鎌倉の重要文化財で雅に。清涼感たっぷりの「やまももサイダー」を
江戸初期に建立された国指定重要文化財の「一条恵観山荘(いちじょうえかんさんそう)」が、2017年6月から庭園を一般公開するようになり、注目を集めています。敷地内にあり、鎌倉の原風景を臨みながらスイーツやドリンクを楽しめる「かふぇ 楊梅亭(やまももてい)」も人気です。
鎌倉にありながら、京の雅を追体験できる一条恵観山荘
鎌倉駅からバスに揺られて約10分。金沢街道沿いにある竹の大きな門が見えたら「一条恵観山荘」に到着です。この山荘は、後陽成天皇の第九皇子であった一条恵観が1646(正保3)年に京都・西賀茂に築いた山荘を、昭和期に鎌倉の地に移築したもの。建物だけでなく、枯山水や飛石を含めた庭園も一緒に移したというから驚きです。
敷地に一歩足を踏み入れると、風流で繊細な美しさをもつ日本の文化を肌で感じます。入口近くにある「御幸門(みゆきもん)」は、天皇をお迎えするための御門。高貴な人のみが通る格式の高い場所だと思うと、心なしか姿勢もよくなります。
庭園は散策路が整備されているので歩きやすく、広さも約800坪とコンパクト。滑川沿いにはベンチが置いてあり、岩山や川のせせらぎなどをのんびり楽しむことができます。赤松、苔、青もみじなどの緑が美しい庭園には、桔梗、水引などの季節の花も。存在を主張するような派手な花がないところに、わび・さびといった日本らしい美意識を感じます。
併設のカフェでいただく、絶品スイーツとドリンク
鎌倉の岩山と滑川を見下ろせる場所にある「かふぇ 楊梅亭」は、大きなガラス戸から自然を感じられる癒しの空間。楊梅の実を愛していた一条恵観が、楊梅を天皇へ献上したエピソードが店名の由来になっているそうです。ここでは鳥のさえずり、川のせせらぎ、木々のざわめきに耳を傾けてほしいから、あえてBGMは流さないというこだわりも。
「醍醐のケーキ」(650円)は、ふんわりやさしい口当たりのチーズケーキと抹茶の相性が抜群のひと品。その昔、チーズのことを醍醐と呼び、それは王族貴族しか口にできない大変高価なものだったそうです。苔に見立てた抹茶のクラム、石に見立てたチョコレートをお皿に配して庭園を再現しています。
庭園でおなじみのもみじの葉をモチーフにした「宇治抹茶のロールケーキ」(600円)は、数量限定の人気メニュー。金粉がふりかけられた黒豆がお口直しに添えられ、飽きることなくぺろりと完食できちゃいます。洋菓子はすべて、鎌倉小町通りの銘店「パティスリー雪乃下」が監修したオリジナルスイーツ。「抹茶と季節の生菓子」(1000円)などの和菓子は、創業100年を超える西鎌倉の老舗「茶の子」のお菓子です。
「やまももサイダー」(650円)は徳島産のやまももを取り寄せ、このお店で煮詰めてジュースにしています。サイダーで割ると心地よい泡と爽やかな風味が加わり、暑い夏にぴったりの一杯に。ジュースとサイダーをよく混ぜていただくとおいしく、やまももの実も食べられます。やまももは甘酸っぱい風味とプチプチとした食感で、どことなくラズベリーに近い味わいです。
開催日を確認して、通常は公開していない建物内部や茶席も見学
建物内部は月に数回一般公開され、案内人のガイド付きで見学ができます(日程は公式サイトで要確認)。野趣に富んだ外観に反して、建物の内部は和歌をはじめ書や茶の湯に長けた一条恵観ならではの意匠が施された雅やかな空間。それぞれに目的をもつ細々とした10の部屋からなる建物は、襖をすべて開け放つと抜けのよい大広間になります。
主室の襖の引手に“月”の字が装飾されているのは、かぐや姫の物語のイメージから、手の届かない世界である“月”を身分の高い人と解釈した恵観の意向によるもの。主室手前の部屋では、襖の引手は“の”の字になっていて、「月の」と歌が続いているように見せるという、和歌に精通した恵観らしい技巧です。ほかにも、当時の文化風俗がうかがえる「杉戸絵」、部屋の格によって変化する天井や障子の意匠など見どころたっぷり。
茶席「時雨」では、歴史ある道具を使った茶の湯体験を不定期で開催(日程は公式サイトで確認)。障子が開けられている時のみ見られる円窓は風情たっぷりで、カメラを構えたくなるフォトジェニックなスポット。障子にぽっかりとあいた円窓の奥からやさしい陽が差し込み、和室の畳の上にも満月のような光の円が描かれる様子も素敵です。
一条恵観の趣がうかがえる庭園は、自然を五感で堪能でき、日本文化に誇りを感じられる数少ない空間。一般公開されてから間もないため、まだ積極的にPRは行っていないとのこと。混んでしまう前に早めに観ておきたいスポットです。
Text:高橋亜矢子
photo:榊水麗
●掲載の内容は取材時点の情報に基づきます。変更される場合がありますので、ご利用の際は事前にご確認ください。