フォトグラファーが旅する世界遺産。炭鉱跡や造船所跡、反射炉…見て、知って、撮って、ときめく!「明治日本の産業革命遺産」3エリア
明治維新の志士が育った城下町、機械設備が残る炭鉱跡、西洋列強に負けじと大砲を作った反射炉…。これらは全部、世界遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の情景です。2015年、日本の産業化の歩みを証明するスポットとして、全国8県11市23の構成資産がユネスコの世界文化遺産に登録されました。今回は山口県「萩城下町」、静岡県「韮山反射炉」、福岡県・熊本県「三池炭鉱」を、SNSで活躍するフォトグラファー3名が旅した様子をお届け。写真家の目線で切り取った、産業遺産の魅力をたっぷりお伝えします。
summary
【山口県】もなみんさんが出合う!維新の原動力みなぎる「萩の産業化初期の遺産群」
日常の何気ない瞬間をやさしいトーンでおしゃれに切り取るフォトグラファー・もなみん(@and_mona)さんが訪れたのは、山口県萩市。幕末、萩藩(長州藩)の人々は、西洋に学び、試行錯誤しながら産業の近代化に挑みました。萩市には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」として、5つの産業化初期の遺産群があり、維新の志士たちが育った街並みが残されています。
「萩城跡指月公園(はぎじょうあとしづきこうえん)」は、慶長9年(1604)に毛利輝元が築いた萩城の跡で、毛利氏の居城があり、政治の拠点だった場所。石垣や堀が残り、弧を描く立派な天守台の上には、かつて五重の天守がそびえていました。公園の料金所で、タブレットを借りると、VRで再現された天守も見られます。
萩城跡の南側は、上級武士の武家屋敷が軒を連ねます。左右を高い土塀で囲み、道を鍵の手(直角)に曲げた独特な道筋が残る「堀内鍵曲(ほりうちかいまがり)」は、敵が攻めてきた時に、前方が見通せないように造られたものです。迷路のような道を散策して、もなみんさんもわくわく。土塀の上から特産の夏ミカンがのぞく、萩ならではの一枚が撮影できました。
外堀を越えると町並みが一変。中・下級武士の武家屋敷や町屋が並ぶ城下町が広がり、藩の御用商人だった菊屋、江戸屋、伊勢屋という商家が並んでいた横町には、それぞれの名前が残されています。白いなまこ壁が美しい「菊屋横町(きくやよこちょう)」には高杉晋作の誕生地、「江戸屋横町」には木戸孝允旧宅があり、維新の志士が育った街だと実感できます。
城下町のあるエリアから東へ約2km、松本川を渡った先の「松陰神社」境内には、吉田松陰の私塾「松下村塾(しょうかそんじゅく)」があります。幕末、維新の志士たちの精神的指導者となった吉田松陰は、身分や階級にとらわれず、塾生を受け入れ、高杉晋作、伊藤博文、山縣有朋など、明治維新の原動力となり、日本の産業化に貢献した逸材を育てました。
木造瓦葺き平屋建ての小さな小屋で、のちにビッグになる志士たちが顔をつきあわせて、自由に議論を交わしていたと、想像が膨らみます。
ふと見つけた季節の草花の写真を得意とするもなみんさん。1月の取材日、寒さに負けじと可憐な花を咲かせる紅梅・白梅を「松陰神社」境内で見つけて、パチリ。
「松下村塾」から北へ約3km、「恵美須ヶ鼻造船所跡(えびすがはなぞうせんじょあと)」へ。ここは日本で木造西洋式帆船を建設した初期の造船所でした。
黒船来航の嘉永6年(1853)、海防力の強化のため、幕府は萩藩に軍艦を建造するように命じます。萩藩はロシアとオランダという2つの異なる技術を用いて、2隻の木造帆船を建造。1カ所の造船所で2つの異なる造船技術を確認できるのはここだけだそう。当時の規模のまま石造堤防が残り、突端には旧式の灯台がぽつんとたたずんでいます。
「恵美須ヶ鼻造船所跡」では9~17時はガイドが常駐し、無料で解説が聞けるだけなく、かつての造船所を再現したVR映像がタブレットで見られます。
■萩城跡指月公園(はぎじょうあとしづきこうえん)
住所:山口県萩市堀内1-1
TEL:0838-25-1826(指月公園料金所)
営業時間:4~10月は8時~18時30分、11~2月は8時30分~16時30分、3月は8時30分~18時
定休日:無休
料金:観覧高校生以上220円
■萩城下町(はぎじょうかまち)
住所:山口県萩市南古萩町付近
TEL:0838-25-3139(萩市観光課)
営業時間・定休日:散策自由
料金:散策無料
■松下村塾(しょうかそんじゅく)
住所:山口県萩市椿東1537
TEL:0838-22-4643(松陰神社)
営業時間・定休日:見学自由
料金:見学無料
■恵美須ヶ鼻造船所跡(えびすがはなぞうせんじょあと)
住所:山口県萩市椿東5159-14
TEL:0838-25-3380(萩市文化財保護課世界文化遺産室)
営業時間・定休日:見学自由
料金:見学無料
【静岡県】Swimmyさんが出合う!大砲作りに挑んだ「韮山反射炉」
はかなげで柔らかい雰囲気の写真にファンが多いフォトグラファー・Swimmy(@327__723)さんが向かったのは、静岡県伊豆の国市。伊豆長岡駅から車で約5分。高さ約15.7m、連双2基の煙突が空に伸びる「韮山反射炉(にらやまはんしゃろ)」は、実際に稼働した反射炉のうち日本で唯一現存するもので、「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の一つです。
「反射炉」とは金属を溶かして大砲などを鋳造するための溶解炉のこと。嘉永6年(1853)、黒船来航を受け、海防体制を強化するため、韮山代官の江川英龍(えがわひでたつ)が責任者となり、建設されました。
江川英龍は蘭書を頼りに、大砲作りに挑みました。不純物のない良質な鉄を作るには、千数百℃という高温が必要。石炭などを燃料にして発生させた熱や炎を炉内の天井に“反射”させ、1点に集中させることで、せん鉄(砂鉄や鉄鉱石から作った粗製の鉄)を溶かす高温を実現する構造になっています。
溶解した鉄は出湯口から流れ出て、大砲の鋳型に注がれ、完成した大砲は試射を行った後、江戸に運ばれました。限られた資料だけで最新鋭の大砲工場を作ったなんて、当時の人たちの苦労が偲ばれます。
併設のガイダンスセンターでは、建設に至る時代背景や稼働当時の状況、現在の保存の取組みを、迫力のある映像演出で紹介。理解を深めてから実物を見ると、「韮山反射炉」の偉大さがより分かります。
「韮山反射炉」から古川をはさんだ対岸にある、自社製造の日本茶とクラフトビールなどを販売するおみやげ処「蔵屋鳴沢 反射炉物産館たんなん(くらやなるさわ はんしゃろぶっさんかんたんなん)」へ。小高い茶畑を2分ほど登ると、展望台があります。遠くには富士山が頭をのぞかせ、目の前には茶畑、左手には「韮山反射炉」も見え、静岡らしい風景が撮影できます。
展望台からの帰り道にある「蔵屋鳴沢特別展示場(反射炉館)」では、2024年4月7日(日)まで「つるし飾り雛」を展示中。子どもの成長を願って、地元の主婦が和布で手作りした人形や動物、植物の飾りがずらりと並び、素朴な表情にほっこり癒やされます。販売もされており、かわいさに魅了されたSwimmyさんは、つるし飾りと同じ技を使って作られた花飾りを購入!
「蔵屋鳴沢 反射炉物産館たんなん」から車で約7分の場所には、江川英龍をはじめとする、江戸幕府の韮山代官職を務めた江川家の屋敷「江川邸(えがわてい)」があります。重要文化財の邸宅は、主屋を中心に、表門や書院、5棟の蔵が立ち、旗本家の威容を現す立派な造り。特に慶長5年(1600)ごろ建てられた主屋は「小屋組づくり」という今でいう免震構造になっています。天井を見上げると、柱と梁が複雑に組み合わさり、圧巻。
展示では、「韮山反射炉」の建造を手がけた江川英龍について詳しく知ることができます。55年という生涯で、旗本・代官を務めながら、工学・医学・文学・芸術など、多彩な才能を見せたレオナルド・ダ・ヴィンチのような“万能人”だったそう。
江川英龍は“日本のパン祖”としても知られ、主屋の土間にはパン焼き窯が残っています。当時の日本にはパン食は普及していなかったのですが、戦争時の兵糧とするための、長期保存ができる乾パンを目指していたのだとか。
■韮山反射炉(にらやまはんしゃろ)
住所:静岡県伊豆の国市中260-1
TEL:055-949-3450(韮山反射炉ガイダンスセンター)
営業時間:3~9月は9~17時、10~2月は9時~16時30分
定休日:第3水曜
料金:一般500円、小中学生50円
■蔵屋鳴沢 反射炉物産館たんなん
(くらやなるさわ はんしゃろぶっさんかんたんなん)
住所:静岡県伊豆の国市中272-1
TEL:055-949-1208
営業時間:9~17時
定休日:無休
■江川邸(えがわてい)
住所:静岡県伊豆の国市韮山韮山1
TEL:055-940-2200
営業時間:9時~16時30分、水曜は9~15時(最終受付は各15分前)※2024年4月1日以降は9時~16時30分(最終受付は16時15分)
定休日:水曜(2024年3月は無休)
料金:一般650円、小中学生300円(韮山反射炉との共通券は一般800円、小中学生250円)※2024年4月1日以降は一般750円、小中学生300円(韮山反射炉との共通券は一般900円、小中学生250円)
【福岡県・熊本県】ryo tabiさんが出合う!炭鉱マンの息吹にふれる「三池炭鉱」
日本全国を旅して、自然の風景をドラマチックな一枚に切り取るryo tabi(@ryopg8_tabi)さん。「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」の石炭産業に関する遺産の一つ、福岡県大牟田市・熊本県荒尾市の「三池炭鉱(みいけたんこう)」を旅してきました。
明治初期、蒸気機関車や製鉄の高炉には燃料として石炭が必要でした。石油に切り替わる1950~1960年代まで、“黒いダイヤ”として重宝され、日本のエネルギーを支え続けたのは石炭だったのです。
「三池炭鉱 宮原坑(みいけたんこう みやのはらこう)」の第二竪坑は明治34年(1901)に完成。当時の採炭現場で最大の問題は、掘る際に湧き出る水でした。最新鋭の排水ポンプを備えた第二竪坑では、深さ約160mの竪坑から坑内水をくみ上げ、より深い場所での採炭ができるようになりました。その成功もあり、出炭量が増加し、「三池炭鉱」は大きく発展していったのです。
平成9年(1997)に「三池炭鉱」は閉山しましたが、第二竪坑櫓と第二竪坑巻揚機室などの赤レンガの建物が残されており、常駐する無料ガイドが施設内を案内してくれます。
「三池炭鉱 宮原坑」とあわせて立ち寄りたいのが、すぐそばにある「三池炭鉱専用鉄道敷跡(みいけたんこうせんようてつどうじきあと)」。採炭した石炭などを運搬するため、鉄道が大牟田市の各坑口や荒尾市の「三池炭鉱 万田坑(みいけたんこう まんだこう)」を結び、積み出し港である「三池港(みいけこう)」までU字形に走っていました。
明治初期は馬車鉄道で石炭を運び、中期には蒸気機関車、後期には電気機関車に変わったのだそう。線路は撤去されていますが、一部の区間では枕木が見られ、赤レンガの古いトンネルや諏訪川に架かる橋梁も、鉄道敷の名残りです。
「三池炭鉱 宮原坑」から諏訪川や県境を越えた場所にある「三池炭鉱 万田坑」。展示施設・万田坑ステーションではVRで坑内の仮想体験が楽しめ、1日6枠ある無料ガイドツアーも行われているので、予備知識がなくても、歴史的な価値や役割がよく分かります。
第二竪坑櫓や第二竪坑巻揚機室、倉庫、ポンプ室、浴室、事務所など、みどころがいっぱい。坑内作業員は第二竪坑口からケージという定員25名のエレベーターのかごに乗って、地下約264mの坑底までの間を昇降。レンガ造りの第二竪坑巻揚機室2階には、ワイヤーロープでケージを昇降させる巻揚機もあります。
「ご苦労さん」と書かれた看板や工具などがそのまま残され、当時の様子が伝わってきます。坑内は湿度約90%、温度約30℃にもなる厳しい環境でした。また、炭鉱は命にかかわる事故災害に巻き込まれる可能性のある危険な仕事場。働く人たちは仕事の前に山ノ神の祭壇に一礼し、安全祈願していたのだとか。
「三池炭鉱」で生産された石炭を効率的に運搬し、輸出するため築港されたのが「三池港」です。港のある有明海は遠浅で、5m以上の干満差があるため、大型船の入港ができません。水量を調節する閘門(こうもん)を造り、干潮時でも大型船が接岸できるようにしました。パナマ運河と同じ閘門式の観音開きの扉は、100年以上経った今も現役で、「三池港」は国内外の貿易港として活躍しています。
ビュースポットは、土・日曜、祝日を中心にガイドがいる「三池港展望所」や、三池港と島原港を結ぶ高速船乗り場の「三池港あいあい広場」。港湾内は波が少なく、夕日が海面に映り、オレンジの道のような絶景が見られることも!
■三池炭鉱 宮原坑(みいけたんこう みやのはらこう)
住所:福岡県大牟田市宮原町1-86-3
TEL:0944-41-2750(大牟田市観光おもてなし課)
営業時間:9時30分~17時(最終入場は16時30分)
定休日:月曜
料金:見学無料
■三池炭鉱専用鉄道敷跡(みいけたんこうせんようてつどうじきあと)
住所:福岡県大牟田市、熊本県荒尾市
TEL:0944-41-2515(大牟田市世界遺産・文化財室)、0968-63-1274(荒尾市文化企画課世界遺産・文化交流室)
営業時間・定休日:見学自由
料金:見学無料
■三池炭鉱 万田坑(みいけたんこう まんだこう)
住所:熊本県荒尾市原万田200-2
TEL:0968-57-9155(万田坑ステーション)
営業時間:9時30分~17時(最終入場は16時30分)
定休日:月曜(祝日の場合は翌日)
料金:入場大学生以上410円
■三池港(みいけこう)
住所:福岡県大牟田市新港町
TEL:0944-41-2750(大牟田市観光おもてなし課)
営業時間:三池港展望所は見学自由(ガイドは土・日曜、祝日の9時30分~17時)※閘門等稼働施設は非公開
定休日:三池港展望所は見学自由
料金:三池港展望所は見学無料
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住所:東京都新宿区若松町19-1 総務省第二庁舎別館
TEL:0120-973-310
営業時間:10~17時(最終入館は16時30分)
定休日:土・日曜、祝日
料金:入館無料
※公式サイトから要予約
Photo:もなみん、Swimmy、ryo tabi
Text:伊藤あゆ
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