文化財でいただくお抹茶は格別。名古屋で“和”を感じるくつろぎ時間
ヘラルドグループの創始者・古川爲三郎(ふるかわためさぶろう)氏が、長年に渡り収集してきた美術品を所蔵・展示する「古川美術館」。その分館で、爲三郎氏が居宅とした数寄屋建築「爲三郎記念館」は、国登録有形文化財として一般公開されるだけでなく、和カフェとしても利用できるのをご存知ですか?美しい日本庭園を眺めてお抹茶をいただけば、名古屋市内とは思えぬ静かで和の趣あふれたくつろぎのひと時が過ごせます。
爲三郎氏が愛した数寄屋建築と庭園
古川美術館の分館となる「爲三郎記念館」は、古川爲三郎氏が住まいとして利用していた旧居宅です。その母屋となる「爲春亭(いしゅんてい)」は、昭和9年(1934)に創建された数寄屋建築で、国登録有形文化財にも登録されています。その最大の特徴は、各部屋に日が差し込むように南西向きに少しずつ斜めに配されていること。俯瞰して見ると雁が群れて飛ぶ姿に似ていることから「雁行形(がんこうけい)」と呼ばれ、どの部屋からも爲三郎氏が愛した美しい日本庭園が望めるようになっています。
庭園は木曽川をイメージした流れと岩組みを前景に、白砂の広場が広がります。名古屋市内の池下駅すぐそばにあるとは思えぬほど静かで緑に囲まれているのは、5本のシイノキの大木に覆われているから。「木には精霊が宿る」と考えていた爲三郎氏は、この大木も大切にしていたそうです。手でそっと触れてみれば、パワーがいただけるかもしれませんね。庭園の一角には犬山の国宝「如庵(じょあん)」に想を得て建てられた茶室「知足庵(ちそくあん)」もひっそりとたたずみます。ゆっくりと散策しながら、庭園を鑑賞してください。
数寄屋建築がまるごとカフェスペースに
母屋「爲春亭」は邸内も自由に見学できます。爲三郎氏が仏間として使用していた「ひさごの間」、極端に壁を少なくして外の光と景色を取り込んだ茶室「葵の間」、邸内唯一の洋間「浮観の間」など、全部で8つの趣異なる部屋があります。釘を使わない木組み、開けると市松模様を描く無双窓、壁下地の竹や葦を円形に塗り残した円形下地窓など、遊び心ある趣向や建具も見どころです。
爲三郎氏が最も好きだったという眺めが「大桐の間」からの景観。“爲春亭のなかでも最も美しく忘れがたい”と形容される、素晴らしい庭園美は必見です。実は、邸内は記念館として公開されるだけでなく、「数寄屋café」として眺めの良い席でお抹茶やコーヒーをいただくこともできます。庭園を望む窓際のカウンターが特等席ですが、洋間の「浮観の間」や洋画家・田村能里子氏による壁画が楽しめる「桜の間」なども人気です。
「数寄屋café」のおすすめは「抹茶セット」(500円)。館ゆかりの作家による抹茶茶碗で供され、季節の和菓子とオリジナルの和菓子「夢寿夢寿(むじゅむじゅ)」が選べます。写真は夢寿夢寿。103歳まで元気に生きた古川爲三郎氏の長寿にあやかった縁起物で、黒砂糖の羊羹できめの細かなつぶあんを包んだひと口サイズの和菓子です。持ち帰り用の販売もあるので、気に入った方はぜひどうぞ。
名古屋に観光がてら訪れたという人は、「あん珈琲」(500円)なんてセレクトもありますよ。名古屋にはコーヒーにあんこを入れて飲む…、なんて食文化があるのをご存知ですか?あんこの甘みとコーヒーの苦味がなんとも絶妙なんです。百聞は“一食”に如かず。ぜひ試してみてください。なお、「あん珈琲」は時期によってはないこともあります。
共通入館券で古川美術館も鑑賞しよう
分館「爲三郎記念館」だけの入館もできますが、せっかくなら「古川美術館」にも足を運びたいところ。美術館では近代日本画を中心に、油彩画、陶磁器、工芸品など、約2800点にも及ぶ古川爲三郎氏のコレクションを収蔵しています。所蔵品展のほか、さまざまな企画展も随時開催していますので、ホームページで確認のうえお出かけするのがおすすめです。もちろん、共通入館券も販売しています。古川爲三郎氏が愛でた美の世界を、美術館と記念館でたっぷりと体感してください。
■分館 爲三郎記念館「数寄屋café」
(ぶんかん ためさぶろうきねんかん「すきやかふぇ」)
住所:愛知県名古屋市千種区池下町2-50
TEL:052-763-1991(古川美術館)
営業時間:10~17時(LO16時30分)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)、古川美術館休館日
料金:爲三郎記念館のみ入館(呈茶付)700円、共通入館券1000円
Text:小野剛志
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