【おとなのソロ部】「市谷の杜 本と活字館」で活版印刷と本作りの魅力を体感するひとり時間

【おとなのソロ部】「市谷の杜 本と活字館」で活版印刷と本作りの魅力を体感するひとり時間

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活版印刷をご存じですか? 金属の小さな棒に文字が刻まれた「活字」にインクを付けて印刷する、明治から昭和中期にかけて広く普及した印刷技術です。デジタル入稿が主流となった現在、昔ながらの機械と手仕事によるアナログ感や、レトロな文字の風合いが人気を集めています。そんな印刷の原点ともいえる活版印刷と、本作りをテーマにした文化施設「市谷の杜 本と活字館(いちがやのもり ほんとかつじかん)」が市ケ谷にあると聞き、訪れてみました。修復された大正期創建の建物も素敵で、本や文字、機械好きはもちろん、レトロ建築好きにもおすすめのスポットです。

Summary

作業体験も! 印刷工場を再現した空間で本作りの流れを知る

2020年に誕生した文化施設。通称・時計塔とよばれていた営業所棟は大正15年(1926)に竣工
2020年に誕生した文化施設。通称・時計台とよばれていた営業所棟は大正15年(1926)に竣工

東京メトロ市ケ谷駅、都営地下鉄牛込神楽坂駅から徒歩10分、JR・都営地下鉄市ケ谷駅から徒歩15分。「市谷の杜 本と活字館」は、明治19年(1886)に建てられた大日本印刷(当時の社名は秀英舎)の市谷工場に隣接する営業所棟を利用した文化施設です。リアルファクトリーをコンセプトに、かつての印刷工場の一部を再現した館内で、活版印刷の技術や本作りを見学・体験することができます。

1階は活版印刷の作業場を囲むように展示を行うがされている
「印刷所」で作業する職人の様子も見ることができる

1階は、職人が活版印刷の作業を行う「印刷所」を囲むように、本ができあがるまでの流れを6つの工程で展示するほか、コーヒーや焼き菓子を販売する「喫茶」も併設されています。
地階には、大日本印刷の歴史をタブレット端末で閲覧できる「記録室」、2階には「市谷の杜 本と活字館」オリジナルの印刷物を作れる「制作室」、企画展を開催する「展示室」、紙雑貨や本を販売するショップもあります。入館は無料で、予約が必要なワークショップのみ有料です。

1階で活版印刷による本作りの流れを見ていきます。まずは【作字】という作業。1文字ずつ手描きで原図を作成して、活字の型となる母型を機械で彫刻するところから始まります。書体は大日本印刷の前身、秀英舎時代に開発されたオリジナルの秀英体。現在はデジタル化され、紙の本はもちろん、電子書籍やWEBでも幅広く使われています。

活字を鋳造する「万年自動活字鋳造機」
活字を鋳造する「万年自動活字鋳造機」

続いて活字を量産する【鋳造(ちゅうぞう)】という作業です。鋳造機に必要な大きさの母型をセットして、そこに鉛合金を流し込んで冷却すると、活字ができあがります。

写真右、四角柱の先端に文字が左右反対に浮き彫りされているのが活字です。ひらがな、カタカナ、漢字、数字、ローマ字、記号など、市谷工場には約30万本の母型がありました。1冊の本を作るために、膨大な数の活字が使われることに驚きます。

棚に並ぶ8ポイントの活字
棚に並ぶ8ポイントの活字

館内にある活字の大きさは“ポイント”とよばれ、4から40まであります。出版物の本文は8から10ポイント、書籍のタイトル(見出し)は40ポイント、ルビは4から5ポイントを使うことが多いそうです。

1階の活版印刷作業場にある棚(ウマ)。ひとりの職人が使う棚は3列4〜・5段、約2500字
「印刷所」の活字棚(ウマ)。ひとりの職人が使う棚には約2500の活字がある

できあがった活字は文字を拾うための棚(ウマ)に使用頻度と文字種、部首によって配列されます。手に取りやすい中央に「ひらがな」がいろは順に配置され、漢字は「大出張」「出張」「小出張」と使用頻度によって分けられています。また、元号や漢数字、都道府県の住所に使う文字は「袖」という区分に収められます。
ここから原稿どおりに活字を拾う工程【文選】が、職人の手によって進められます。

透明モニターには職人が文選するシーンが映し出される。文字の大きさや書体が指定された原稿と文選箱という活字を入れる箱を持ち、拾っていく
透明モニターには職人が文選するシーンも映し出される、文選体験コーナー。職人は文字の大きさや書体が指定された原稿と文選箱という活字を入れる箱を持ち、拾っていく

職人気分で「文選」を体験できるコーナーを発見。お題は、夏目漱石の小説『坊ちゃん』の冒頭の活字(22文字)を探すこと。見つけたら透明モニターをタッチし、2分間で何文字拾えるかをゲーム感覚で楽しめます。

実際の文選は、読みにくい手書き原稿もあり、文脈から読み取ったりしていたそう
PCやタブレットがない時代、原稿は全て手書きだった

文字の配列を頭に入れスタートしましたが、活字の多さと細かさ、さらには逆文字なのでそう簡単には見つかりません。時間が経過するにつれて、どのあたりにあるかヒントが出てきて、ようやく発見。「親」「譲」「り」の3つの活字を拾うまでそれぞれ約30秒。

「砲」はさらに時間がかかり、1分経っても探し出すことができませんでした。結果、制限時間内で拾えたのは7文字でした。
熟練した職人がひとつの活字を拾うのにかかる時間は2~3秒といわれていて、1分もかかりません……。1時間でおよそ1500字! 数多くの本や雑誌、特に週刊誌の大量発行には重要なスピード感、まさに職人技です。

実際に使われていた植字する作業台を展示
実際に使われていた植字台を展示
活字が組み込まれた組版。崩れないようにタコ糸で縛る
活字が組み込まれた組版。崩れないようにタコ糸で縛る

活字を指定通りのレイアウトにする作業を【植字】といいます。ステッキという道具に文選箱の活字を入れ、そこに句読点やルビ、印刷されない行間、文字間といった余白を埋めるなどの細かい作業を1ページずつ行い、組版を完成させます。

印刷所にある戦前に製造された平台印刷機(平らな台に紙をのせて印刷する機械)
印刷所にある戦前に製造された平台印刷機(平らな台に組版をのせて印刷する機械)

組版ができると、ページ割りを揃えて印刷機に組版をセットし、インクを付けて紙に刷る【印刷】の工程です。実際には、本刷りに入る前に試し刷りをして、間違いがないか校正をとり、出版社でもチェックします。文字などに修正が必要であれば、活字を拾い直し、ピンセットで活字を差し替えて校正作業完了とします。ちなみに、印刷し終えた組版の活字は再利用せず、溶かして新しい活字を作ります。

最後の工程は、紙を本の形状にする【製本】です。製本にはいくつかの方法があり、そのひとつに、印刷してたたんだ紙を糸でかがる方法があります。展示されている糸かがり機は、1折(8ページまたは16ページをたたんだもの)ずつ穴を開けて糸を通して綴じる機械です。最後に表紙を付ければ完成。

ソロおすすめPoint
いくつもの工程と職人の技によって1冊の本ができあがるというかつての本作りを体感できました。これもひとりでじっくり見て回れたからこそ得られた体験です。かつての工場を再現した印刷所を眺められるのも、かなり貴重です。また、創業時の姿に復元された建物もレトロモダンそのもので、柱や天井などじっくり見て回りたくなる魅力があります。


制作室の卓上活版印刷機でしおり作りを体験

印刷機器を使ってオリジナルの印刷物を作れる「製制作室」
印刷機器を使って「市谷の杜 本と活字館」オリジナルの印刷物を作れる「制作室」

1階で本作りの流れを見て回ったので2階へ移動。すると、「卓上活版印刷機 しおり印刷体験」の案内が目に入りました。誰でも無料で参加できるとのことで、早速スタッフに声をかけて体験。

イギリス製の卓上活版印刷機
イギリス製の卓上活版印刷機

卓上活版印刷機についての説明を受けました。通称「テキン」とよばれる手動式の印刷機で、名刺やポストカードなどの小さな紙への印刷に使用されます。まず、円盤状のインク台から版にインクが均等にのるように、両手でローラーを持ち4回ほど上下させます。次に、しおりの紙をセットし、ローラーを下まで強く1回押すと、版がしおりに押し付けられ、印刷が完了。スタッフの丁寧な説明のおかげで、初心者でも簡単に作業ができました。

企画展「発見!雑誌づくり工場」をイメージしたしおり
企画展「発見!雑誌づくり工場(無線とじ編)」をイメージしたしおり

黒色のキャラクターが卓上活版印刷機で印刷した部分。ローラーを上下させてインクを塗り付ける時のガチャンというアナログな音も味があって好きになりました。

ソロおすすめPoint
しおり印刷体験は予約不要、空いていれば即参加できます。スタッフがマンツーマンで印刷機の使い方を教えてくれるので、おひとりさま向きです。しおりのデザインは企画展ごとに変わるので、何度体験しても楽しめそう。

 

 

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