【おとなのソロ部】工房見学ツアーや印刷体験も!「印刷博物館」で大人の社会科見学
東京・文京区水道にある「印刷博物館」は、印刷の歴史から最新技術までを幅広く紹介するミュージアム。展示に加え、工房見学や活版印刷体験もあり、充実した内容を楽しめます。ひとりでじっくり印刷の世界に浸ってみませんか?
印刷の歴史と魅力を体感

歴史的・文化的価値をもつ収蔵品が多く、古今東西の印刷物や活字、道具、機械など約7万点のコレクションから厳選した約300点を展示。印刷が人々の暮らしをどのように支えてきたかを多角的に知ることができます。

入館すると展示室へと続く「プロローグ」が。紀元前1万5000年の「ラスコーの洞窟壁画」(フランス)から始まり、現代のプリント基盤に印刷技術を応用したカードまで、有史以来のビジュアル・コミュニケーションの歴史を一望できます。回廊のような空間で、人類が築いてきたビジュアル・コミュニケーションの流れを体感しつつ、見学をスタートしましょう。
印刷の変遷をたどる常設展

常設展は、「印刷の日本史」「印刷の世界史」「印刷×技術」の3つのセクションで構成されています。今回は「印刷の日本史」をいくつかの必見ポイントとともに紹介します。
「印刷の日本史」は、奈良時代に始まった印刷文化を、古代・中世、近世、近代、現代の4つの時代区分に分け、歴史的事象とともに追う展示。木版・活版・図版印刷、江戸の浮世絵や近代の教科書・広告物など、多様な資料で印刷の変遷と文化的役割をたどります。


●現存する世界最古の印刷物
奈良時代の「百万塔陀羅尼(ひゃくまんとうだらに)」は、現存するなかで印刷された年代が明確な世界最古の印刷物。称徳天皇が国の安泰を祈念し、経文を100万枚印刷させ、木製の三重小塔100万基の内部に丸めて納め、法隆寺などに安置したとされています。


●徳川家康が造らせた金属活字
慶長11年(1606)、徳川家康が朝鮮伝来の銅活字をもとに鋳造させた「駿河版銅活字」は、日本最初の金属活字。家臣に読ませるために、その活字を使って政治の参考書ともいわれる書物『群書治要(ぐんしょちよう )』を印刷したそうです。


●江戸時代の浮世絵
寺院や身分の高い人のためのものだった印刷物が、江戸時代になると、趣味や楽しみとして一般の人々へ普及し始めます。そのひとつが浮世絵。どれだけの人が関わって作り上げるのか、プロデューサーとしての版元の役割、錦絵(多色摺りの浮世絵)がどのように摺られていくのかも展示されています。

●江戸時代の実用書
江戸時代後期には、学問や娯楽など、多くの実用書が印刷、出版されるように。絵と文字を一緒に彫った木版が多用され、髪の結い方などを紹介した現在のファッション誌のような本も出版されていたそうです。

●明治時代の赤絵
娯楽のための錦絵でしたが、明治時代に入るとジャーナリズムの要素が強くなります。赤、青、紫などを使ったカラフルさも特徴で、特に赤の鮮やかさが際立ったために「赤絵」ともよばれました。また、この時代になると活字の量産が可能になり、金属活字が一気に普及していきます。
活版印刷にふれられる印刷工房

15世紀に確立され、近代まで文字印刷の中心となってきた活版印刷術。いまでは担い手が少なくなりつつありますが、併設の印刷工房では、その技術の保存・継承・研究に取り組んでいます。さらに、工房見学ツアーや印刷体験といった常設イベントを通して、活版印刷の魅力を広く伝え、次の世代へとつないでいます。

毎週火・水曜の14時からは、インストラクターが案内する工房見学ツアー(無料※印刷博物館の入場料が必要、要予約)を開催。鉛の活字や手動の印刷機など、今では貴重となった設備を間近で見られ、印刷現場の空気をそのまま体感できます。文字が紙に刷り込まれるまでの工程を実物とともに学べるため、印刷の奥深さをより立体的に感じられます。

印刷工房では、1万以上の文字を書体やサイズごとの活字で所蔵。活字棚には、ひらがなを中心に使用頻度の高い漢字からそのまわりに配置されています。

活版印刷の工程では、文撰(ぶんせん)の職人が、原稿と文撰箱をもち、活字ケースから一文字一文字取り出して箱に入れていったのだそう。

宮沢賢治『銀河鉄道の夜』の主人公ジョバンニは、活版所で活字拾いのアルバイトをしていたことで知られています。その場面から抜粋した文章の組版と印刷したポストカードも置かれていました。

写真手前は1800年頃に考案された、史上初の総鉄製手引き印刷機。ほかにも工房内には貴重な印刷機が多く置かれていて、実際に使われているため、印刷をしている様子を見られることもあります。

ツアーの締めくくりは印刷体験。ひとり1枚、しおりを印刷して終了です。

活版印刷体験(無料※印刷博物館の入場料が必要、予約)は、木・金曜の14時と土・日曜、祝日の14時、16時に開催。参加者自身が活字を拾い、組み、小型活版印刷機で刷り上げるまでの工程を体験できる人気のワークショップです。春はメッセージカード、夏はコースター、秋はしおり、冬はグリーティングカードと季節ごとに制作物は変わります。取材時は秋プログラムのしおりに挑戦しました。
まずは原稿記入用紙に14文字以内で好きな言葉を記入。使用できる活字は、ひらがなとカタカナと記号が主なので、今回は、「るるぶ あんど もあ。」にしました。



続いては活字拾い。必要な文字を選んだら版を組んでいきます。活字の下部には「ネッキ」とよばれる溝があり、文字の向きがひと目でわかる仕組み。縦書きの場合はネッキを右にして並べ、活字の高さを整えれば組版の完成です。

印刷はイギリス製アダナ印刷機を使用。紙をセットし、ローラーでインキをのばしてからハンドプレスをしっかり引くと、美しい刷りあがりが現れます。

しおりは5種の紙が用意され、それぞれテイストの異なる仕上がりに。完成したものは持ち帰ることができ、世界にひとつのだけの記念にもなります。
2025年12月初旬から2026年3月初旬までは、欧文の活字を使ってグリーティングカードを作るプログラムを開催しています。
印刷の技術を生かしたオリジナルグッズも

展示を満喫した後は、ミュージアムショップへ。ここでは、印刷工房で刷られたポストカードや便箋、雑貨など、印刷技術の美しさを感じられる個性豊かなアイテムが並んでいます。
展示品をデザインに取り入れたオリジナルグッズや企画展のための限定アイテムなど、デザイン性の高い商品は、自分用にはもちろんギフトとしても喜ばれそう。
印刷の歴史や技術の変化を学べるだけでなく、職人の技を間近で感じる体験プログラムも充実の「印刷博物館」。目で見て、手を動かして、印刷という文化が暮らしを支えてきた背景に出会えます。印刷技術やデザイン、出版をテーマにした企画展も開催されているので、訪れるたびに新しい発見があるはずです。
Text:河部紀子(editorial team Flone)
Photo:yoko tajiri
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