく誕生した体験型スペースで、建築を“体感”

2025年3月に、参加型・体験型で建築を楽しめる新エリアがオープン。「建築家にとって模型とは」というメッセージとともに、倉庫ならではのスケールを生かしたダイナミックな空間が広がります。

館内には、自由に持ち帰れる「建築倉庫新聞」も。模型の背景や建築家のエピソードがわかりやすくまとまっていて、見学後の読み返しにも最適です。
2021年に改修された「ヴェネチアビエンナーレ ロシア館」の模型も展示。歴史的建築を現代の展示空間へとアップデートした様子が丁寧に再現され、外観のクラシカルさと内部の開放感の対比がよくわかります。国際展の舞台裏をのぞくような興味深さのある模型です。

奥は、建築構造を紹介する企画展示を開催中。建築の構造や仕組みを模型を通して理解することができます。展示と展示間のスペースがゆったりと設けられているため、ひとりでもゆったりと鑑賞しやすい空間です。
建築設計:丹下健三・都市建築設計研究所、構造設計:坪井善勝研究室、模型所蔵:建築倉庫、模型制作:ラムダエンジニアリング
「展示室2」内の模型は、写真撮影OK。スケール感や素材の質感を体で感じながら、「建築はどう組み立てられるのか」を視覚的に知ることができます。建物の骨組みを見る機会などそうないので、じっくりと観察してしまいます。
「木橋ミュージアム」の模型。柱や梁の構造、当時のスケール感がよくわかるつくりで、こういった簡素ながら機能性のある歴史的建築についても、立体的に知ることができます。
入口手前側には、模型の素材にふれたり、構造をパネルや映像で学べたりする体験コーナーも。模型を「見る」だけでなく、「知る」「体感する」へとつながる学びの場になっています。
手を動かすことで、図面だけでは想像しにくい空間の広がりや構造の工夫が見えてきて、「建築ってこうやって生まれるんだ」と実感できる内容です。見て学ぶだけでは得られない気づきがあり、建築模型の奥深さがぐっと身近になりました。
そのほか「WHAT MUSEUM」では、通年展示に加えて、期間限定の企画展も次々と開催されています。建築模型に現代美術、インスタレーションと、倉庫ならではの空間を生かした多彩なラインナップが魅力で、訪れるたびに新しい視点や発見に出会えるはずです。
「建築倉庫」のチケットは、オンラインにて購入可能。11~18時まで、1時間ごとの日時指定で事前予約ができます(空きがあれば当日購入も可能)。次の休日、ひとりでふらりと立ち寄ってみては。
■WHAT MUSEUM 建築倉庫(わっと みゅーじあむ けんちくそうこ)
住所:東京都品川区東品川2-6-10 寺田倉庫G号
営業時間:11~18時(最終入館17時)
定休日:月曜(祝日の場合は翌平日休館)
Text:松崎愛香
Photo:斉藤純平
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