自家栽培・自家製粉にこだわる「小来川 山帰来」で味わう、日光の手打ちそば|栃木
日光市の山あい、小来川(おころがわ)にある「小来川 山帰来(さんきらい)」は、自分たちで育てたそばを製粉し、店内で手打ちするそば店です。大きな窓の向こうには川と山の緑。益子焼の器でそばを味わうひとときには、地域の農地を守り、次の世代へつなごうとする思いも込められています。そば作りから店づくりまで、そのこだわりと背景をご紹介します。
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清流のそばに建つ、木の温もりに包まれた一軒

日光市街地のにぎわいを離れ、山あいの道を進んだ先にある小来川。川沿いの「小来川 山帰来」は、木の梁が頭上に渡る、天井の高いログハウス風の建物です。店内に入ると目を引くのが、壁一面に広がる大きな窓。窓際にはカウンター席が長く続き、川の流れと対岸の森を眺めながら食事ができます。
目の前を流れるのは黒川。窓の向こうには、川辺へ続くデッキも見えます。耳を澄ませば水の流れる音が聞こえ、室内にはジャズの音楽。そばを待つ時間も、景色を眺めながらゆっくり過ごせます。カウンターには樹齢約300年の日光杉が使われ、地域の木と川が、店の居心地をつくっています。
畑で育て、石臼で挽き、店内で打つ。そば作りはここから

この店の大きな特徴が、そばの栽培から製粉、手打ちまでを自分たちで手がけていること。店から少し離れた場所には大きなそば畑が広がり、秋には小さな白い花が一面を覆います。畑と向き合うところから、一杯のそば作りが始まっています。

収穫したそばの実は石臼で挽いて粉にし、店内で手打ちしています。そば打ちの様子は仕込みの状況によって変わりますが、平日は午前11時ごろまで、土・日曜は正午ごろまで見られることがあります。
そばは秋だけでなく夏にも収穫するため、季節ごとに新そばを味わえるのもうれしいところ。夏そばは7月に収穫し、秋のそばは11月の収穫後に新そばとして登場します。
小来川産の十割そばを、益子焼の器で味わう
「山帰来」のそばは、地元・小来川産のそば粉を使った手打ちそば。そば本来の豊かな香りや味わいを大切にした一品です。栽培から製粉、手打ちまでを一貫して手がける、この店のこだわりが詰まっています。もりそばは竹すを敷いた大きな器にふんわりと盛り付けられ、つゆと薬味が添えられます。まずは麺そのものの香りと食感を確かめながら、じっくり味わいたいところです。
少し趣向を変えたい人には、水そばに薄く輪切りにした酢橘(すだち)を浮かべた「酢橘そば」も。酢橘の香りとほどよい酸味が、そばの風味にさわやかな変化を添える、通好みの一品です。ほかにも十割そばや、日光名物のゆばを取り入れた「ゆばそば」もおすすめです。提供する品書きは変わるため、気になるメニューは来店前に確認しておくと安心です。
器にも、この店ならではの物語があります。そばを盛る益子焼は、オーナーの同級生でもある陶芸家・佐伯守美(さえきもりよし)さんによるもの。店名「山帰来」も、佐伯さんの代表的なモチーフにちなんでいます。器は注文から完成まで約1年かかることもあるといい、欠けたものは金継ぎをしながら大切に使っています。食材だけでなく、器にも手間と時間をかけた一杯です。
薪ストーブにジャズ。建物や空間にも手仕事が息づく

店づくりにも地元への思いが表れています。建物は、ログビルダーと相談しながら、オーナー自身も平面プランの設計に参加して建てたもの。木組みの一部には、釘に頼らない工法も採用されています。ちなみに小来川にはログビルダーを育てるスクールがあったそうで、そこで育ったビルダーが手掛けているとのこと。

壁には絵画が飾られ、冬には薪ストーブにも火が入ります。穏やかなジャズが流れる店内は、いわゆる昔ながらのそば店とは少し違う雰囲気。木の温もりと音楽、そして窓いっぱいの風景が重なり、ゆったり食事をするのに似合う空間です。
そば畑を増やし、農地を守る。店の背景にある地域づくり

「山帰来」の開店には、地域を元気にしたいという目的もありました。小来川では高齢化が進み、耕す人が減って休耕地となる畑もあります。そうした土地に再び作物を育て、収穫したそばを地元の店で提供する。身近な地域の中でつくり、味わう「小さな地産地消」が、店づくりの基本にあります。
ただし、そば作りは簡単なことばかりではありません。シカが畑のそばを食べてしまうため、地域の人や猟友会とも協力して対策を進めています。周辺には長い防護ネットを設けていますが、被害を完全に防ぐのは難しいのが現状です。かつては川の水を利用してワサビ栽培を行っていましたが、現在は休止中。うまくいかなかった経験も糧にしながら、山あいの暮らしや土地のめぐみを次代へつなぐ挑戦を続けています。
「元気になって帰ってほしい」。店名に込めた願い

「山帰来」は、このあたりにも自生する植物の名前。昔話では、山に置き去りにされたおばあさんが山帰来を食べて元気になり、帰ってきたという言い伝えも残ります。店名には「ここでそばを食べて、元気になって帰ってほしい」という願いが込められています。
川を眺め、地元で育ったそばを味わい、器や建物の話にもふれる。食事の時間を通じて、小来川という土地のことを少し身近に感じられるのが「山帰来」です。そばの一杯と向き合って過ごす昼の時間を、日光の旅に加えてみたくなります。
アクセス・基本情報
「小来川 山帰来」へは、JR日光線・文挟(ふばさみ)駅から車で約15分、日光宇都宮道路・今市ICから車で約20分。山あいの道を走るため、車で訪れるのが便利です。店には広い駐車場もあります。そばの売り切れなどで早めに営業を終える場合もあるため、余裕をもって向かいましょう。冬期には営業時間が短くなる場合や、十割そばが事前予約制となる時期もあります。出かける前に、店のお知らせで当日の営業案内を確認しておくと安心です。

Text:川野大介 Photo:阿部栄一郎
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