【クーポン付き】代官山の素敵イタリアンでペアリングデートストーリー
素敵なレストランが予約できるサイト「るるぶモール」の掲載レストランを舞台としたグルメ小説。今回の舞台は代官山の「RESTORANTE YAGI」。最後まで読んでくださった方の中から先着30名様には、特別に「るるぶモール」の対象店で利用できる10%OFFクーポンをプレゼント!是非最後までお楽しみください。
思えば僕と彼女はなにもかもが正反対だ。
彼女はアウトドア派で僕はインドア派。
彼女はスタートアップの企業でどんどん新しい仕事に挑戦するタイプだが、僕は昭和から続く小さな会社で経理一筋で地道に働くのが好きだ。
彼女はお酒大好きで僕はほぼ下戸。
朝ごはんは、彼女はパン派で僕はご飯派。
ちょっと笑ってしまうほど、共通点がない。
強いて言えば、ふたりとも「美味しいものを食べるのが好き」。そんなわけで今日はふたりでディナーに来たのだが、せっかく素敵なお店を予約したというのに実にくだらないことでケンカになってしまった。
「時間節約のためにちょっとタクシーに乗るのは当たり前。それくらいで文句を言わないで」と彼女は言う。
確かにこの店は、渋谷からも、代官山からも、神泉からも、駅からはちょっと距離があるーーでも、敢えて徒歩で行くのがいいんじゃないか。都会の喧騒から一本外れた途端に閑静で特別な雰囲気が漂う街並みになる。そんな場所にあるお店にタクシーで乗り付けるなんて、ちょっと無粋なんじゃないかな。
そんな些細なことで言い合いになってしまい、ちょっとムッとした空気の中でこの日のディナーは始まってしまった。今日は付き合い始めて3年目の記念日。ふたりとも憧れていた「メニューのない店」を予約したのにこんな雰囲気になってしまうなんて、僕たちはやっぱり根本的に合わないのかもしれない…地下にあるのに開放的な店内で、僕の心は逆に閉塞感に包まれてしまった。
この店には、料理のメニューは存在しない。あるのは食材のメニューだけ。ああ、くだらないことでケンカさえしなければ、彼女とメニューを見ながら「マナガツオとカツオの違い」について話しながらワクワクしていたに違いない。僕がもうちょっと大人になって、思ったことをすぐに口にしなければこんなことにはならなかったのに…。
僕は後悔やら落胆やらですっかり疲れた気持ちになってしまった。彼女も無表情にシャンパンを飲んでいて、空気はだいぶ重い。そんな中、最初のメニューがやってきた。食材を見ると、「宇和海産真鯵・トリュフ卵・ストラッキーノ」とある。
聞けば、ストラッキーノとは、イタリア語で「ぐったりした」という意味のチーズとのこと。
「ぷっ…」
何もかも正反対な僕たちは、期せずして同じタイミングで吹き出してしまった。
「なんか、せっかくの日にこんなになっちゃって、ぐったり疲れたなあ、って思ったとこに、ぐったりっていうチーズでおかしくなっちゃって」
「……俺もちょうど同じこと思ってたとこ」
チーズのお陰で、コース料理の序盤に重苦しい空気から開放されることができた。彼女は下戸の僕を尻目に、料理ごとに別のワインを1杯ずつ楽しんでいる。
「こういうワインの頂き方、すごく好きなんだよね」
下戸でワインを飲めない僕に、彼女は説明してくれた。
「コース料理のお皿ごとに、お店がピッタリのワインを選んでくれるの。確実にピッタリのワインを楽しめるから、ワイン好きにはたまらないんだよ。」
飲めない僕にとっては実に羨ましい話である。
「ほら、ふたりだと、いつもいろいろな種類のワインは飲めないから…ボトルで頼んでも飲みきれないし」
「それって下戸の俺と一緒だと十分楽しめないってことだよね…?」
と、僕は喉元まで出かかった言葉をすんでのところで飲み込んだ。せっかく沈黙からは開放されたんだ。大人になれ、僕。
「あと、自分では絶対に選ばないようなワインも飲めるし、食材との意外な相性も知ることができるんだよね。やっぱり、意外性って面白くて楽しい!」
意外性…思えば、僕と彼女も、真反対すぎて意外性に満ちているかもしれないな、とふと思う。彼女のアウトドア趣味に付き合って山にキャンプに行った時に見上げた星空。自分が星を見てあんなに感動を覚えるなんて想像もしなかったし。ただ、もう登山は二度とごめんだけど…。
「こういうワインの頂き方、『ペアリング』っていうんだって。ワインと料理、それぞれ単体でも美味しいんだけど、一緒に味わうともっと美味しくなるんだよ」
「合わさると美味しくなるんだ。ペアリング…」
ペアリング、そんな響きにハッとして、僕はまた言葉を飲み込む。
「……いま、俺とお前みたいだな?とかキザなこと言いそうになったでしょ?」
「ないない。絶対そんなことない。」
「いや、いま絶対に上手いこと言いそうになった顔してた」
「絶対にないから!」
彼女は料理とワインのペアリングを、僕は料理とオススメのソフトドリンクを楽しむうちに、すっかり違う方向で言い合いになってしまった。
実は、僕はペアリングの存在は知っていた。あるサイトでこのお店を予約した時に、最初は「ワインのペアリングコースを2名分」で予約をしたんだ。
でも、お店に失礼があったら怖いなと思って、備考欄に「ひとりはほぼ下戸なので、途中でソフトドリンクをお願いするかもしれません」と弱気なコメントを入れた。すると、すぐにお店が連絡をくれたんだ。「お酒がそこまで飲めないということですと、だいぶ損されてしまいます。お料理だけのコースにご変更頂けますか?別途、おひとり様だけにワインのペアリングをつけさせていただきます」。
そんなお店の気遣いもあって、3年目の記念日は、「ペアリング」でいつの間にか楽しい夜になった。もちろん、彼女がお手洗いに立ったスキにお店にタクシーを一台お願いしたのは言うまでもない。
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