“そばの神様”の味を継ぐ、ミシュラン・ビブグルマンに選ばれ続けるそば屋探訪
2010年7月に京都御所の南にオープンして、10年目を迎える「手打ちそば 花もも」。名物の「すだちそば」は、口伝いに広まり、京都に夏の訪れを告げる風物詩として毎年心待ちにしている人も。2015年、ミシュランのビブグルマンに見出されてから現在まで選ばれ続けている名店の味を堪能しにいきましょう。
夏の香りを運ぶ「すだちそば」は9月いっぱいまで
今では看板メニューにもなっている「すだちそば」。夏から初秋にかけての間メニューに並ぶ、季節限定メニューです。鉢に浮かぶのは、四国から届く2Lサイズのすだち丸々1個。
目の前に運ばれた瞬間から香りたつ、すだちの爽やかさ。薄くカットされたすだちは、酸っぱさもなく皮まですべて食べられます。
すだちにはクエン酸とビタミンC、そばにはビタミンB1があり、夏バテ予防の3つの栄養素がすべて詰まっています。暑い時季にすだちそばを食べるのは、健康のためにも理にかなっているといえそうです。
そばの実の扱いから違う、職人の手仕事
押しも押されもせぬ人気店となった「花もも」。店主の百瀬さん、もともとはサラリーマンだったといいます。転機となったのは2005年。激務に疲れて、転職活動をしていた百瀬さんに知り合いがポロっといった、信州出身ならそば屋をやればいいのに…の一言。
そこからの百瀬さんの行動には迷いがありません。テレビ番組の「情熱大陸」で取り上げられたこともある“そばの神様”高橋邦弘さんが立ち上げた店「翁」で3年間修業。結婚を機に関西へと修業の場を移し、満を持して2010年、自分の店を持ちました。
「自分の店は、そばだけに特化しよう。」。百瀬さんは、そば粉を仕入れるのではなく、殻付きのそばの実を仕入れ、自分で脱っぷ(殻を外すこと)し、磨き、粉を挽いて麺を打ちます。今でこそ追随するお店がいくつかできていますが、当時、個人店でそばの実からそばを打つまでのすべてを手がけるお店は周りにほとんどなかったそう。
そばの実は、4つの産地から取り寄せます。 ここの実は色がいい、ここは香り、ここは味が濃い…。産地により性質の違うそばの実をブレンドすることで、「花もも」ならではのそばに仕上がります。
1日に脱っぷするそばの実は12kg。殻を外し、磨いて大きさを揃えると9kgになります。それがなくなると、その日の営業は終了。公表されている営業時間は18時30分迄ですが、14時に店じまいになる日もあるそう。その日使う分だけを、一から用意するから、新鮮さ、香り、コシ、味わいがまるで違うのです。
「花もも」で提供されるそばは、2種類。こちらは田舎そば。ごはんで例えると、玄米のようなもので、甘皮の部分をざるそばよりも多めに配合。麺も太目で、噛んだときのむちむち感が好きな人にはたまらないそば。温でもいけますが、ざるで歯ごたえを楽しむのがおすすめ。
京都御所の緑を借景に、豊かな時間
1階は大きなテーブルを囲む8席、2階は窓に向かうカウンター席と座敷の4席になります。やはり特等席なのは、2階のカウンター。
揺らぎガラスの向こうの、京都御苑を囲む緑が目を休ませてくれます。以前は事前にハガキでの申し込みが必要だった京都御所ですが、いまでは通年無料で一般公開されるようになりました。おそばでお腹を満たした後は、御苑や御所を散策するのもいいですね。秋は紅葉、春は梅、桃、桜を観賞できます。
眺めのよさでは2階ですが、平日や雨降りの日なら、遅めの時間の1階席を狙ってみるのもいいかもしれません。 夏本番は終わりましたが、まだまだ暑い日が続いています。そんな夏の名残の暑さを感じながら「すだちそば」でさっぱりしてみませんか。
Photo:瀬田川勝弘
text:小西尋子
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